超臨界流体は圧縮性の媒体を臨界温度および臨界圧力以上にしたときの流体であり, 超臨界流体を酵素反応に適用することによってさまざまな利点が生じる。生成物による溶媒汚染の心配がない上, 超臨界流体の低粘度, 低表面張力, 高拡散性は溶質の物質移動を容易にし, 拡散律速反応の速度を促進することができる。また, 超臨界流体の種々の溶媒特性は, その圧力, 温度を変えることによって連続的に制御できるので, 溶媒自身の化学構造の変化に起因した酵素活性の低下も改善できる。酵素活性は, 酵素の水分含有量, 表面形態, 溶媒, 基質, 生成物の性質に左右される。超臨界流体はこのように酵素へ直接的な影響を与えるほかに, 溶媒の誘電率, 溶解度パラメーターのような物理的性質も非共有結合的相互作用に微妙な影響を与える。近年, 分光学的手法や計算機シミュレーション法により, 臨界点付近で溶解した溶質分子の近傍領域で水素結合のような化学的相互作用が特異的に変化することが見い出されており, このような観点から生体触媒反応についても検討がなされた結果, 超臨界流体中での酵素構造の2次構造変化が反応性の変化と密接に結びついていることが明らかになった。
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