背景:日本では抗菌薬の多くが診療所で処方されているが,その現状や医師の意識はあまり知られていない.
目的:診療所医師の抗菌薬適正使用の現状や意識について調査する.
デザイン:診療所医師を対象としたアンケート調査.
方法:日本全国の診療所から無作為抽出した1,500診療所に医師を対象とするアンケートを送付した.
結果:回収数274回収率18.3%)のうち調査に同意した269通を集計の対象とした.アクションプランや抗微生物薬適正使用の手引きの認知度は低かったが,抗菌薬適正使用についての認識や意識は高かった.感冒や急性気管支炎に抗菌薬を処方している医師が一定数おり,最も処方されているのはマクロライド系抗菌薬であった.処方の背景には医師の知識だけでなく医師患者関係など複雑な要因があることが示唆された.
結論:診療所医師の知識向上に加え,医師患者間のコミュニケーション改善などさまざまな手法で外来での抗菌薬適正使用を推進していく必要がある.
2009年から2017年までに東海ブロック(愛知県,静岡県,岐阜県,三重県)のHIV/AIDS診療拠点病院を受診したHIV-1新規診断症例から分離されたHIV-1非サブタイプBの動向と伝播性薬剤耐性変異の頻度について解析を行った.
東海ブロックで検出された非サブタイプBは11.2%を占めていた.CRF01_AE,サブタイプC,CRF02_ AGが多く,その他にサブタイプA,F,G,ならびにBF組換えウイルスが検出された.推定感染場所は,CRF01_AE,サブタイプC,CRF02_AGいずれも国内が多かった.特にCRF02_AGの感染症例が東海ブロックで増えており(1例:2009~2011,4例:2012~2014,7例:2015~2017),分子系統樹解析から12 例中8例のウイルスは一つの伝播クラスターを形成していた.この伝播クラスターの感染経路は同性間,異性間,同性・異性間性的接触であり,複数のハイリスク集団に急速に伝播していると思われた.
非サブタイプB,伝播性薬剤耐性ウイルスに感染した症例の割合は8.0%と,国内の報告に比べ低い傾向であった.治療薬の作用機序別でみると,核酸系逆転写酵素阻害剤が3.6%,プロテアーゼ阻害剤が3.6%,非核酸系逆転写酵素阻害剤が1.8%であった.しかしCRF01_AE症例に限ってみると伝播性薬剤剤耐性ウイルスの割合は13.2%と高く,アジアでの感染が推測される症例から多剤耐性ウイルスが検出された.国内でオリンピック等の国際的なイベントの開催や,外国人観光客の急激な増加,外国人就労拡大により,今後国外で流行するHIVによる感染症例が増加する可能性が非常に高い.感染予防策を講じる上で,東海ブロックで流行するHIV-1の傾向ならびに伝播性薬剤耐性に関する分子疫学調査をさらに強化していく必要があると思われた.
腸球菌感染症が想定される場合,バンコマイシンが初期治療に用いられる.ペニシリン感受性と後日報告された場合でもバンコマイシンは数日間投与されるので,耐性菌の選択や不要な副作用の出現につながる.なかでも,ペニシリン感受性のEnterococcus faecalis 菌血症ではペニシリン系抗菌薬に比較してバンコマイシンなどのグリコペプチド系薬での治療は30日後総死亡率が高いことが報告されている.このような背景から,E. faecalis などのペニシリン感受性腸球菌を迅速に判定できる方法が必要であるが,質量分析法や遺伝子検査法による菌種同定は高額であるため導入は容易ではない.そこで我々は,グラム染色所見で「落花生サイン」の有無を観察することで,ペニシリン感受性腸球菌を推定する手法を考案し,その検査特性を検討した. 血液培養陽性検体のグラム染色標本の顕微鏡検査(以下,鏡検と略す)で,莢膜を有さない,両端が尖った楕円形で長軸方向に連鎖しているグラム陽性双球菌のうち,あたかも落花生の殻のように菌体の中央両側に連鎖軸と直行する対称性の切痕が確認できる所見を「落花生サイン」ありと定義し,これとペニシリン感受性試験結果を比較した. グラム染色の鏡検所見で,ペニシリン耐性腸球菌を「落花生サイン」ありとする感度と特異度は,それぞれ臨床医で78%,96%,臨床検査技師で94%,78% であった.この推定法の普遍性を確認するために,日常的に鏡検を行っている臨床検査技師と,そうでない臨床医のグラム染色所見の一致度を見たカッパ係数は 0.62 で検者間での推定結果の一致度は「Substantial agreement」と評価できた. 「落花生サイン」なしのグラム染色所見からペニシリン感受性腸球菌を推定できるこの手法は最大の治療効果と最小の副作用リスクを両立させ,薬剤耐性対策にもつながると期待できる.
本調査研究は東海ブロックで流行しているHIVに対し,インテグラーゼ領域の遺伝子多型と薬剤耐性変異の経年的動向を調査した.HIV/AIDS診療拠点病院(東海)に来院した新規HIV-1サブタイプB感染症例をドルテグラビル承認前(2009~2013年)と承認後(2014~2017年)の2群に分け解析を行った. インテグラーゼ領域の113カ所(39.2%)に167種類の遺伝子多型が検出された.副次変異としてL74M/I,E138K,E157Qが検出された.これまでE138Kは遺伝子多型としての報告がほとんどなされていない.E138Kが検出された8症例中7例は同一の伝播クラスターに属しており,本疫学調査でE138Kの出現率が高いのは東海ブロックにおいてこのウイルスが伝播流行していることを示唆している.L74M/I,E157Qはいずれも経年的に頻度が上昇していた.検出されたL74M/I,E138K,E157Qはいずれも単独出現では耐性度に影響をしないが,主要耐性変異に付随した場合,高度耐性を示す.つまりインテグラーゼ阻害剤に対し感受性が著しく低下するような主要耐性変異は東海ブロックから検出されていない. 本研究の結果は,現在承認されているインテグラーゼ阻害剤やHIVインテグラーゼを標的とした新規作用機序の効果予測に寄与するものと考える.
肝膿瘍や転移性膿瘍を特徴とし,過粘稠性を示すhypervirulent Klebsiella pneumoniae(hvKP)を原因とする侵襲性感染症は,台湾をはじめとするアジア諸国を中心に世界的に報告がみられるが,国内では地域におけるまとまった報告は少ない.2017年1~4月に,川崎市内の3医療機関から6例のhvKP感染症例の報告があったため,川崎市健康安全研究所で菌の遺伝子解析を実施し,収集した情報を用いて疫学的解析を実施した.
6例は70~85歳(年齢中央値73歳)の男性で,症例間の疫学的関連はなかった.敗血症が4例(肝膿瘍3例,肺炎1例),敗血症を伴わない肺炎が2例であった.基礎疾患や既往は癌(胃癌及び前立腺癌)の術後2例,胃潰瘍2例,糖尿病及び高血圧1例,関節リウマチ1例,B型肝炎ウイルス(HBV)及びHTLV-1キャリア1例であり,1例に肝膿瘍の既往があった.初発症状は発熱が4例,右季肋部痛と食事摂取困難が各1例で,特徴的なものはなかった.死亡例は,HBV及びHTLV-1キャリアで糞線虫症と髄膜炎を合併した肝膿瘍の1例と,胃癌の術後で関節リウマチのある重症肺炎の1例であった.粘稠性関連遺伝子rmpAは全例陽性,うち4例がmagA陽性(capsular serotype K1)でMultilocus Sequence Typing(MLST)は23であった.magA陰性の2例(K2)のMLSTは86及び380であった.死亡例のMLSTは23及び380であった.これらは全てアジア地域で既に報告されている株と類似しており,薬剤への感受性については概ね良好であった.
国内におけるhvKP感染症の疫学情報は明らかでないが,すでに地域で循環している可能性もあり,今後,耐性を獲得する可能性も考慮すると,適切なサーベイランスが必要と考える.
We report herein on two cases of bacteremia caused by daptomycin-resistant Corynebacterium striatum. In
these cases, daptomycin-resistant C. striatum was detected after receiving daptomycin for the treatment of multidrug-resistant C. striatum bacteremia, and ERIC-PCR band patterns were identical among the isolates of C. striatum before and after daptomycin therapy. We performed an in vitro assay to determine whether daptomycin resistance is induced in nine clinical isolates of C. striatum, including our two cases, after exposure to daptomycin in broth culture, and seven isolates showed emergence of daptomycin resistance.
To our knowledge, this is the first reported case of daptomycin-resistant C. striatum bacteremia in Japan. The use of daptomycin for the treatment of C. striatam infections should be avoided, considering the risk for rapid emergence of daptomycin resistance.
A 22-year-old woman, who had undergone intracardiac repair for pulmonary valve atresia with a ventricular septal defect when she was three years old, underwent right ventricular outflow tract reconstruction for re-stenosis. On the 22nd postoperative day, she was admitted to our hospital with a fever. She was diagnosed as having mediastinitis with infiltration of the lung contiguous to the site of the origin on contrast computed tomographic (CT) examination. She received cefazolin and vancomycin, and drainage was performed under general anesthesia the following day. There were many white blood cells but no bacteria in the pus on Gram staining ; on anaerobic culture and enriched broth culture, gram positive rods were detected which needed to be differentiated from Actinomyces spp. ; they were finally identified as Cutibacterium acnes by means of biochemical methods, 16S rRNA gene analysis, and time of flight mass spectrometry (TOF/MS). Cefazolin and vancomycin were changed to ampicillin ; after 5 weeks, infiltration of the lung lesion was still present. Ampicillin was then changed to oral amoxicillin and continued for a total of 10 weeks. She recovered completely. To our knowledge, there is no report of a case of mediastinitis caused by C. acnes with infiltration of the lung. We needed to differentiate the pathogen from contaminants on detecting C. acnes. In this case, we concluded that it was a pathogen because of the pure culture, and identification of C. acnes in several ways. Mediastinitis caused by C. acnes can infiltrate the lung. Surgery is not necessary for the management of the infiltrated lesion ; medical management with antibiotics is adequate. Its treatment is different from that of Actinomyces spp. The period of antibiotic administration needs to be determined by evaluating the CT image, because the period for treatment of the infiltrate lesion has not been established.