感染症学雑誌
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71 巻, 3 号
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  • 長谷川 美幸, 小林 寅哲, 雑賀 威, 西田 実
    1997 年71 巻3 号 p. 199-206
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    臨床分離Pseudomonas aeruginosaがgentamicinとの接触によって多剤耐性化する現象を, lipopolysaccharideの構成と関連して検討した. 長鎖および短鎖LPS株, LPS欠損株各3株に, gentamicinを種々の濃度に含む培地中で, 35℃で一夜, 1回または反復接触させた後, 生存し増殖した菌について, 各種抗緑膿菌薬耐性化の傾向およびLPSの変化の有無を観察した.
    Gentamicinの1回接触では, 長鎖株No.4および短鎖株No.41のみでLPSの欠損変異がみられた. 前者では同時に, ceftazidimeとgentamicinに対する耐性化が認められた.
    Gentamicinの反復接触では, LPSの変異はNo.4およびNo.14株のみに生じたが, 試験株のすべてがgentamicinに耐性化した. Gentamicinとの接触により生じたLPS欠損変異株は, 親株と比較してin vitroにおける [3H]-gentamicinの結合量は著しく低かった. Gentamicinとの接触によって誘発されたP.aeruginosaのgentamicin耐性の一部は, LPS欠損による結合能の低下に起因する. しかしgentamicin処理後, LPS欠損のない試験菌株におけるgentamicin耐性化は, 菌表層部の陰性荷電の低下を示唆する.
    Gentamicinの接触によるP.aeruglnosaのLPS欠損は安定で, in vitroにおける15代の継代によっても構造の変化はみられなかった.P.aeruginosaのgentamicinを含む多剤耐性は, 薬剤の存在しない環境においても維持される可能性がある.
  • 伊藤 陽一郎, 田中 学, 島崎 信, 中村 俊之, 木村 泰, 島 寛人, 加藤 直樹, 渡辺 邦友
    1997 年71 巻3 号 p. 207-213
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) の糞便を介した院内感染の可能性があり得るか否かを検討するため, 我々は喀痰または咽頭培養にてMRSAが検出された気道MRSA陽性患者に関して糞便中のMRSAの有無を調べた.
    1993年4月から10月までに気道MRSA陽性入院患者12例と気道MRSA陰性入院患者11例の糞便培養を行った. さらに気道MRSA陽性入院患者に関しては, その後も検討症例を追加し, 合計50例について検討を行った. 初期検討において, 気道MRSA陽性患者の12例中7例 (58.3%) でMRSAが糞便から検出されたが, 気道MRSA陰性患者では全く検出されず, 両者間で有意差を認めた (p<0.01). 一方, 追加症例も含めた気道MRSA陽性患者50例全体では27例 (54.0%) で糞便からMRSAが検出された. これら50例において, H2プロッカーは糞便MRSA陽性27例中23例 (85.2%) に投与されていたが, 糞便MRSA陰性23例では11例 (47.8%) にしか投与されておらず, 両者間で有意差を認めた (p<0.01). 以上より気道MRSA陽性症例では糞便中にMRSAが少なからず存在し, 糞便を介した院内感染をおこしうることが示唆された. またH2プロッカーを投与された症例では糞便からMRSAが極めて高率に検出されることから, 気道MRSA陽性症例への安易なH2プロッカーの投与は慎むべきであると考えられた.
  • 気管支随伴リンパ組織 (BALT) の免疫動態と抗体産生について
    北澤 浩, 佐藤 篤彦, 岩田 政敏
    1997 年71 巻3 号 p. 214-221
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    びまん性汎細気管支炎やcystic fibrosisをはじめとする慢性気道感染症の免疫学的な病態の解明は十分になされていない. 気道には気管支随伴リンパ組織 (BALT) と呼ばれるリンパ組織が存在しており, 慢性気道感染症においてその過形成がしばしぼ観察されている. 慢性気道感染症におけるBALTの役割を明かにするため, 緑膿菌によるラット慢性細気管支炎モデルを作製し, 検討をおこなった. 組織では細気管支周囲のリンパ球, 泡沫細胞の集簇が認められヒトの慢性細気管支炎に類似していた. また, BALTの過形成が観察された. 免疫組織では, 4-7日目にBALTや末梢気道壁においてIa抗原陽性細胞, helperT細胞, surface IgM陽性細胞, surface IgA陽性細胞が徐々に増加し, 気管支肺胞洗浄 (BAL) 液中の抗緑膿菌IgA抗体価も上昇した. 21目以降にはnon-helperT細胞が, helper T細胞に比して増加し, 各種免疫グロブリン陽性細胞やBAL液中の抗緑膿菌IgA抗体価は, 低下し, 組織でも炎症所見が軽減した. このようにBALTと末梢気道壁の各種免疫細胞の推移, BAL液中抗緑膿菌IgA抗体価の推移はほぼ一致していた. 以上の所見より免疫グロブリン産生細胞は, 少なくともその一部は過形成BALTからもたらされている可能性が示唆され, BALTが慢性気道感染症における肺局所の免疫応答に重要な働きを担っていると推察された.
  • 長岡 博志, 時松 一成, 山崎 透, 永井 寛之, 大塚 英一, 橋本 敦郎, 後藤 陽一郎, 那須 勝, 菊池 博, 駄阿 勉, 秋月 ...
    1997 年71 巻3 号 p. 222-228
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    著者らが経験した21例のadult T-cell leukemia (ATL) 剖検例のうち11例 (52, 4%) にcytomegalovirus (CMV) 感染症を認めた. 11例中7例 (63.6%) は3臓器以上の多臓器感染であった. 臓器別では, 肺11例 (100%), 副腎8例 (72.7%), 食道4例 (36.4%), 胃, 小腸, 膀胱各3例 (27.3%) などの順に感染病巣が認められ, 特に肺感染11例中5例, 小腸感染3例中2例, 副腎感染8例中1例は病理組織学的に死因となりうる重篤な病変が認められた. 以上の結果と臨床経過より, CMV感染症は11例中8例 (72.7%) が死因に関与しており, このうち5例 (45.5%) は直接死因であると判断した.
  • 真崎 宏則, 吉嶺 裕之, 鬼塚 正三郎, 星野 晶子, 土橋 佳子, 黒木 麗喜, 貝田 繁雄, 松本 慶蔵, 井口 和幸, 渡辺 貴和雄 ...
    1997 年71 巻3 号 p. 229-235
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    内科老人病棟において1980年代MRSA各種感染症が急増しminocycline (MINO) を多用した結果, MINOの耐性化が進んだ. そこで1987年以降MINOの使用制限を開始し, 1991年10月以降院内感染防止対策の一つとして第2世代セフェム剤, 第3世代セフェム剤の使用制限を追加した.
    今回, 1992年3月から1993年6月までを対策後として分離された黄色ブドウ球菌313株 (鼻腔86株, 咽頭60株, 喀痰45株, 尿40株, 褥瘡65株, 血液17株) のMICとコアグラーゼ型別を調査し対策開始前の成績と比較検討したところ, 1983年1月から1985年3月までの喀痰由来黄色ブドウ球菌においてII型が優位であったが, 1987年以降はVII型優位となりMINO耐性株が増加した. しかしながら1991年にはII型が再び優位となり, 今回の検討でもII型優位が続いていた. コアグラーゼ型別はMINOに対する耐性化と時期を同じくしてII型優位からVII型優位に推移し, MINOの使用制限5年目以降でVII型優位からII型優位に復帰した. 一方MINO使用制限6年目で0.1μg/mlにピーク値をもつMINO高度感受性株の出現を認め, 感受性の回復がみられた.
  • 旭 悦子, 岡田 賢司, 植田 浩司
    1997 年71 巻3 号 p. 236-240
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    乳児健診児144名を対象に鼻咽頭細菌叢を調べ, さらにHaemophilus influenzae type bの保菌率を検討した. 144名のうち1生月児44名, 4-5生月児96名, 7-8生月児84名から鼻咽頭スワブ224検体を採取し, 培養を行い, 440株が分離同定された.
    各月齢群別の検出率の高い菌種は, 1生月児群ではStaphylococcus auyeus (45.5%),Corynebacteriurn (38.6%) であり, 4-5生月児群では,Corynebacteriurn (55.2%),S.aureus (32.3%),Streptococcus pneurnoniae (25.0%) であり, 7-8生月児群ではCorynebacterium (59.5%), S.pneumoniae (26.2%) であった.
    H.influenzaeは1生月児群で1株, 4-5生月児群で9株, 7-8生月児群で14株, 計24株が21名より分離され, このうちtype bは4株で1生月児から1株, 4-5生月児にはなく, 7-8生月児 (この内1名は1生月時にも分離された) から3株分離された.H.znfluenzaeの乳児の鼻咽頭保菌率は, 10.7%であり, 月齢群別では1生月児群で2.3%, 4-5生月児群で9.4%, 7-8生月児群で16.7%であり, Hibの保菌率は乳児で1.8%であり, 月齢群別ではそれぞれ2.3%, 0%, 3.6%であった.
  • 保田 仁介, 東 弥生, 多田 佳宏, 藤原 葉一郎, 柏木 宣人, 柏木 知宏, 山元 貴雄, 本庄 英雄
    1997 年71 巻3 号 p. 241-247
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Chlamydia trachomatisによる女性性器感染症の中で頸管炎とともに最も重要なものに骨盤内感染症 (以下PID) があり, その診断にあたってはC.trachomatisの検出が卵管という部位的に困難な場所であることから血清抗C.trachomatis IgGおよびIgA抗体が補助診断法として測定される.新しく開発された簡便で迅速な抗体検査試薬であるラピザイムクラミジア ® の有用性をELISA法であるセロイパライザクラミジア ® と比較検討した.その結果, 簡便法はPIDの診断症例で陽性一致率, 陰性一致率, 全体一致率はIgG, IgAでそれぞれ100%と100%, 90.9%と84.4%, 88.0%と85.9%であり, またC.trachomatis検出陽性PIDでは陽性, 陰性一致率はともに100%, 全体一致率はそれぞれ93.8%と100%と良好であった.一・方PID経過観察症例においてELISA法で観察された, 予後とも関係の深いcut off index (COI) の低下や横這いなどといった抗体の変化パターンは簡便法では認められなかった.以上のことから今回検討した約10分で判定可能な簡便法はPID診断と治療開始時におけるC.trachomatisの関与を考慮した薬剤選択や投与期間など治療法の設定と管理の組立に有用な抗体検査試薬と考えられた.またPIDの経時的な経過観察での予後判定などにおいては簡便法よりELISA法のほうが適していると考えられた.
  • 甲斐 明美, 尾畑 浩魅, 畠山 薫, 五十嵐 英夫, 伊藤 武, 工藤 泰雄
    1997 年71 巻3 号 p. 248-254
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    腸管出血性大腸菌 (enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC) またはVero毒素産生性大腸菌 (verotoxin-producing Escherichia coli, VTEC) の同定には, 本菌の産生するVero毒素の産生性を調べることが不可欠である.本毒素の簡易・迅速検出法として, ラテックス凝集反応 (LA) 法を応用した「大腸菌ベロトキシン検出用試薬」(デンカ生研) が開発されたので, その有用性について検討し
    ヒト由来株178株 (VT陽性株147株および陰性株31株), および動物由来株158株 (VT陽性株79株および陰性株79株) について, Vero培養細胞法およびPCR法の成績とLA法の成績を比較検討した結果, ヒト由来株では, LA法の感度は100%, 特異性100%, 一致率100%, 動物由来株では, LA法の感度は94.9%, 特異性100%, 一致率97.5%であった.しかし, 浮腫病のブタから検出される大腸菌が産生するVT2のvariant toxinであるVT2e産生性の8株では, 4株は陽性, 残りの4株は陰性であった.このVT2e産生性大腸菌とヒトの感染症との関係は認められていないため, ヒトの臨床材料を検査するに当たっては問題にはならないであろう
    本試薬によるVTの検出は, 操作が簡単であり, また特異性も高いことからVTECの検査を行うための簡易迅速診断法として極めて有効であることが示唆された.
  • 橋本 敦郎, 山上 由理子, 水之江 俊治, 山形 英司, 長岡 博志, 永井 寛之, 那須 勝
    1997 年71 巻3 号 p. 255-259
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    We investigated the possible presence of Aspergillus species DNA in serum samples of two patients diagnosed as having non-invasive pulmonary aspergillosis by a nested polymerase chain reaction (PCR) method.
    The nested PCR results were negative in serum samples of the patients with chronic necrotizing pulmonary aspergillosis and pulmonary aspergilloma. When left pneumothorax happened to the patient with chronic necrotizing pulmonary aspergillosis and bronchial washing was performed to the patient with pulmonary aspergilloma, the nested PCR results turned positive.
    We consider this method useful for the diagnosis of semi-invasive stage of pulmonary aspergillosis. However, further prospective evaluation with a large clinical sample is required
  • 小松 京子, 神田 勤
    1997 年71 巻3 号 p. 260-263
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    We report an atypical case of lung abscess occurring in a 73-year-old female who suffered from diabetes for more than 20 years. In 1993 she had a total gasterectomy for gastric cancer. In 1995 she was admitted to our hospital complaining of a mild cough and a small amount of sputa. A CT scan of the chest revealed a huge abscess in the left lung. Streptococcus sanguis was cultured from the intrathoracic fluid. It is possible that the severe lung abscess in spite of the few symptoms occurs in the compromised host, such as this patient who suffered from diabetes for long time.
    Oral streptococci in close relationship to misswallowing should be taken into consideration as one of the causes of this condition.
  • 橋口 浩二, 二木 芳人, 宮下 修行, 黒木 昌幸, 中島 正光, 川根 博司, 松島 敏春, 西村 和子
    1997 年71 巻3 号 p. 264-268
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Cunninghamella bertholletiae, a rare causative agent of human deep seated mycosis, has been reported with increased frequency in the Western countries, in recent years
    We experienced a case of Cunninghamella bertholletiae pulmonary infection in a 63-year-old male with pulmonary fibrosis and mild diabetes mellitus. In spite of intensive anti-fungal chemotherapy following clinical diagnosis, he died of exacerbation of the underlying diseases
    Postmortem examination showed Cunninghamella infection in the cavity of the lung and massive pulmonary fibrosis. There was no fungal invasion, outside the cavity. This is the third report of Cunninghamella human infection in Japan.
  • 神田 善伸, 秋山 秀樹, 小野澤 康輔, 茂木 孝, 村山 踪明, 山口 英世
    1997 年71 巻3 号 p. 269-272
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    Aspergillusによる心内膜炎を合併した慢性骨髄性白血病の一例を提示する.症例は46歳.急性転化後の化学療法に伴う顆粒球減少時に肺炎を合併, 次いで多発性の動脈血栓症を合併し, 心内膜炎と診断された.各種培養は陰性であり, 血清学的検査も陰性であったため, 細菌性心内膜炎の診断は困難であった.腹部大動脈の血栓症に対し血栓溶解療法を施行したが, 頭蓋内出血により死亡した.解剖により真菌性心内膜炎が証明され, polymerase chain reaction (PCR) 法とSouthern法により原因菌としてAspergillusが同定された.Aspergillus感染症の診断において, PCR法は有力な手段となると考えられた.
  • 鈴木 潤, 吉原 英児, 小林 貞男
    1997 年71 巻3 号 p. 273-278
    発行日: 1997/03/20
    公開日: 2011/09/07
    ジャーナル フリー
    劇症型A群レンサ球菌感染症患者分離株と, 咽頭炎および猩紅熱患者対照株が産生するストレプトリジンO (SLO), proteinase, 発赤毒素およびDNaseについて, 産生量とそれらの性状について検討した.劇症株で対照株より平均産生量が上回ったのはSLOおよびDNaseであり, 病原性を有するSLOでは劇症群10例中2例, 対照群15例中1例が高値を示した.これまで, 起因菌の産生する外毒素によりショック状態が誘発されることが報告されているので, 劇症株では発赤毒素の高活性を期待したが, 対照株と差が見られなかった.SLOはpI分析によるとacidic type SLOであり, 分子量もこれまでの報告と同様に64,000を示した.また, proteinaseのpIおよび分子量についてもザイモグラムを用いて対照株と比較したが, 両者で差が認められなかった.いくつかの産生物質の示す活性の総和が病因になると考えられるが, 検討した4種の菌体外産生物質ではstreptococcal toxic shock syndromeに共通する傾向が認められないことより, これら複数の因子による病原性発現の多様性が強く示唆された.
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