安全性は,信頼性と似てはいるが異なる概念である.人命を預るような分野では,たとえ信頼性を下げてでも安全性の確保が優先される.しかし,一般にフェールセーフは単なる多重安全として信頼性と同じ扱いを受けており,そのためシステムの安全な構造を作るための論理が広く理解されていない.ここでは,危険要因であるエネルギーの安全制御がフェールセーフ技術によっていかに達成されるかについて,特に,フェールセーフを実現するための準備について,安全制御の論理に基づいて概説する.
安全工学の範ちゅうは機器・プラント・環境と広範であるが,そのすべての分野において・実時問にシステムの変化をとらえ,将来を予測し,災害,公害を未然に防ぐことが重要である。そのためには,これらの対象を動的プロセスとしてとらえて観察し,予測モデルを構築し,それに基づいて正常状態からの逸脱をとらえることが有効である,本報では,まず動的プロセスとそのモデル化に関し述べる.つぎに予測モデルとしてカルマンフィルタを取り上げそのアルゴリズム・特徴を,状態の逐次推定法としてベイズの定理を取り上げその原理を述べる.さらに,これらの設備診断での応用,反応槽温度,騒音,環境問題への応用法,治水,化学プラントでの適用例,非線型系などへの拡張について解説する.
炭鉱における坑内火災や炭じん爆発などの跡ガスから逃れるために坑内退避所が設置されている.しかし多くの退避所の構造や設備は,従来の経験などに基づいており,その設置基準の基礎資料を得るため呼吸環境に関する実験を行った.人の呼吸状況の測定,小型試験槽や実規模退避所模型を使用したO2やCO2濃度などの呼吸環境について評価実験と検討を行った. 実験の結果,10m3の退避室内に10人の被験者がろう居して,何も補給しない場合は時問とともにO2濃度が減少し,CO2濃度が増加する.酸素3l/minの補給では02濃度だけは石炭鉱山保安規則の範囲内に保持できる.しかし300lmin以上の空気を補給することにより,規則の範囲(0219%以上・CO2 1%以下)内に保持することが可能であり,また内圧がやや高くなるため煙の侵入防止を期待すること ができる.
高橋正 被験者試験により,運動時における呼吸可能な上限の吸気温度を求め,高温空気の体感される熱さの指示指標について調べた,その結果,吸気の乾球温度は体感される熱さに無関係であり,湿球温度の値の大小が直接的に影響していることがわかった.また,呼吸量Q〔」/min〕の呼吸が温度可能な上限の湿球温度Twb〔℃〕に与える影響を調べたところ Twb=55.4-0.057Q となった.このことから,呼吸量の増加は体感される吸気の熱さにさほど影響しないことがわかった。 なお,呼吸可能な限界時における硬口蓋の皮膚表面の温度は呼吸量に関係なく42~43℃であった.
産業災害の特徴を把握する目的で,災害データベースの文字データの解析に数量化3類を応用した.この手法は産業災害の要因の相互関係の理解に有効であることがわかった. 実際には,解析のための坑内火災データベースを構築した,別に火災発生に関与するキーワードを設定し,データベース中の文字データが,どのキーワードを含むかを調べ,キーワード反応パターンを作成した。このパターンを対象に数量化3類の処理を行い,火災発生キーワードおよび火災の特徴を検討した.
近年,産業構造のハイテク化により,県内に先端技術産業の研究所など研究開発型企業の立地が著しいが,一方でこれらのハイテク事業所で使用される化学物質による環境汚染や災害事故が懸念されてい る. このため神奈川県では,新規に立地する事業所に対して平成2年7月から「先端技術産業立地環境対策暫定指針」を,また既存の事業所に対しては平成3年4月から「神奈川県化学物質環境安全管理指針」を施行しているので,本県における化学物質環境保全対策の概要について紹介する.