当センターでは,急性期のIRCUでの人工呼吸から,慢性期・在宅呼吸ケアまでの包括呼吸ケアを実践している.スムーズなウィーニングのために早期からの呼吸リハビリテーション併用,人工呼吸時の精神的なケアだけではなく,ウィーニング成功後は,一般呼吸器病棟へ転棟のうえ,酸素流量の再調整や急性増悪予防のための教育などが必要となり,チーム医療が必要となる.また,円滑な在宅呼吸ケアのための地域医療連携も重要である.
在宅訪問ケア,そこでは医療者は患者および家族が病をえて「家で暮らす」ことを実現するために日夜奔走する.病院では病を治すために医療者のための時間が流れる,家庭では患者および家族のために静かに時間が流れていく.病院と家の間にある深くて広い河をつなぐ虹の架け橋でありたいと著者は願う.
在宅ケアにおけるチーム医療の課題は,チーム内の各職種が属する機関,サービス提供の基盤となる制度等が異なる点にあり,関係機関の連携が最重要課題となる.呼吸領域においては,症状のアセスメントと管理が療養者の予後と生活の質に大きな影響を与える.また,急性増悪や医療機器のトラブルは生命の危機につながる可能性があるが,ケアの多くを家族や福祉系のスタッフが担っているのが現状である.療養者の安全性を確保するためには,主治医がリーダーシップをとり,看護職がケアの要となりアセスメントと管理を実施し,コメディカルとのサービスレイアウトおよび複雑な制度の活用を実施することが重要である.つまり,疾病特性に応じたコーディネートが在宅ケアのポイントといえる.
呼吸器疾患末期医療のポイントは,①緩和医療の考え方の導入,②予後を意識したQOLの向上,③全人的包括的ケアの提供,④ギアチェンジの必要性などである.その課題は,①患者と家族の多様なニーズの理解,②専門家の参加,③チームコーディネーターの重要性,④チームアプローチの標準化,⑤患者さんの視点に立った具体的技術の修得などである.
ホスピスケア認定看護師は緩和ケア(palliative care)における看護実践のエキスパートとして日本看護協会より303名(平成18年度)が認定されている.呼吸器領域においては進行がん患者の「息苦しさ」に代表される呼吸困難を全人的に捉えるtotaldyspneaの考え方を取り入れることが重要である.これを臨床現場に定着させ,ケアの具体策を見い出し実践していくことが,ホスピスケア認定看護師の重要な役割であると考える.
北米では呼吸療法士という呼吸療法の専門職があり臨床的に重要な役割を担っている.呼吸療法士の教育プログラムは各養成校で専門教科の講義と実習を受け,続いて臨床実習を行う形式である.また教育プログラム以外に呼吸療法士の育成をサポートするために教育機関の質の標準化を図るための認定機関,国家資格試験を担当する機関,学術誌発刊や学会の開催,ガイドライン作成などの学術的支援や呼吸療法士のネットワークを提供する機関などがある.これらにより呼吸療法士の教育・育成が行われている.
呼吸ケアを適切に行うには,各職種から構成されるチーム医療として実施することが重要であり,そのなかでも患者の呼吸状態を詳しく知ることのできる環境にある看護師の役割は最も重要である.そのため,呼吸ケアナースを教育するには,実践と乖離しない教育が必要と考えられ,それには,看護師と臨床工学技士がお互いの専門性を理解して連携することが重要であり,それにより,看護と人工呼吸器の効果的な教育が可能になると考えられる.
呼吸ケアを在宅で継続し有効な治療とするためには,地域におけるサポート体制の確立が重要である.呼吸ケアの地域における啓発,普及,スタッフの教育を目的として,看護師を中心としたコメディカルを対象に研修の機会を提供する研究会を主宰し,研修会参加者に対し参加前後でアンケートを実施し,その効果を検討した.1)研究会参加者の主体は看護師であり,看護職の呼吸ケアに関する関心度は高いと推定された.2)呼吸ケアを実施する際には患者指導の技術不足が実施の阻害因子になり,技術不足を解消する教育の場の不足が問題と考えられた.3)地域に根ざした研修の場を設けることにより,自己学習,職場での研修,患者指導の技術力の向上,専門職の育成などの効果があり,その効果は研究会への複数回参加者でより顕著であった.以上により,地域に根ざした呼吸ケアの研修の場を設けることにより,看護師を中心としたコメディカルの呼吸ケアの研修が進み,呼吸ケアの普及につながると推定された.
パルスオキシメータの正確なモニタリングを阻む2大要因は,患者の体動と低灌流(ローパーフュージョン).特に体動時は静脈などの非動脈成分も拍動するため,それら静脈などの信号と動脈からの信号を正確に識別できなければ正確なモニタリングが困難となる.
精度の良いパルスオキシメータを選択し使用すること,そして機器の長所,短所を正確に理解してうまく使いこなすことが肝要である.パルスオキシメータがもつ問題点,解決法,そして最新のパルスオキシメータについても考察してみたい.
急激な高度低酸素血症は生命にとって非常に危険な病態であり,パルスオキメータによる酸素飽和度(SpO2)の測定は低酸素血症の早期発見に有用である.また,パルスオキメータはSpO2の非侵襲的連続測定が可能であるため,手術・運動・睡眠時などにおけるSpO2のモニタリングにも有用である.市販されているパルスオキメータの測定精度は,SpO2の70~100%の範囲で±2%(SD)とされているが,SpO2<70%の高度な低酸素血症ではSpO2値の正確性は低下する.SpO2値の誤差原因としては,循環不全による拍動シグナル低下,異常ヘモグロビンの存在,マニキュア,プローブの動きと体動などが報告されている.しかし,昨年の本学会で,個々の誤差原因が存在してもプローブの改良などによりSpO2値が比較的正確であることを報告した.今回は,昨年の発表と一部重複するが,SpO2値の解釈における注意点,誤差原因を種々に組み合わせた影響と携帯用酸素供給器のパルスオキシメータ付きカプノグラフモニタを用いた比較検討結果を報告する.
近年,従来の経皮的二酸化炭素分圧(PtcCO2)測定装置を改良した測定装置(TOSCA,Linde)がヨーロッパで発表された.われわれは,同一被検者でさまざまなレベルのPaCO2とPtcCO2を直接比較することにより,この装置の精度を検証した.その結果,個人内でのPaCO2とPtcCO2の相関関係,平均反応時間は良好であり,数回の動脈血採血により得られたPaCO2とPtcCO2の関係を求めることで,臨床応用可能であることが示された.以上に加えて臨床使用経験も報告する.
NPPVは,急性呼吸不全,慢性呼吸不全に対し急速に普及しているが,モニタリングを適切に行うことにより,本療法をより安全で有効に施行することが可能となる.急性呼吸不全においては,まずは,導入時の症状,理学所見等の評価,病態把握が不可欠であり,ついで,人工呼吸管理下での呼吸状態の評価が重要である.人工呼吸器のモニタリング画面における,リーク量,呼吸数,換気量のみならず,気道内圧,肺気量,流速といった各種パラメーターの理解は,NPPVの管理技術向上に有用である.これらを駆使して,病状の改善・悪化を見極め,挿管人工呼吸管理への移行,NPPVの継続,離脱を判断する.慢性呼吸不全においては,在宅NPPVでのデータマネジメントツールを用いて,より適切な呼吸器の設定が可能となった.
COPD患者の呼吸リハの完遂と継続,その背景を調査した.導入プログラムの完遂率は66.7%,脱落群は他疾患を合併している高齢者が多かった.完遂群の継続率は39.3%,非継続群は重症度が高く,病院から自宅までの距離が2km以上で介護力が乏しい患者が多かった.これより呼吸リハ導入時の評価やプログラム内容の再検討の必要性,維持のための社会資源の活用や在宅を考慮したプログラム指導が重要であると思われた.
夜間在宅酸素療法高齢者(N─HOT群)6人と,一般高齢者(一般群)11人を対象に,心拍数と%最大心拍(%HRmax)を指標に太極拳八段錦(八段錦)実施時の運動強度を検討した.結果,各段の平均心拍数は両群ともに100 beats/min以下であった.N─HOT群では全段の平均% HRmaxは22.8±7.8% HRmaxで一般群の約2倍を示したが,両群において,相対的に低強度の運動であることが示唆された.
Berlin Questionnaire日本語版の妥当性を539名で,信頼性を209名で検討した.3カテゴリー中「いびき」「肥満と高血圧」は睡眠呼吸障害(SDB)と有意に関連し,信頼性を示すコーエンのκ係数が大きかった.「覚醒時の眠気・倦怠感」はSDBと有意に関連せず,κ係数が大きくなかった.SDBと睡眠時無呼吸症候群に対する日本語版の感度・特異度は38%・85%と42%・81%であり,判定基準を変更しても両方が同時に高くはならず,見直しの必要性が示唆された.
中等度から重度のCOPD患者15名と健常群15名を対象に,超音波診断装置による非侵襲的な側腹筋群の呼気活動評価を試みた.側腹筋群の呼気活動指標として側腹筋群の安静呼吸時筋厚変化(筋厚差)と最大呼気努力時筋厚を測定し両群を比較した.その結果COPD群の筋厚差は高値となり安静呼吸時における側腹筋群の呼気活動の増大を認めた.一方,最大呼気努力時の筋厚は同程度であり,中等度から重度のCOPD患者の側腹筋群の収縮能力は保たれている可能性が示唆される.
人工呼吸器装着者の安全な外出支援の基準化に資することを目的に,ALS/HMV療養者306名の外出状況と外出時のトラブルについて分析した.外出経験者236名(77.1%)中,トラブル経験者は73名(30.9%)であった.トラブルの内容は人工呼吸器系・人体系に分類され,電源供給不能や対象の移動に伴う人工呼吸システムの正常作動困難と外出先環境の未整備が特徴的であり,安全対策の周知・普及の重要性が示唆された.
人工呼吸管理を要した重症肺炎59例を対象としてretrospectiveに検証を行った.対象を人工呼吸器からの離脱群と非離脱群に分け,人工呼吸開始時の患者背景,vitalsign,検査値等について検討した結果,離脱群において人工呼吸管理開始時の血清総蛋白値,血清アルブミン値が有意に高値であった.
この結果から,人工呼吸管理開始時の血清総蛋白値,血清アルブミン値は人工呼吸器からの離脱を予測するうえで重要な判断項目であると考えられた.
医学の進歩が目覚しいなか,間質性肺炎を代表とする予後不良の呼吸器疾患終末期の呼吸困難は,非常に辛い症状であるにもかかわらず,その緩和に対する適切なガイドラインや,明らかに有効な緩和治療はいまだないのが現状である.モルヒネ持続皮下注射は,あらゆる治療が無効で呼吸困難が進行した間質性肺炎終末期の患者において,呼吸困難を最小限にとどめ,残された時間を個々が望む生命・生活の質を維持するのに有効であった.
COPDの管理における栄養指導の目的は体重増加に伴う病態の安定,急性増悪の回避,運動療法との相加効果といった具体的な目的意識を患者と共有することが大切である.栄養障害の評価では,動的体重減少の有無を絶えず意識し,急性増悪期からの栄養介入と安定期の栄養介入を区別して行う必要がある.栄養障害のある患者の問題点は,主観的包括的評価(SGA)と客観的栄養評価(ODA)により明らかにして個別的なプランニングを行う.栄養指導は早期から介入するが,段階的に目標摂取カロリーを上げながら患者をドロップアウトさせないように注意を払う.カロリー摂取は,呼吸商の面から脂質主体が望ましいが患者の嗜好も重視して継続できる内容とする.呼吸リハビリテーションにおける栄養指導は,常に運動療法との関係を意識したものでなければならない.
呼吸リハビリテーションにおいて薬物療法における患者指導の意義は大きい.呼吸器疾患における薬物療法は,その病態に応じて投与される薬剤の種類,用量,投与経路が異なるために,それぞれの疾患の病態生理,薬剤の作用機序についての正しい理解が必要である.薬物吸入療法が主体となるCOPDなどの慢性呼吸器疾患では高齢者が多いことから,吸入器や補助器の正しい使い方について繰り返し丁寧に指導することが基本となる.
症例は84歳の男性.肺結核後遺症による慢性呼吸不全の急性増悪時に自己の存在と意味の消滅に起因するスピリチュアルペイン類似の苦痛を生じた.病状の改善に加えて外国人介助者との人間的な交流が新たな自己の存在と意味を見い出すきっかけを与えることになり,この苦痛は消失した.慢性呼吸不全増悪時にはこの種の苦痛に対する対応が必要となる場合があり,その対応を評価することは医療の質を考えるうえで大切である.
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