Caイオンが結合したケラチン(ケラチンCa)は,入浴後,浴槽表面に残留する最も落としにくい汚れの1つである。本稿では,ケラチンCaを短時間かつ低機械力での洗浄を可能とする界面活性剤とキレート剤の組み合わせについて,ケラチンCaの除去に及ぼす効果とその作用機構について紹介する。まず,Caイオンを持たないケラチンの膨潤特性に着目し,ケラチンCaをフリーのケラチンに変化させ,水和に基づく膨潤を促し,体積を増大させることで,シャワーすすぎ等による弱い機械力でも容易に除去が可能となり得るという仮説に基づき検証を行った。その結果,キレート能の高いキレート剤や特定のアニオン性界面活性剤をそれぞれ作用させることで,ケラチンCaは膨潤し,更にこれらを組み合わせることで膨潤が相乗的に促進されることを見出した。この相乗効果により,ケラチンCaの膨潤には,キレート剤によるCaイオンの捕捉が重要であり,アニオン性界面活性剤と併用することでキレート剤の浸透性が促進されたものと推定した。更に,ケラチンCaの内部結晶構造について解析を行い,界面活性剤がケラチンの内部構造変化に大きく寄与していることを明らかにした。
衣料用洗剤に酵素が初めて配合されたのは1913年。それから100年以上の年月が流れ,洗剤に使用される酵素もずいぶんと進化した。昨今のSDGsの流れや原料の価格高騰など,洗剤業界にとってもターニングポイントに差し掛かっていると思われるなか,本稿では衣料用洗剤の発展を洗剤用酵素開発の歴史を振り返ることで紐解き,そこから得られる知見から将来の洗剤の展望について触れたいと思う。
核磁気共鳴として知られるNMR(Nuclear Magnetic Resonance)法(高分解能NMR)は水素原子をはじめとした核種の磁気モーメントを検出する主に構造解析を行う分析手法である。一方,時間領域核磁気共鳴と呼ばれるTDNMR(Time Domain NMR)法は緩和時間から物性評価を行う分析装置である。緩和時間は分子の運動性を反映し,その違いから水分,油分量の決定や,試料の固い,柔らかいなどを示す物性評価,W/O,O/Wエマルジョンの粒径分布や分散性などを評価することが可能である。本稿ではこの分析手法を用いて油脂を含む食品,化粧品,その他工業製品の状態解析を行った例について紹介する。