感染症学雑誌
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61 巻, 5 号
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  • 岡崎 則男, 明間 鯉一郎, 滝沢 金次郎
    1987 年 61 巻 5 号 p. 547-554
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    1983年1月-1985年12月の3年間に神奈川県において, 異型肺炎患者493名の咽頭スワブを検体とした, 分離検査によるMycoplasma pneumoniae (M.pn) 肺炎調査を実施した.同時に分離培地の検討を行った.
    1983年23例 (分離率24%), 1984年115例 (51%) および1985年35例 (20%) の計173例 (35%) の患者からM.pnが分離された.分離率の最も高かった1984年の月別分離成績から, 本県ではこの年の7月をピークとして, 6-11月に亘るM.pn肺炎流行が認められた.
    M.pn肺炎例の出現は, 流行前年の後半から7-9歳を主とした学童間に始まり, 流行年の6月になると, これらの学童間でまず増加した後, やや遅れて7, 8月の夏期休暇中に他の年齢層の小児へと広まる様相がうかがえた.これらのことから, M.pn感染が7-9歳の学童により家族内に持ち込まれ, 夏期体暇中に家族内感染が頻発し, 夏期にピークをもつ流行となったものと推察された.
    M.pn肺炎例は7歳をピークとして4-12歳の小児に多く, 3歳以下では少なかった.また異型肺炎に占める本肺炎の比率は小児の年齢とともに上昇する傾向があった.
    咽頭スワブからのM.pn分離には, 従来の非加熱ウマ血清加二層培地より加熱 (56℃, 30分) ウマ血清加二層培地がやや良好であった.また, 卵黄培地およびγ-グロブリン除去コウシ血清加二層培地はいずれもM.pn分離に利用可能であり, 加熱ウマ血清加二層培地に比べ分離率はやや劣ったものの, 培養日数を短縮する効果を発揮した.
  • 甲田 雅一, 熊谷 郁子, 小林 準一, 松崎 廣子, 中谷 林太郎
    1987 年 61 巻 5 号 p. 555-560
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    溶血連鎖球菌, その中でも特にA群溶連菌は, 猩紅熱, リウマチ熱, 続発性糸球体腎炎等の原因菌として重要である. しかし, 本菌は健康人の咽頭からもしばしば分離されるので, 少量の菌の存在と疾患との関連性は不明確とされている. 従って, 本菌検出のために選択増菌培養を併用する検査施設は少ない.
    我々は, 小児咽頭培養に溶連菌選択増菌培養を併用して, 溶連菌検出率を高めることの意義について検討した. その結果, 増菌培養によってのみ検出されるような場合においても, A群溶連菌が疾患と密接な関連性を持つ場合もみられた. このことから, 受診のため来院するような有症患児においては, 溶連菌選択増菌培養を従来法に併用する価値は充分にあるとの結論を得た.
  • 保科 清, 鈴木 葉子, 天野 祐治, 小野川 尊
    1987 年 61 巻 5 号 p. 561-566
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    新生児B群溶連菌感染症の発症予防をするために, 妊婦のB群溶連菌に対する血中抗体価特にIII型の測定および産道の培養を行った.
    抗体価の測定には妊娠初期に採血し, ELISAで測定した.産道の培養は妊娠中期および後期に行った.
    測定は, TCA抽出による型特異的抗原と, 抗ヒトIgGヤギ血清と結合したhorse radish peroxidaseによるELISAを確立した.この測定法による測定間および測定内の変動係数は各々7.8%, 5.6%と, 簡便で再現性も良い.測定できた994例の平均および標準偏差は0.311+/-0.196で, +1SDに当たる0.507以上を抗体保有者とすると, 抗体保有者は125例 (12.6%) であった.
    産道培養ができている297検体で, B群溶連菌の陽性は35検体 (11.8%) であり, その陽性検体中III型は4検体 (11.4%) であった.
    III型保菌者の抗体価を見ると, 非保菌者と比較してむしろ低い例も認められ, このような例は注意深く経過観察する必要がある.
  • 河野 茂, 増山 泰治, 道津 安正, 宮崎 幸重, 古賀 宏延, 横山 一章, 田浦 幸一, 原田 孝司, 山口 恵三, 泉川 欣一, 広 ...
    1987 年 61 巻 5 号 p. 567-573
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    血友病患者および腎疾患患者さらに健常献血者において成人T細胞白血病 (ATL) や後天性免疫不全症候群 (AIDS) の感染の有無を明らかにする目的で, ELISA法により抗HTLV-I抗体と抗HIV抗体の測定を行った. 抗HTLV-1抗体に関しては, 血友病患者では13例中4例 (30.8%) に, 腎疾患患者では75例中21例 (28.0%) に, また健常献血者では500例中12例 (2.4%) に陽性例を認めた. 抗HIV抗体の測定には, AbbottとLittonの両キットを用い比較検討を行った. 両キットによる抗体価には有意の相関が見られたものの, 偽陽性が588例中前者で16例 (2.7%), 後者で5例 (0.9%) にみられた. 抗HIV抗体は血友病患者では13例中10例 (76.9%) に陽性であったが, 腎疾患患者や健常献血者では, まったくみられなかった. また抗HIV抗体陽性例では陰性例に比し, OKT4/8比は0.86と有意の低下がみられた.
  • 大久保 彰人, 福吉 成典, 高橋 克巳, 角 典子, 松尾 礼三, 渡辺 邦昭, 小野 哲郎, 河野 喜美子, 御供田 睦代
    1987 年 61 巻 5 号 p. 574-580
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    患者発生の地域的波及拡大, 即ち, 逐域伝播現象に関する調査を, 昭和60年から61年のインフルエンザの流行期に九州本島で行った. 福岡県内の行政単位を基準とした36区域から成るパーソントリップ調査の集約Bゾーンで, 人の流動量と伝播速度 (人の流動量の増加に伴い発生月日も早くなるという傾向) の単相関係数は, B型インフルエンザ流行時に北九州市小倉北区を起点とした場合のr=-0.355 (n=33) と, A型 (H3N2) 流行時に本州方向及び北九州市戸畑区を起点とした場合のそれぞれr=-0.409 (n=30), r=-0.409 (n=24) が危険率5%で有意な相関であった. さらに, 人の流動量等を参考にしながら, 九州本島のB型及びA型 (H3N2) の流行期における, 学校施設の休校または学級閉鎖にともなうインフルエンザ様疾患発生報告を基にして, 等値線法により, インフルエンザの流行伝播の様子を地図上に描写する試みを行い, 広範囲の流行波及を視覚化した. 九州の南部と北部という地域的な面, そして, B型とA型 (H3N2) という流行ウイルス型的な面から, その流行伝播等値線のパターンに差異がみられた.
  • 黒木 俊郎, 渡辺 祐子, 山井 志朗, 滝沢 金次郎
    1987 年 61 巻 5 号 p. 581-586
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    病原性ナイセリア属菌種の鑑別およびβ-lactamase産生試験に用いられるGonochek-II (E・Y Laboratories, INC.) の有用性を検討した.Gonochek-IIはMTM培地等の選択培地に集落形成が可能な病原性ナイセリア属菌種のそれぞれが持っている酵素に注目し, それらの酵素に対する発色性基質の示す色の差を鑑別に利用している.1本の試験チューブに菌を浮遊し, 37℃, 30分の静置で判定が可能となる.またβ-lactamaseの検出には専用のチューブを用い, 菌種鑑別と並行してβ-1actamase産生の有無を同様に試験することができる.私たちが保存しているN.gonorrhoeae114株, N.meningitidis 55株, N.lactamica 10株, M. (B.) catarrhalis 9株について本キットを用いて鑑別を行なったところ, N.meningitidisの1株を除いてすべて正しく判定された.N.gonorrhoeaeM. (B.) catarrhalisのβ-lactamase産生能も正しい結果が得られた.選択培地で分離培養された病原性ナイセリア属菌種の鑑別は, Gonochek-IIによりきわめて迅速にかつ簡便に実施でき, 正確な結果が得られ, しかも本キットは経済的である.さらにβ-lactamase産生を同時に観察可能なことから, Gonochek-IIキットは非常に有用性の高い迅速同定試薬といえる.
  • 田島 マサ子, 武田 史子, 安田 和人, 竹島 寿男, 沖永 功太
    1987 年 61 巻 5 号 p. 587-595
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    特異的なCMV-IgM抗体を検出することでCMV感染の迅速診断ができる. しかしIgM抗体測定にはリュウマチ因子 (RF) による非特異的反応が問題になる. そこでRFによる非特異的反応が少ない, Captured-ELA (IgM-ELAキット) で, IgM抗体に分画した患者血清と, CMV感染患者のペア血清を用いて, IgM抗体測定の特異性について検討した. 更にCMV抗体陽性の新生児について, IgM抗体の保有率を調べた.
    1) ELAキットはRFには非特異反応が見られなかった. 2) 分画IgM抗体を用いた測定でもELISA法と比較して検出感度に差がなかった. 3) 初感染の乳幼児の成績ではウイルス分離とIgM抗体の検出は一致した (6/6名). 4) CMV感染例のペア血清で, CMV-IgM抗体測定の特異性が確認された. 5) CF抗体保有の新生児でのIgM抗体の保有率は, 出生後13日以内で11.7%, 30日で31%であった. これらIgM抗体陽性の新生児 (生後13日以内) はCF抗体価に相関性は見られなかった. 以上の成績からIgM抗体-ELAによるIgM抗体測定はCMV感染の迅速血清診断として使用できるという結論を得た. また免疫の低下が見られる急性リンパ性白血病の寛解されない例で, 肝障害と共にIgM抗体および高CF抗体が長期 (2年間) 持続する症例を経験した.
  • 児玉 和也
    1987 年 61 巻 5 号 p. 596-605
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    リケッチア感染症における免疫学的防御機構を研究する目的で, Rickettsia tsutsugamuski Gilliam株免疫マウス脾細胞をリケッチア抗原, filler細胞の存在下に長期培養し, 得られたT細胞株の性状を検討した.
    3H-thymidineの取り込みを用いたリンパ球増殖反応において, この細胞株はGilliam抗原と特異的な反応を示し, Karp抗原とは部分的な交叉反応を示したが, Kato抗原とは反応を示さなかった. また, その増殖反応に遺伝的拘束性を認めた.
    Flow cytometryを用いた検索では, Thy1.2抗原陽性, L3T4抗原陽性, Lyt2抗原陰性であり, ヘルパーT細胞の性格を示した.
    このT細胞株のインターフェロン産生能をL細胞-VSV系を用いて検討した結果, その抗原刺激培養上清中に抗原特異的にインターフェロン活性を認め, その性状より, γ-インターフェロンと考えられた.
    また, このT細胞株を移入されたマウスは, 102LD50のGilliam株の攻撃に対して防御効果を示した. 以上のことから, リケッチア感染における防御機構においては, 抗原特異的なヘルパーT細胞が重要な役割を担っており, さらにこの細胞株によって, マクロファージ活性化因子のひとつであるγ-インターフェロンが抗原特異的に産生されることが示された.
  • 本邦報告例の統計的観察
    金子 保, 松本 裕, 池田 大忠, 伊藤 章, 大久保 隆男
    1987 年 61 巻 5 号 p. 606-614
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    SLEの経過中に発症した肺ノカルジア症を2例報告した. いずれの症例も長期間のステロイドの内服あり, 発症後, 喀痰中からN. asteroidesを検出した. minocyclineとST合剤の投与により軽快したが, 症例1は6ヵ月後再発した.
    本邦における内臓ノカルジア症の報告は増加する傾向にあり, その大半は免疫不全患者に発症している. 本症の予後は, 基礎疾患の重症度とともに, 中枢神経系の合併症の有無によって大きく左右される. 本症には有効な薬剤があるだけに, 免疫不全患者に発症した場合も治癒が期待でき, 早期診断・早期治療に努めることが必要と思われた.
  • 篠崎 史城, 佐田 栄司, 安川 正貴, 塩坂 孝彦, 藤田 繁, 小林 譲
    1987 年 61 巻 5 号 p. 615-618
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    症例は84歳, 男性. 無職. 愛媛県松山市生まれ, 1985年3月, 左鼡径部に膿瘍を形成し, 自潰した. 同年4月より全身のリンパ節腫脹と頚部・鼡径部に瘻孔を認めるようになり, また全身に皮疹が出現したため6月5日当科に入院した.
    膿の細菌学的検査ならびにリンパ節生検にてクリプトコックスが検出され, 皮疹より白癬菌が検出された. 入院時より末梢血の白血球数は正常であったが, 分類で核の切れ込みや分葉を示す異常リンパ球が最高8%認められ, それらはEロゼットを形成した. 抗ATLA抗体陽性, 遅延型皮膚反応陰性, 末梢血リンパ球のT・B細胞分画正常, 細胞表面マーカーはOKT4が増加し, OKT8が低下し, リンパ球幼若化能 (PHA, PWM) および免疫グガリン産生能も低下していた. 血清Ca値, LDH値は正常. 骨髄像, 髄液検査はともに異常なかった.
    治療はクリプトコックス症に対してフルシトシン (5-FC) の投与と体部白癬に対して抗真菌剤の塗布を行い症状の軽快をみた.
    以上より, 本症例は, いわゆるくすぶり型ATLで, 免疫能の低下を基盤として全身性クリプトコックス症および体部白癬を合併したものと考えられた.
  • 石原 尚志, 柳瀬 義男, 五十嵐 英夫
    1987 年 61 巻 5 号 p. 619-623
    発行日: 1987/05/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    生理中にタンポンを使用していた16歳女性が, 高熱, 咽頭痛を訴え, さらに典型的なToxic shocksyndromeの症状を呈した. 迅速な治療により患者は徐々に改善し, 第12病日までには急性期の症状は消失した. 体幹の枇糖様落屑と四肢末端部の膜様落屑が回復期に認められた.使用したタンポンと膣分泌物より黄色ブドウ球菌が分離された. この分離株はtoxic shock syndrome toxin-one産生性で, コアグラーゼVII型であった. 本症例は生理中のタンポンと膣分泌物から毒素産生性黄色ブドウ球菌が証明された本邦第1例と思われた.
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