日本集中治療医学会雑誌
Online ISSN : 1882-966X
Print ISSN : 1340-7988
ISSN-L : 1340-7988
18 巻, 1 号
選択された号の論文の28件中1~28を表示しています
今号のハイライト
総説
  • 江木 盛時, 西村 匡司, 森田 潔
    2011 年18 巻1 号 p. 25-32
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    【背景】重症患者の発熱は頻繁に生じ,外表クーリングや薬物による解熱処置が日々行われている。しかし,発熱を解熱すべきか否かに関する治療指針は存在しない。【方法】発熱と解熱処置が患者予後に与える影響に関してsystematic reviewを行った。【結果】発熱あるいは解熱処置が患者予後に与える影響を検討した研究は,27文献存在した。これらの文献から,以下のような見解を得た。(1)発熱の発生は,重症患者の死亡率増加に関与する。(2)感染症合併患者では,発熱が死亡率低下に関与する可能性がある。(3)発熱に関する観察研究で解熱処置の情報を含めて解析したものはない。(4)積極的に解熱処置を行うことで,患者予後が悪化する可能性がある。【結語】重症患者の発熱を解熱すべきであることを示す根拠は乏しく,一概に解熱処置を行うことは推奨されない。この分野の知見を深めるために,十分なpowerの大規模多施設前向き観察研究を実施する必要がある。
  • 志馬 伸朗, 細川 康二
    2011 年18 巻1 号 p. 33-42
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    ICUの感染症診断の要点は,抗菌療法に直接結びつく感染臓器や起炎病原微生物の同定,重症度の評価である。感染巣からの微生物の分離同定が診断のゴールドスタンダードだが,これは迅速性に欠け,制約から適切に検体が採取できない場合もある。感染に伴う炎症反応のバイオマーカとしてのprocalcitonin(PCT)やsoluble triggering receptor expressed on myeloid cells-1(sTREM-1)は補助的に用い得る指標である。PCTを臨床診断アルゴリズムに取り入れることで,抗菌薬の使用日数を短縮できる可能性が示唆されている。新しいバイオマーカの断続的な研究成果があるが,臨床的に有用な指標の確立は容易ではない。利用できる微生物学的検査を正しく有効に利用すると共に,患者重症度を的確に把握し,既存の感染症バイオマーカを適正に使用して,総合的な感染症診断を行う必要がある。
解説
  • 今井 孝祐
    2011 年18 巻1 号 p. 43-47
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    学術学会機関誌に論文が掲載されたことは,その学会が,現在の学術レベルから見てその論文内容を妥当であると認めたことを意味する。この認定過程は,論文内容と同じ研究分野に携わる複数の研究者が論文を読む査読(peer review)により行われる。査読は多くの時間を費やす困難なものであるが,査読者の研究分野の発展を望む熱意に基づき無報酬で行われ,学術雑誌の刊行を維持する基本的要素である。雑誌の根幹をなすのは原著論文であり,明確な仮説を著者が立て,これを著者の方法論でもって検証し,その結果を明示し,仮説が立証されたか否かを論述するものである。雑誌の評価は掲載された論文の質,重要性,力強さによるものであり,impact factorの高さでなされるものではない。論文を読むにあたっては,常に書く立場から読むことが大切である。
  • 黒田 泰弘
    2011 年18 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    原著は,要約,目的,対象と方法,結果,考察,結論,参考文献,表,図説明文,図から構成される。書き上げる順序は,まず「方法」を書き,次いで「図表」を作りながら「結果」をまとめる。その後,「考察」を仕上げ,「目的」をまとめる。「方法」の中で結果を述べてはならない。結果を容易に理解させるために必要な図表は,投稿雑誌に合わせて作成する。図には適切な「説明文」,表には適切な「表題」が必要であり,これらは図表そのものより重要である。「考察」では,得られた結果を考察するべきであり,一般論を述べてはいけない。また,得られた結果からの過剰な推測は慎むべきである。「目的」は論文全体の構想がまとまった後の方が仕上げやすい。「文献」はよく読んでから正しく引用する。「要約」はそれ自体独立したもので,目的,対象と方法,結果,結論と構造的に分けてまとめる。論文作成の際は,雑誌の投稿規定を細かく読むべきである。
原著
  • 工藤 大介, 山内 聡, 遠藤 智之, 池田 雄一郎, 野村 亮介, 小林 道生, 篠澤 洋太郎
    2011 年18 巻1 号 p. 57-62
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    【目的】内科ICUにおける抜管失敗患者の予後は悪いが,救命救急センターICU(以下,救命センターICU)での検討はない。救命センターICUにおける抜管失敗率低下のための前段階として,救命センターICUでの抜管失敗について検討した。【方法】18ヶ月間に当院高度救命救急センターに入院し,6時間以上の人工呼吸器管理を要した患者を対象とし,抜管失敗(予定抜管後72時間以内の再挿管)例の特徴,予後などを後方視的に調査した。【結果】対象112人,114回の人工呼吸器管理適応は肺性因子15.8%,心性因子9.6%,神経性因子20.2%,その他54.4%であった。抜管失敗は12回(10.5%)で,抜管失敗の原因は気道の問題11回,非気道1回であり,再挿管までの時間は1.5(1.0~7.8)時間,死亡は1人(8.3%)であった。【結論】内科ICUに比し抜管失敗率は同等だが,救命センターICUでの抜管失敗は気道の問題が多く,再挿管までの時間は短く,死亡との関連は少ない。
症例報告
  • 山村 仁, 高橋 誠, 仲村 光世, 溝端 康光, 西澤 聡, 李 栄柱
    2011 年18 巻1 号 p. 63-66
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    麻酔導入後に用いた薬剤が原因と考えられるアナフィラキシーショックから心停止に至った症例を経験した。患者は55歳,男性で,食道癌根治術予定であった。麻酔導入後に抗菌薬とステロイドを投与した際に,アナフィラキシーショックを起こし血圧が低下した。心肺蘇生を行い約24分後に心拍が再開し,経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS),大動脈内バルーンパンピング (intra-aortic balloon pumping, IABP)などを用いた全身管理の結果,第4病日にPCPSより離脱し,第8病日に抜管でき後遺症なく救命できた。心拍再開にアドレナリンは無効であり,バゾプレッシン投与が有効であった。麻酔中の心停止であったため,心拍再開まで絶え間ない心肺蘇生を行えたこと,心拍再開後に直ちにPCPSを開始できたこと,などが後遺症なく救命できた要因と考えられた。
  • 江田 陽一, 藤田 基, 金子 唯, 宮内 崇, 井上 健, 鶴田 良介, 笠岡 俊志, 前川 剛志
    2011 年18 巻1 号 p. 67-72
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    肝疾患および糖尿病などの危険因子はないが,胃全摘・脾摘の既往がある患者に発症したVibrio vulnificusによる壊死性筋膜炎に対し,両側下腿切断術とエンドトキシン吸着療法を施行し救命し得た。症例は67歳,女性。両側下腿の蜂窩織炎・敗血症性ショックの診断で当センターに転院搬送された。9年前に胃癌に対し胃全摘と脾・膵尾部合併切除術が行われたが,再発はなかった。身体所見と魚介類の生食歴から本疾患を疑い,抗菌薬を開始した。血圧は輸液・昇圧薬に反応せず,皮膚所見の拡大と全身状態の悪化を認めたため,来院から8時間後,両側下腿切断術を施行した。術後にエンドトキシン吸着療法を2回施行し,ショックを離脱した。第12病日には全身状態良好となり転院となった。本疾患の危険因子の一つとして胃切除および脾摘の既往を考慮する必要があり,救命のためには早期の外科的治療の決断が重要であると考えられた。
  • Junji Shiotsuka, Hidetaka Nishina, Masamitsu Sanui, Maya Ohashi, Alan ...
    2011 年18 巻1 号 p. 73-76
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    A 66-year-old female presented with progressive left-sided chest pain. The electrocardiogram (ECG) showed changes typical of an anterior wall myocardial infarction. She immediately underwent coronary angiography which revealed normal coronary arteries. Cardiac MRI (CMR) was then performed, which showed diffuse high intensity on T2-weighted images and transmural late gadolinium enhancement (LGE) in the apical wall. While transmural LGE was not typical for myocarditis, the patient was diagnosed with acute myocarditis based on the clinical and angiographic findings in addition to the high intensity of T2-weighted image. During the course of the disease, the apical wall developed an aneurysm corresponding to the area of transmural LGE on CMR and an intraventricular thrombus formed in the aneurysm. She was given heparin and discharged after resolution of the thrombus. Further evaluation is warranted if this uncommon imaging finding is detected to prevent thromboembolic complications.
  • 長谷川 豊, 江連 雅彦, 佐藤 泰史, 岡田 修一, 小此木 修一, 金子 達夫, 河口 廉, 外山 卓二
    2011 年18 巻1 号 p. 77-82
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    症例は37歳の女性。急性心筋炎の診断で他院に入院したが循環状態が悪化し,大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping, IABP)を挿入され,当院に搬送された。多臓器不全,ショックの状態で,気管内挿管,経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)を導入し,持続的血液濾過透析を開始した。PCPSを4日間続けたが心機能の回復がみられなかったため,第5病日に左心補助人工心臓(left ventricular assist device, LVAD)を装着した。右室の運動も不良で右心補助人工心臓(right ventricular assist device, RVAD)を追加した。その後,心機能は徐々に改善し,術後11日目にLVAD,RVADから離脱,術後14日目にIABPから離脱した。術後24日目に人工呼吸器から離脱し,間歇透析に移行,術後29日目にICUを退室,術後49日目に透析から離脱した。経過中に右脳梗塞を生じたが回復し,術後102日目に軽快退院した。IABPやPCPSでも治療に抵抗性の重症心不全に対し,補助人工心臓は有効な治療手段である。合併症や臓器障害が進行する前にその導入を検討するのが望ましい。
  • 小林 かおり, 吉田 暁, 宮島 衛, 広瀬 保夫, 野本 優二, 新國 公司, 高井 和江
    2011 年18 巻1 号 p. 83-87
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    血球貪食症候群は,高サイトカイン血症により組織球が異常に活性化・増殖し,血球貪食像を呈する病態である。ウイルス性感染や悪性腫瘍に合併することが多いが,近年は他の様々な病態に合併することが明らかになってきている。症例は62歳,女性。発熱,下痢,嘔吐を主訴に受診し,来院時はショック状態であった。入院後も水様便を繰り返し,播種性血管内凝固症候群,急性腎不全,横紋筋融解症などに陥った。フェリチンが異常高値であり,骨髄生検で血球貪食像を認めたため,血球貪食症候群と診断した。ステロイド投与にて速やかに全身状態は改善した。後に便培養からAeromonas hydrophilaBacillus cereusStaphyrococcus aureusが同定された。本症例では,細菌性腸炎の経過としては典型的ではなかった。フェリチン異常高値が血球貪食症候群と診断する端緒となった。細菌感染症においても,適切な全身管理・抗菌薬投与にかかわらず,状態の改善がみられない場合や汎血球減少を認めた場合では,血球貪食症候群も鑑別診断の候補として考慮する必要がある。
  • 向山 剛生, 守谷 俊, 宮下 直也, 櫻井 淳, 木下 浩作, 丹正 勝久
    2011 年18 巻1 号 p. 89-93
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    急性硬膜下血腫により圧迫されていた血腫直下脳組織の脳虚血病態を評価する目的で,マイクロダイアリシス(microdialysis, MD)によりグルタミン酸濃度を経時的に測定した。【症例1】では,血腫除去後,圧迫されていた脳組織のグルタミン酸濃度は正常であった。対側のグルタミン酸や頭蓋内圧も同様に正常であった。測定開始から3時間後に損傷側のグルタミン酸濃度が上昇を始めた。さらに約2時間後には,対側のグルタミン酸濃度の上昇とともに頭蓋内圧が20 mmHg以上まで上昇した。頭部CTで圧迫されていた脳組織に脳浮腫が認められた。【症例2】は,圧迫されていた脳組織のグルタミン酸は測定開始時から高値であったが,測定開始から3時間以内に正常まで低下した。対側のグルタミン酸濃度や頭蓋内圧の上昇は認めなかった。MDは急性硬膜下血腫により圧迫されていた脳組織の脳虚血病態の評価に有用であった。今後,同様の臨床設定での症例の蓄積が必要である。
  • 菊池 忠, 垣花 泰之, 中原 真由美, 岡山 奈穂子, 今林 徹, 安田 智嗣, 上村 裕一
    2011 年18 巻1 号 p. 95-99
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    患者は5歳の男児。発熱,嘔吐,痙攣が出現したため近医へ救急搬送され,抗痙攣薬投与,気管挿管後に,新型インフルエンザ脳症の診断にて当院へ紹介搬送された。ICUにて鎮静下に人工呼吸管理,および脳浮腫に対する治療を開始した。その後痙攣はみられず,第7病日,デクスメデトミジンのみ投与しながら覚醒させ抜管した。しかし,抜管直後より上気道狭窄音,陥没呼吸,努力性呼吸,頻呼吸を認めたため,ヘルメット型マスクCASTER“R”小児用を装着し非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation, NPPV)を開始したところ,呼吸状態はすぐに改善した。エア・リークはほとんど認めなかった。患児が嫌がる様子はなく,意志疎通も可能であり,声もはっきりと聞き取れた。翌日NPPVから離脱でき,再挿管を回避できた。ヘルメット型マスクは圧迫感がなく,小児でも受容性が高いため,小児にNPPVを施行する際に有用なデバイスとなることが示唆された。
  • 虎岩 知志, 斎藤 浩二, 吾妻 俊弘, 星 邦彦
    2011 年18 巻1 号 p. 101-104
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    成人型Still病は,全身性の炎症疾患で多臓器に合併症をきたす。合併症としては心外膜炎や胸膜炎が多く,心筋炎は稀である。今回,急性心筋炎の経過中に成人型Still病と診断された症例を経験した。症例は39歳,男性。下痢,嘔吐,倦怠感で発症した。翌日,心電図検査での広範なST上昇とトロポニンTの上昇を認めたが,冠動脈の有意な狭窄は認めなかった。胸水貯留,低酸素血症が進行し,人工呼吸管理,intra-aortic balloon pumping(IABP)を開始した。急性心筋炎の疑いでICUへ入室し,直ちにpercutaneous cardiopulmonary support(PCPS)を装着した。心機能は早期に改善し,ICU入室3日目にPCPS,4日目にIABPから離脱できたが,頻呼吸のため人工呼吸を継続した。5日目に紅斑が全身に出現した。感染症や悪性疾患を除外後,成人型Still病と診断された。14日目の副腎皮質ステロイドの投与開始後,解熱し,頻呼吸は改善した。20日目に人工呼吸器から離脱し,23日目にICUを退室した。
  • 吉本 昭, 有元 秀樹, 松浦 康司, 宮市 功典, 林下 浩士, 韓 正訓, 鍜冶 有登, 宮本 覚
    2011 年18 巻1 号 p. 105-109
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    セレウス菌は通常,食中毒の原因菌としてよく知られているが,脳症の合併は非常に稀である。今回我々は,セレウス菌食中毒に合併した脳症を経験した。症例は5歳の男児。昼食に前日調理のチャーハンを食べたところ,1時間後から嘔吐し,意識レベルの低下がみられ入院となった。頭部CTと臨床症状から急性脳症と診断し,脳圧センサーを挿入して脳圧管理を行った。管理目標は脳圧(intracranial pressure,ICP)を20 mmHg以下とし,脳灌流圧(cerebral perfusion pressure, CPP)を45 mmHg以上に保つようにした。児は救命できたが,重度の神経学的後遺症を残した。今回の経験により,小児の脳炎・脳症に対するICPモニタリングは,脳浮腫の進行を速やかに把握し,その上昇に対し迅速に処置を行えたことから,非常に有用であると考えられた。
短報
調査報告
  • 日本集中治療医学会危機管理委員会
    2011 年18 巻1 号 p. 119-125
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    各施設の集中治療室における災害に対する対応について,調査を行った(2009年8月時点)。その結果,以下の点が明らかとなった。(1)停電,水,ガスなどのライフラインの備えは,多くの施設で取られている。(2)地震などに備えた医療機器の固定設置,蘇生用具の準備もなされている。(3)災害時の指揮命令系統は,ほとんどの施設でマニュアル化されている。しかし,周知徹底されているかは不明である。(4)ICUに特化したマニュアルを作成している施設は少なく,また,災害訓練を行っている施設は半分に満たない。(5)インフルエンザ・パンデミックなどの危機的感染症に対しては,今後,対策を練るべく議論する必要があると思われた。
  • 日本集中治療医学会 新生児小児集中治療委員会 , 日本呼吸療法医学会 新型インフルエンザ委員会 , 日本集中治療医学会 新型インフルエンザ調 ...
    2011 年18 巻1 号 p. 127-137
    発行日: 2011/01/01
    公開日: 2011/07/20
    ジャーナル フリー
    【背景】本邦のICUにおいて新型インフルエンザA(2009-H1N1)感染患者に対して行われた人工呼吸管理などの集中治療の内容と,その結果は明らかではない。【目的】ICUに入室した2009-H1N1感染患者に行われた治療の有効性を検討する。【方法】研究計画はデータベースを分析する観察研究である。日本呼吸療法医学会と日本集中治療医学会の公告を受け自由に参加した施設から,事前に作成した情報収集様式を用いて患者情報を収集しデータベース(呼集–DB)を構築した。分析対象は2009年7月1日から2010年3月31日の期間に入院した患者とした。参加施設は67 ICU,患者数は219人であった。【結果】小児(年齢16歳未満)は162人で,その分布は中央値6歳(interquartile range, IQR: 5~9歳),成人(年齢16歳以上)は57人で中央値43歳(IQR: 31~56歳)であった。成人でbody mass index(BMI)が25以上の割合は35.7%(20/56),35以上は8.9%(5/56)であった。妊婦は2人。肺炎の合併は73.5%(161/219)であった。成人のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアは中央値19(IQR: 15~23),平均値19.6であった。小児で基礎疾患があった割合は3.7%(6/162)であった。小児の退院時死亡率は2.5%[95%信頼区間(confidence interval, CI): 0.7~6.2],成人の退院時死亡率は28.1%(95%CI: 17.0~41.5)であった。人工呼吸器は小児の79.6%(129/162),成人の94.7%(54/57)に装着されていた。そのうち,acute lung injury(ALI)は6人,acute respiratory distress syndrome(ARDS)は61人であった。ARDSのうち成人は39人,小児が22人であった。ALIの死亡は1人。ARDSの死亡率は成人33.3%(95%CI: 19.1~50.2)と小児4.6%(95%CI: 0.1~22.8)であった。人工呼吸器が装着された183人のうちpercutaneous cardio-pulmonary support(PCPS)あるいはextracorporeal membrane oxygenation(ECMO)が導入されたのは7.1%(13/183)であった(成人10人,小児3人)。死亡率は成人が20%(2/10),95%CI: 2.5~55.6で,小児の死亡はなかった。成人のARDSに対するPCPSあるいはECMOは6人に施行され,人工呼吸器の装着が継続された群と比較して死亡の危険を低下させる傾向が認められたが,有意差はなかった(odds ratio: 0.364, 95%CI: 0.04~3.52,chi-square: 0.181, P=0.671)。新型インフルエンザワクチン接種者と季節性インフルエンザワクチン接種者のいずれにも死亡はなかった。抗ウイルス薬の投与は,オセルタミビルが96.8%(212/219),ザナミビルが11.9%(26/219)であり,両者が投与されていたのは10.0%(22/219)であった。いずれも投与されていなかったのは1.4%(3/219)で,うち1例にはペラミビルが投与されていた。【結論】小児の死亡率は成人と比較して低く,成人の死亡率は諸外国の報告と比較して高かった。成人の2009-H1N1感染に起因するARDSに対し実施されたPCPSあるいはECMOは,有効である可能性はあるが,統計学的に有意差は認められなかった。呼集–DBには患者(標本)選択に偏り(sampling bias)があり,今回の分析結果を一般化することには限界がある。
feedback
Top