日本集中治療医学会雑誌
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17 巻, 1 号
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今号のハイライト
総説
  • 今井 由美子, 大戸 貴代, 久場 敬司
    2010 年17 巻1 号 p. 11-17
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    2009年4月,メキシコと米国で,これまで検出されていなかった新しいタイプのブタ由来のH1N1新型インフルエンザ(2009年H1N1)ウイルスの感染者が報告された。その後,2009年H1N1は瞬く間に全世界に広がり,世界的大流行(パンデミック)を起こしている。これまでのところ,2009年H1N1は弱毒型であるものの,季節性インフルエンザよりは毒性が強いとされている。海外では集中治療を必要とする重症例が多数報告されている。日本においてもその数は海外に比べて明らかに少ないものの,2009年秋以降,患者数の爆発的増加に伴い急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)をはじめとした重症例の報告が相次いでいる。その中には,体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation, ECMO)を必要とするような最重症例も含まれている。このような状況を背景に,2009年H1N1ウイルスの特徴および臨床像,特に国内外の重症例に焦点を当てて述べる。次いで,インフルエンザウイルスがARDSをはじめとした重篤な呼吸不全を引き起こす分子機構に関して,宿主応答の観点から最近の知見を中心に述べる。
解説
  • —無作為化比較対照試験の知見と問題点—
    杉山 摩利子, 真弓 俊彦, 森 久剛, 鈴木 秀一, 都築 通孝, 小野寺 睦雄, 有嶋 拓郎, 高橋 英夫
    2010 年17 巻1 号 p. 19-25
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    【目的】Surviving Sepsis Campaign guidelines 2008では,輸血開始基準として,Hb値が7 g·dl−1以下になった場合に赤血球輸血を開始するとされている。今回,重症患者における赤血球輸血開始基準について文献を網羅的に検索し,その問題点について検討した。【方法】PubMedにて検索して得られた無作為化比較対照試験(randomized controlled trial, RCT)の395文献から,Hb値7~9 g·dl−1などを目標とするrestrictive transfusion strategy(R群)と,Hb値10~12 g·dl−1などを目標とするliberal transfusion strategy(L群)について比較している文献を抽出し,検討した。【結果】該当文献は7件あり,そのうち4件は他の大規模なRCTのサブグループ解析であった。30日後死亡率や多臓器不全発生率において,いずれの研究もR群はL群と比較して同等か軽減する可能性が示された。【結論】今後さらなる研究が必要であるが,重症患者ではHb値7~9 g·dl−1程度を目標とした管理が望ましい。
原著
  • 石井 瑞恵, 藤井 洋泉, 川西 進, 渡邊 陽子, 奥 格, 實金 健, 福島 臣啓, 時岡 宏明
    2010 年17 巻1 号 p. 27-32
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    【目的】敗血症性ショックの治療において,バソプレシンの有効性が報告されている。バソプレシンは強力な血管収縮作用を有するため,安全性確立のために重要臓器の血流評価が必要である。我々は,非侵襲的なパルスドプラエコーを用いて肝・腎の血流評価を行った。【方法】ノルエピネフリン抵抗性の敗血症性ショック患者10名に対して,バソプレシン0.016 U·min−1を持続投与し,投与開始前および投与中の肝・腎血流を測定した。測定項目は収縮期最大流速と末梢側の血管抵抗を表すresistive index(RI)とした。【結果】投与前値と比較して投与中は,門脈血流速度で105±48%(平均値±標準偏差),肝動脈の収縮期最大流速で101±24%,肝動脈のRIで98±10%,腎葉間動脈の収縮期最大流速で114±43%,腎葉間動脈のRIで100±5%の変化がみられ,著しい血流速度の低下あるいは血管抵抗の増加は認められなかった。【結論】敗血症性ショック患者におけるバソプレシンの少量持続投与では,血管収縮による肝・腎の著しい血流低下は認められなかった。
  • 藤木 早紀子, 志馬 伸朗, 廣瀬 有里, 小阪 直史, 藤田 直久
    2010 年17 巻1 号 p. 33-38
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    【目的】深在性真菌症の診断におけるβ-D-グルカン(BDG)の測定意義と適正な適用・評価法を考察した。【方法】単一大学病院の感染症検査室および薬剤部データベース解析により,1998~2005年に培養検査にて同定された深在性真菌症診断時のBDG値の使用価値を評価した。さらに,2005年度の抗真菌薬の使用開始理由とコストを調査した。【結果】(1)Receiver operating characteristic curve(ROC曲線)解析の結果,真菌血症時のBDGのcutoff値は11 pg·ml−1であった。(2)感度76.1%,特異度78.7%,陰性予測率99.7%であった。(3)抗真菌薬使用開始理由で,BDGを含む血清診断は24.4%を占めた。抗真菌薬使用患者のうち監視培養なし,もしくは監視培養指数0の症例を合わせると81.8%を占めた。(4)抗真菌薬コストは,広域スペクトラム抗菌薬コストに匹敵した。【結論】BDGは陰性予測率が高いため,除外診断検査として有用である。しかし,過剰診断・治療と支出増につながる危険性があり,患者背景や監視培養指数を加味した適応・評価が必要である。
症例報告
  • 佐藤 美香子, 五十嶺 伸二, 境田 康二, 金沢 剛, 水嶋 知也, 後藤 眞里亜, 花上 和生, 比留間 孝弘
    2010 年17 巻1 号 p. 39-42
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    劇症分娩型A群レンサ球菌感染症は,経過が特に急激であり,母子ともに不幸な転帰をたどることが多い。妊娠早期における本症の1救命例を経験したので報告する。患者は34歳女性。嘔気,下腹部痛を主訴に他院より紹介となった。来院後,排尿時に妊娠15週前後の胎児を娩出した。直ちに子宮内容除去術を施行したが,術後数時間で敗血症性ショック,多臓器不全となり集中治療を開始した。膣培養よりA群レンサ球菌が検出され,劇症分娩型A群レンサ球菌感染症と診断し,アンピシリン,クリンダマイシンの投与を開始した。第38病日には合併症なく退院となった。本症の報告例はほとんどが妊娠後期であり,救命例は少ない。今回救命できた要因としては,妊娠週数が早く,結果的に感染巣の除去となる子宮内容除去が迅速に施行されたことと,早期から集中治療が行われたことが考えられる。産科領域における敗血症では,経過が急激である本症も考慮する必要がある。
  • 田中 進一郎, 布宮 伸, 和田 政彦, 三澤 和秀, 鯉沼 俊貴, 小山 寛介, 水田 耕一, 安田 是和
    2010 年17 巻1 号 p. 43-48
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    新生児期の劇症肝不全は稀だが致命率の高い病態であり,しばしば肝移植術が必要となる。我々は,生下時より劇症肝不全を発症し,現時点で国内最年少,最軽量となる生後17日,体重2,590 gで父親をドナーとする生体肝移植術を施行された1症例を経験した。患児は,生後8日目に劇症肝不全の診断で血漿交換と持続的血液濾過透析が開始され,生後16日目に当院にヘリコプター搬送された。前医に引き続き血漿交換と持続的血液濾過透析を施行後,翌日に生体肝移植術を施行。術後は除水目的に持続的血液透析を要したが63時間で離脱,術後4日目には人工呼吸器から離脱した。新鮮凍結血漿を補充しながら,メシル酸ナファモスタットなどによる抗凝固療法を行った。ステロイドは通常の小児と同様のプロトコールで,タクロリムスは通常の小児の場合の約7割のトラフ値を目標に免疫抑制療法を行った。急性期拒絶反応の所見もなく,ICU入室10日目に一般病棟に退室した。
  • 林 振作, 橘 一也, 竹内 宗之, 木内 恵子
    2010 年17 巻1 号 p. 49-53
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    近年,小児および新生児領域でも,重症頭部外傷や低酸素性脳症に対する脳低温療法が注目されてきた。今回,院外で心肺停止をきたした日齢57の蘇生後脳症の乳児に対し,脳低温療法を施行した。食道温34℃を72時間維持し,その後1℃·day−1の速度で復温した。来院時には対光反射陰性,脳波平坦,自発呼吸消失と重篤であったが,第2病日には対光反射が出現,第8病日には脳波も正常化した。第14病日に人工呼吸器から離脱し,第16病日に小児集中治療室を退室,第43病日に退院となった。その後9ヶ月時には,一人で座位がとれるようになった。小児を対象とした脳低温療法の適応や方法については検討すべき課題も多いが,本症例では脳低温療法が神経学的予後の悪化防止に有効であった可能性がある。
  • 齋藤 浩二, 星 邦彦, 佐々木 規喜, 吾妻 俊弘, 江島 豊, 黒澤 伸
    2010 年17 巻1 号 p. 55-58
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,男性。原発性肺高血圧症に対し生体肺移植術が施行されたが,移植肺が小さく心機能も低下していたため,経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)装着下にICUに入室した。術後2日目にPCPSから離脱したが,動肺コンプライアンスが不良であったため人工呼吸を継続した。術後9日目に肺動脈圧が上昇して肺/体血圧比が高値となり,換気も不良となった。拒絶反応に起因すると考えられる肺水腫を認め,PCPSを再度導入した。水分バランスの是正を行い心拍出量を抑えることで,肺動脈圧の上昇もみられなくなったため,PCPS,人工呼吸器から離脱した。移植肺が小さい症例では肺血管床が小さくなるため肺水腫をきたしやすい。本症例では肺/体血圧比の推移が移植肺の状態を反映していたと考えられた。
  • 島田 忠長, 織田 成人, 貞広 智仁, 仲村 将高, 平山 陽, 安部 隆三, 平澤 博之, 中西 加寿也
    2010 年17 巻1 号 p. 59-63
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    症例は2歳男児。ICU入室9日前より発熱と咽頭痛が,ICU入室前日に嘔吐と下痢が出現した。ICU入室当日には意識障害をきたし,家人が近医に搬送している途中で心肺停止に陥った。近医での蘇生により心拍・呼吸は再開したが意識は戻らず,当院紹介となった。当初,溶血性尿毒症症候群を疑い,持続的血液濾過透析及び脳低温療法を含めた集中治療を開始した。しかし,便培養ではベロ毒素非産生性の大腸菌O-1が検出され,頻回の輸血にても血小板数は回復しなかった。そこで,第11,12 ICU病日に血栓性血小板減少性紫斑病を疑診し血漿交換を施行したところ,病態の改善を得られた。第15 ICU病日には,a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif, number 13活性の低下及び抗体の存在が判明し,血栓性血小板減少性紫斑病の確定診断となった。その後全身状態は改善し,第20 ICU病日に一般病棟へ転出した。
研究速報
  • 三浦 真由美, 志馬 伸朗, 西内 由香里, 齊藤 朋人, 藤木 早紀子, 橋本 悟
    2010 年17 巻1 号 p. 65-68
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    Ventilator-associated pneumonia (VAP) is the most serious but preventable infectious complication in intensive care unit. Ventilator care bundle has been proposed as a possible tool in preventing VAP. Scarce data, however, have been reported regarding the bundle, and no studies exist specifically in Japanese practice. We conducted a 2-year prospective survey to elucidate the adherence rate and efficacy of ventilator bundle in a single-institute. We investigated the adherence rate of the 4 components of ventilator bundle and incidence of VAP in 109 intensive care patients receiving mechanical ventilation >48 hours on daily basis for 7 days starting the initiation of mechanical ventilation. The 4 components of the bundle included: 1) head of bed (HOB) elevation, 2) sedation vacation (daily discontinuation of sedatives), 3) peptic ulcer prophylaxis, and 4) deep venous thrombosis prophylaxis. The adherence rates of deep vein thrombosis prophylaxis (P = 0.02), and all of the 4 components (P = 0.04) were increased significantly in year 2007 compared with those of year 2006. When evaluating the adherence in the first 48 hours, the rate of HOB elevation improved significantly in year 2007 compared with that of year 2006 (P = 0.02). The adherence rates of HOB elevation and sedation vacation component were relatively lower than the other two components. The incidence of VAP per 1,000 ventilator days decreased from 12.7 in year 2006 to 5.2 in year 2007. Improvement in the adherence rate, specifically focusing on HOB elevation and sedation vacation components, should further be directed by using educational approach for healthcare personnel and application of protocolized care.
短報
レター
緊急調査報告
  • 志馬 伸朗, 清水 直樹, 植田 育也, 中矢代 真美, 渡部 誠一, 平井 克樹, 阿部 世紀, 中川 聡
    2010 年17 巻1 号 p. 87-95
    発行日: 2010/01/01
    公開日: 2010/07/30
    ジャーナル フリー
    【目的】日本集中治療医学会新生児・小児集中治療委員会の事業として,我が国での2009年豚由来A型新型インフルエンザ(A/H1N1 pdm)流行初期の小児重症症例の集積を試みた。【方法】対象は2009年8~10月にH1N1感染が確認され,ICUで人工呼吸を要した15歳未満の患者について,所定の様式に従い情報提供された。【結果】合計9症例(年齢中央値5歳3か月)であった。Pediatric Index of Mortality-2スコアによる平均予測死亡率15.4%に対し,実死亡率は0%であった。人工呼吸適用理由は5症例が呼吸不全(喘息・気管支炎,肺炎),3症例が意識障害(脳症),1症例が循環不全(心筋炎)であった。2症例で体外式心肺補助を必要とした。全症例でリン酸オセルタミビルが投与され,開始日中央値は発症1日後であった。【結語】今後,さらなる症例集積と統計学的手法を取り入れた追加解析を行い,診断治療指針の確立につながる知見を提示する必要がある。
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