経済地理学年報
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67 巻, 1 号
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表紙
論説
  • ―広島県尾道市を事例として―
    望月 徹
    2021 年 67 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

        産業構造の転換で衰退した地域があるなかで,新たな変化が生じている地域もある.例えば,ナント,ビルバオ,横浜など創造都市と呼ばれる文化・芸術による地域活性化の事例である.一方,広島県尾道市においても造船業の衰退を経て,近年,同様な新たな変化の兆しが見られる.それは,第1に,一度は衰退した造船,第2に,サイクルツーリズムで伸張する観光,第3に,移住,生業(なりわい) など新たな形態の経済的活動としての空き家再生,において現れている.
        そこで,本稿では,造船,観光,空き家再生といった異なる動向を「生産の世界」論という共通の枠組で考察することで,変化の兆しの中身を明らかにすることを試みた.この結果,本来,独立して成長を遂げてきた造船,観光,空き家再生の異質な諸資源は,「個人間の世界」へと収斂する中で,相互に接合され一つに結びつけられていた.「旧来型の観光」が停滞後,サイクルツーリズムやクルージングツーリズムとして再生されるなかで,観光は,先行して形成されていた移住や生業と関連する空き家再生と「個人間の世界」で接合され,尾道地域への愛着を基盤に共通の世界を形成しつつある.
        そうした共通の世界ならびにそれを支える慣行が,本来,異質な伝統産業である造船業までをも引き寄せ一つに結びつけ新たな兆しを牽引する動力源となり,現在の「尾道」という地域へ真正な価値を付与している.こうして,従来の創造都市論では十分に分析されてこなかった都市・地域の変化の動態の一端が,「生産の世界」論の観点から明らかになった.

研究ノート
  • 阿部 康久, 徐 楽
    2021 年 67 巻 1 号 p. 24-42
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

         本稿では黄山市歙県の歴史観光資源の状況や評価について,観光客へのアンケート調査に基づいて分析した上で,地元住民の観光資源や地名に対する意識についてインタビュー調査を通じて検討した.黄山市には,世界的に著名な自然観光資源である黄山風景区がある一方で,「徽州文化」と呼ばれる歴史観光資源も有している.当地域の歴史観光資源は1987 年に市名が徽州から黄山に改名されて以降,知名度が低下した.観光客へのアンケート調査の結果をみても,観光客の徽州文化への評価は黄山風景区への評価には及ばず,その背景として現地政府の歴史観光資源に対する関心の低さと管理方法に課題があるとされる.これに対して,観光化の進展により住民の間では歴史観光資源への関心が高まっている.観光業関係者以外でも歴史観光資源や市名の変更について知識や関心を持つ人が多くみられ,知名度の向上のために市名を徽州に戻すべきという意見も多くみられた.その一方で,観光客の出身地や他の訪問地・訪問目的から判断すると,黄山風景区があることで,歙県への観光客数が増加している可能性もある.これらの点も含めた,観光化や市名の変更をめぐる地域住民の意識や発言をまとめると,歴史文化遺産の観光資源化による経済的利益の問題だけではなく,地域への愛着といったより心理的な要因による影響も大きいと考えられる.

  • ―徳島県阿南市の「野球のまち推進事業」を事例に―
    和田 崇
    2021 年 67 巻 1 号 p. 43-57
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2022/03/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,徳島県阿南市における野球のまち推進事業を例に,スポーツまちづくりがもたらす社会経済効果を明らかにし,スポーツが地域活性化に果たす役割を検討した.その結果,野球のまち推進事業は,観光振興効果や経済波及効果については規模や範囲は限定的であるものの,新たなまちづくり手法の定着や知名度向上効果,イベント参加者数の増加などでは,阿南市に一定の社会経済効果をもたらしていることが確認された.また,アクターごとの事業に対する認識と事業への関与をみると,阿南市では野球関係者や市民,企業が自治体からの働きかけにより,あるいは自ら申し出て事業に関与しており,それぞれが楽しさや満足感を感じたり,社会的ネットワークを広げたりするなどの効果を得ている.事業への主体的な関与が一部の者に限られたり,野球という特定競技をまちづくりの手段とすることへの疑問やトップレベルの試合を観戦する機会が乏しいことへの不満をもつ者も散見されたりするが,野球というこれまで着目しなかった地域資源を核に活動の環を広げてきたことは評価できる.今後,より多くの住民が野球を阿南市の地域資源と認め,全市的な参加・協働体制を構築することが期待される.

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