構造物を建設する場合,工事を安全にかつ経済的に行うため,一時的に簡易な構造物を設置することが 多い.これらは仮設構造物と呼ばれているが,一時的に使用されるため,組立・解体が容易な構造となっている.その反面,手すりや仮設構造物全体の安定を保つために必要な部材を,容易に取り外すことができるため,これらの部材が不足していたことなどに起因する墜落・倒壊災害などが多発している.平成 16 年に発生した労働災害による死亡者数を見ても,墜落災害によるものが最も多く,倒壊災害によるものも比較的多く発生していた.また,起因物別に見ても,仮設構造物等に起因するものが最も多く発生していた.そこで,仮設構造物の代表例である足場と,コンクリート工事で使用する型わく支保工の安全対策について,災害事例や研究事例などを交えながら解説する.
本研究では,列車の速度制御を対象として,人間の制御行動モデルをもとにヒューマンエラー防止のための教育・訓練に関する検討を行った.人間の制御行動のモデル化に関しては,人間工学や制御工学の分野で数多くの研究がなされてきたが,これらは人間の制御を数理モデルで表現するのみであることが多く,そこからシステムの安全・安心を向上させるような具体的な教育・訓練方法が提案されることはほとんどない.そこで,本研究では列車の速度制御における実験結果から人間の制御行動モデルを構築し,そのモデルを用いて人間の習熟に寄与する要因の抽出を図った.抽出された要因をもとに訓練方法を提案し,シミュレーション実験によりその効果の評価・検討を行った.さらに提案された訓練方法による訓練を実際に行いシミュレーションによる評価の妥当性を確認した.
LPG を噴出剤とするエアゾール式パンク応急修理剤の使用時および使用後の本格的な修理時の着火危険性について検討した.パンク応急修理剤を使用したタイヤの空気抜きの際には,噴出口から噴出方向にLPG の爆発濃度になる範囲が存在することが確認された.このことから,本格的な修理を行う前の空気抜きの際には,着火源を近づけないようにするなどの必要がある.また,パンク応急修理剤使用後のタイヤ減圧に対して数回空気の充填を繰り返した場合,タイヤ内部は爆発濃度に希釈されることがわかった.通常使用時の空気圧である0.2 MPaG で爆発濃度にLPG が希釈され,着火した場合は,タイヤが破裂することが確認された.
石油系液体燃料は,「燃えやすく」,「発熱量が大きい」というその性質により,火災発生のリスクが高く,ひとたび火災が発生すると,燃焼を制御することが困難となり,重大な火災被害を起こしやすい.また,近年では,自動車ガソリンを可燃物として使用する放火事件が頻発しており,社会的な問題となっている.本稿では,石油系液体燃料のおもに散布・漏洩時における火災危険性評価に役立つ情報として,石油系液体燃料の燃料特性・蒸発特性・拡散特性・燃焼特性について調査した過去の研究例を紹介する.
新潟県中越沖地震による東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所内に設置されている屋内外タンク貯蔵所,消火用水配管および水タンク等の被害を調査した.その結果,屋内外タンク貯蔵所には,大きな被害はなかったものの,水タンクや埋設水配管等に被害が発生していた.ここでは,施設等の被害状況を報告する.
平成15 年8 月,三重ごみ固形燃料発電所RDF 保管施設において複数の死傷者が出る火災・爆発事故が発生した.また,同年9 月に大牟田リサイクル発電所,10 月に石川北部RDF センターのRDF サイロにおいても発熱トラブルが発生した.大牟田リサイクル発電所および石川北部RDF センターの事例では,サイロ内への窒素ガス大量封入により沈静化が図られたが,RDF に対する社会的不安が増大しRDF 貯蔵時の安全対策が喫緊の課題となった. 大牟田リサイクル発電所ではこのトラブル時の対応を基に,サイロ内を希薄酸素環境とすることによる安全対策を採用し,実機における検証試験,シミュレーションによるサイロ内の熱解析等各種試験を実施してきた.その結果,RDF の特性および本安全対策の有効性など多くの科学的知見を取得することができた.
東京電力においては,平成14 年の不祥事に対する対策をいまも継続しているが,この『しない風土』,『させない仕組み』という対策に加えて,昨年から『言い出す仕組み』を掲げて,取り組んでいる.原子力においては安全の達成が何よりの課題であり,これらの対策の確実な遂行により実現されるものであるが,本稿においては,安全に対する取組みを,不適合管理とヒューマンエラー対策の観点でより詳細に紹介する.特にヒューマンエラー対策では,分析の結果,コミュニケーションの不足,リスク予測の不足,管理の不足が大きな課題であると結論し,その対策を具体的に紹介した.
酸化性物質の定義,一般的特徴,法規制,評価試験方法,取り扱い上の注意,事故事例について概説する.酸化性物質は,国内では消防法および労働安全衛生法,国際的には「危険物輸送に関する国連勧告」によって定義されている.酸化性物質は一般に化学的に活性で,可燃物との混合により条件によっては発火,爆発や火災の原因となるため,法令遵守はもちろんであるが,それぞれの物質の有する危険性に応じた取り扱いをする必要がある.ここでは酸化性物質の事故事例として,産業界での事故と実験室での事故を紹介する.