日本では,近世末には河川の渇水流量のほとんどが農業用水部門によって取水され,かつ水利紛争を調整するための水利秩序が成立していた.近代以降,河川から新たに取水しようとする主体は,渇水増強を図ることなしには,河川水利に参入できなかった.ダムは,利水部門において渇水増強機能を果たすだけでなく,洪水調節機能や電気エネルギー生産機能を発揮するため,第二次世界大戦後,多目的化して河川政策に導入されてきた.ダムが環境と社会にあたえる影響について,「科学・技術」と「価値意識・価値観」の双方から,導入時と今日とでは評価が大きく異なるようになった.さらに水需要の鈍化傾向が定着して,水資源政策は転機を迎えている.本稿では,資源論が蓄積してきた資源管理の視点と枠組みに依拠して,水資源政策がこれまで抱えてきた問題を整理し,今後のあり方を考察した.ジンマーマンの資源概念と資源研究の成果によれば,社会的存在としての水は生産資源と環境資源という二面性を帯びていることを確認し得る.現代の日本では,資源価値の発見から利用に至るプロセスが複雑化しているので,資源管理を構想するためには,研究対象を資源分析・資源評価・資源利用というカテゴリーに分け,各カテゴリーにおける成果を統合することによってその意図を達成し得る.資源価値の多元化が進む今日では,環境資源をベースにした資源管理によって問題の解明が進むことを示した.
抄録全体を表示