戦後の日本の農業は手厚い保護政策を享受してきた. ことに, 「旧食管法」下の米作はその典型例であり, 1994年に「新食糧流通法」が施行され新しい制度に変わった今日でも, その本質には大きな変化がなく, 依然, 日本の農業は新しいあり方を求めてさまよい続けている. 今日の日本の農業を支えているのは, 現実には兼業農家である. 実は, ここに日本の農業の一番の問題点がある. つまり, 産業としての魅力が乏しいために新規参入者が極端に少なく, 就労者の新陳代謝が進まずに高齢化しているのである. ある産業に対していかに保護政策を採用したとしても, 自らが産業としての魅力を回復できない限り, その産業の将来はないであろう. 従来, 概して日本の農業者にマーケティングという発想は少なかった. さらに農業政策となると, マーケティングの発想はほとんど皆無であった. 日本の農業には「販売」という概念がなく, あるのは「出荷」という概念だけであった. 新しい日本の農業には, このマーケティングの発想がぜひ必要である. マーケティングの本質は需要(市場)創造にあるからである. ところで, 日本の農業者にもごく少数ながら企業家精神に富む人々がいるが, これらの人々はほぼ例外なく, かつては「異端視」されていた. しかし, 企業家精神に富む人々が絶えず注視していたのは市場であり, 市場の変化であった. つまり, マーケティングの実践者であった. これからの日本の農業では, この種の企業家精神から何かを学び, 農業分野での企業家活動にいかに自由度を与えていくかが, 自らを強くする手段として極めて重要である.
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