兵庫県南部地震は,神戸市を中心に甚大な被害をもたらす,戦後最大の未曾有の大惨事となった。 一般に,地震直後の被害情報の入手はきわめて困難であり,被災地域での初期対応は,被害の全容を知り得ぬまま,場当り的な対応を余儀なくされる. 東京消防庁では,このような地震発生直後の情報の空白期に,被害の状況を事前に予測し,消防隊の初動対応を支援する「地震被害予測システム」を開発した.このシステムは,震源情報を入力することにより,消防活動に必要な8項目の被害状況を予測・表示するもので,直下の地震発生時における被害の様相に応じた,迅速・的確な消防隊の運用に大きな効果を発揮できるものと期待している. 本稿では,システムの構成や予測の手法などの概要を紹介する.
1995年1月17日,兵庫県南部地震により,神戸市を中心に大きな被害をもたらした。兵庫県南部地震は,どのような地震であったろう.その前後に深井戸や温泉になにか目立った変化があったのだろうか.この地震の起こった近畿地方では,どのような地質構造で,どのような地震が起こっていたのか.その結果,今後の近畿地方北部での地震についてはどんなことが考えられるだろうかをまとめた.
兵庫県南部地震では多くの強震記録が得られたが,関西一円での最大水平加速度の分布は一様ではなく,特定の方向には遠くまで強い振幅が観測されている.震度7の震災の帯の中での観測値はほとんど得られていないことから,余震の観測に基づいて震災の帯の中とその外との震動の大きさについての比較検討が行われた。また,震災の帯の両側での地盤震動にっいて,応答スペクトルによる比較検討が行われた.断層線から10km以内の地点でもかなりの強震観測が得られており,これに基づいて都市直近の活断層が動くことを想定した地震防災や耐震補強などが可能になりつつある.今後の地震防災や耐震対策の精度を向上するためには,さらに密度の高い強震観測網の整備が必要である.
まず著者が実際に踏査した道路・鉄道施設の被害の概況について写真によって示す.ついで,今回の震災全般に関して,解明すべき点,施工不良問題,当面の対応,今後の対応,さらに安全性と経済性について議論する.おもな被害形態は,鉄筋コンクリートの柱,橋脚のせん断破壊と曲げ破壊,鋼製橋脚の座屈と水平破断,桁の落下,沓部の破壊などである.このような被害をもたらした基本的な点である揺れの異常さ,破壊のメカニズム,破壊の極端な相違の原因などが未解明である.経済性との関連も考 えた対応が必要である.
兵庫県南部地震により,道路や鉄道の高架橋や橋梁が過去に例を見ないきわめてじん大な被害を受けた,本文では,まずコンクリート橋や鋼橋の被害のメカニズムについて考察を進めた.つぎに,今回の地震動の破壊力のすさまじさを,各種の応答スペクトルから定量的に検討するとともに,現在までの耐震設計法の変遷をも考慮して,大被害の原因を求明した。さらに,被害橋の復旧や既存橋の補強に当たって考慮されている設計地震力や耐震安全性の照査法などにっいても述べ,今回の地震被害の教訓を知る手がかりとした.
阪神・淡路大震災における地下構造物の被害と復旧について記述した.地下構造物の種類としては,地下鉄の駅舎とトンネル,通信用のとう道,電力用のシールドトンネル,地下街,電力の地下送電・配電設備およびガスの導管である.それらの被害の規模および特徴について述べるとともに個々の復旧方法および経過の概略を示した.
本論文は,兵庫県南部地震による建築物の被害をビルと小規模住宅とに分け,構造躯体の損壊,内外装材や開口部材の被害,およびそれらの火害実態の調査結果を述べたものである.ビル関連では,1981 年の新耐震設計法施行以降に建てられたものでは損壊率がきわめて小さく,内外装材の被災度合いも軽微であったが,/971年以前のものはかなり大で,1階や中間層の崩壊が数多く観察され,小住宅関連では,木質構法が普及した1970年ごろ以降に建てられたものは被害が軽微で,内外装材の損壊も少ないが,古い住宅は,粗略な造り・土葺き和瓦屋根・筋交いや壁量不足・老朽化などの理由で多数崩壊し,多くの圧死者が出たと指摘している.また,道路・空地のほか,防・耐火造も火災時の焼け止まり要因として有効に寄与したと述べている.
いままで地震に強いと信じられてきた鉄骨造建物が,兵庫県南部地震において数多く被害を受けた.鉄骨造建物被害の概要を,投入された地震力,被害形態と被害レベル,構造部位ごとの被害実例として紹介するとともに,いまわれわれに突きつけられている問題を,短期的課題,中期的課題に分けて整理した.
兵庫県南部地震は,神戸市および淡路島などの一部で震度7の激震を記録したいわゆる直下型地震で,阪神・淡路に甚大な被害をもたらした.この地震における危険物施設の被害状況は,過去の地震で発生した貯油の大量流出のような社会的な影響を及ぼす重大なものではなかった,しかし,タンク本体の傾斜や国内で初めて観測されたと思われるダイヤモンド型座屈などの被害が発生した.本報告は,おもに屋外タンク貯蔵所の被害様相をまとめたものである.
従来,災害時の避難は津波・市街地大火などからの緊急避難に焦点がおかれていた.しかし,雲仙・普賢岳災害や1993年北海道南西沖地震による奥尻島・青苗での災害などを契機として・緊急避難前後の被災者の行動,特に避難所での開設・運営や応急仮設住宅の問題なども大きな課題となってきた.本稿では,未曾有の大災害となった阪神・淡路大震災を例として,発災直後の被災者行動から疎開・応急仮設住宅への入居までを時系列的にとらえ,それぞれの局面での課題と今後への教訓を指摘した.