企業活動において,地理的近接性は集団的成長と発展を促す多様なスピルオーバー,すなわち,集積の経済をもたらす.この研究はICT産業の個別上場企業間の地理的近接性に焦点を当て,集積の経済から企業が得られる利益に関して探求する.分析においては,都心5区に立地しているICT企業のクロスセクション・データを用いて, 企業間近接性の地理的範囲を分析する.さらに,企業間近接性の臨界距離に基づいて作成した空間マトリックスを用いて,空間計量経済学の手法で, 企業の利潤関数を推定する.分析結果は, 集積の経済が都市全体ではなく,狭い範囲のみで働くことを示している.さらに,この研究はマーシャル型の集積の外部経済に関する実証的な結果を示す.ある企業の周辺に立地している同業種企業の規模が大きいほど, スピルオーバーが容易になり, 当該企業のパフォーマンスは高い.一方で,企業の賃金上昇は,労働プールにおける熟練労働者をめぐった競争により,同業種企業の従業員の転職を促し,周辺の同業種企業のパフォーマンスを弱める.また, 賃料(地価)は近接性を反映しているため, 企業のパフォーマンスに正の効果を持つが, 大都市における過度な集中は賃料の上昇をもたらすため, 都市計画において, 単一中心よりは多重中心業務地区が奨励される.
本研究は,日本で2000年代以降に増加している産学(企業と大学) の連携による特許共同出願を分析することにより,産学連携リンケージの地理的特性を明らかにするものである.日本国内の特許出願のほとんどを網羅するIIPパテントデータベースをもとに分析したところ,以下の結果を得た.まず産学連携の特許共同出願の発明者の分布を確認すると,東京圏に集中する企業間(産産) 連携の発明者分布と比べて,地方圏にも分散している.これは企業の研究開発機能が東京都などに集中しているのに対し,大学は地方圏にも分散立地していることによる.また産学連携のリンケージは産産連携と比べ総じて広域的である.大企業・大学ともに集積する関東においてはローカルなリンケージが卓越するが,地方圏においては連携相手となる大企業の研究開発機能が弱いことからローカルな連携が形成されにくく,主に関東との非ローカルなリンケージが形成される.そして,産学連携実績が増加した2005年以降において,発明者分布およびリンケージにおいて関東,とくに東京都への集中が強まる傾向がある.さらに,知識ベースの議論を実証的に検討すべく,大学が特許出願主体となる割合をもとに技術を類型化したところ,知識の性質に応じたリンケージの地理的特性の差異は,産産連携では観察されるものの,産学連携では観察されなかった.
本稿は,東京都中央区で分譲マンションを購入し,一人暮らしをする未婚女性に着目した.そして,彼女たちを人口の都心回帰の一端を担う層と捉え,その居住者特性と移動経歴の特徴を明らかにした.アンケート調査の結果から,中央区で分譲マンションを購入した未婚女性は,ホワイトカラー職に従事し,男性の平均給与よりも高い所得を得ていて,東京圏でマンション購入する未婚女性の一般像よりも高額の融資を受けている.彼女たちの居住する分譲マンションの面積は一般的なワンルームマンションの面積よりも広く,その間取りは多様である.現住居の選択理由として間取りや部屋のタイプを挙げる未婚女性は少なくなく,職住近接と交通至便という都心居住のメリットと自分好みの広い部屋という分譲マンション居住のメリットを同時に実現できることは,未婚女性が都心地区のマンションを購入する重要な動機であると考えられる.中央区の分譲マンションに居住する未婚女性の最終学校卒業直前から現住居取得直前までの移動は,中央区の民間賃貸マンションに居住する未婚女性の移動に対応している.このことはマンション購入前の未婚女性と民間賃貸住宅居住の未婚女性が同一の移動主体であることを示唆する.中央区を含む都区部の民間賃貸住宅に居住する未婚女性は中央区の分譲マンションを購入する潜在的可能性の高い層だといえる.