αゲルは外観上は全体が均一な白色ゲルであるが,α型水和結晶相と水相,場合によってはその他の結晶相が共存する多相共存系であることが多い。また,簡便な調製法として,構成成分を加熱融解し,均一化した後に冷却することで調製することが多く,プロセスによって性質が異なることもある。これらが開発現場においてαゲルの正確な理解を難しくしている理由になっている。本稿では,化粧品分野におけるαゲル研究の流れを紹介するとともに,これまで有効な方法の存在しなかった水相のキャラクタリゼーションについて,筆者らが行った研究を紹介する。
アミノ酸系ジェミニ型界面活性剤,長鎖アルコールならびに水の三成分混合系で調製されたαゲルの構造と性質について議論する。ジェミニ型界面活性剤を用いて調製されたαゲルの特徴として,以下の実験事実を見出している(一鎖型の界面活性剤でαゲルを調製した場合との比較):①(界面活性剤のアルキル鎖数で規格化すると)αゲルの構造中に取り込まれ得る長鎖アルコールの分子数が少ない;②融点がやや低い;③水をラメラ面間に吸収し,膨潤しやすい;④同じ水量で比較すると,粘度が低い。本稿では,これらαゲルの性質が界面活性剤の化学構造とどのような相関性があるのか考察していく。また,αゲルに関する研究の将来的な方向性についても展望する。
角層は皮膚最外層に存在する薄い膜であり,皮膚を健常に保つ役割を果たす。角層中の細胞間脂質は,角層細胞間隙に,皮表に対して平行に展開されたラメラ構造を形成することで保湿バリア機能を発揮する。高含水α-ゲル製剤化技術は,細胞間脂質の主成分であるセラミドを用いて,肌上に細胞間脂質と同じ構造の膜を形成させるために開発された。本稿では,保湿スキンケア化粧品の観点から,最近の角層細胞間脂質研究動向を交えながら,本製剤化技術についてレビューする。
トラネキサム酸はプラスミノーゲン活性阻害剤としてスキンケア化粧品に配合されている。しかし,その親水的な特性により経皮吸収性が低く,その改善のためにアルキル鎖を修飾したトラネキサム酸セチルエステル塩酸塩(TXC)が開発された。TXC- 水系の相挙動および自己組織体の構造解析から,TXCは分子間の強い引力相互作用により高い自己組織化能を有することが明らかにされた。また,長鎖アルコールとの混合系で安定なαゲルを形成することができる。さらに,化粧品用途を目的に調製したαゲル製剤は,両連続型のスポンジ状構造(BAG相)を構築し,その構造を維持したまま様々な油を乳化できることが分かった。本稿では,TXCの物理化学的性質とαゲルの階層構造について概説し,αゲル構造がもたらす皮膚浸透性と官能特性について紹介する。