総合健診
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44 巻, 3 号
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原著
  • 山上 孝司, 成瀬 優知
    2017 年44 巻3 号 p. 479-484
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     我々は、メタボリック症候群のリスクを複数持つ対象者に対して、頸動脈の動脈硬化を減速させる要因を検討した。
     研究対象は、26歳から63歳(平均±標準偏差;46.2±8.2歳)の男性114人。全員が、労災二次健診の対象者で、メタボリック症候群のリスク、すなわち肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖のうち3個あるいは4個を保持している。
     平成21年度と平成25年度に、対象者の両側の頸動脈の内膜中膜複合体の厚さの最大値(maxIMT)を計測した。両側のmaxIMTの平均値を計算し、max IMT平均値とし、以下の解析に供した。
     114例を、平成21年度のmaxIMT平均値が1.1mm未満の群と、1.1mm以上の群に分け、4年間のmaxIMT平均値の変化と、平成21年度における健康診断の結果との関連を検討した。
     maxIMT平均値が1.1mm以上の群においては、有意な関連は見られなかった。maxIMT平均値が1.1mm未満の群では、有意に関連する2つの要因が見出された。1つは年代であった。若い年代の症例は高齢の年代の症例より、4年間のmaxIMT平均値の増加量が少ない傾向にあった。他の1つは血清のLDLコレステロール値であった。血清コレステロール値を140mg/dL未満、140~159mg/dL、160mg/dL以上の3群に分けた時、140~159mg/dLの症例において、4年間のmaxIMT平均値の増加量が最も少なかった。
     結論として、動脈硬化が比較的進んでいない状態では、年齢が若い場合、血清のLDLコレステロールが軽度高値である場合に、頸動脈の動脈硬化の進展速度が遅い可能性が示唆された。
  • 金子 陽介, 中島 篤子, 中原 フミ子, 松本 由美, 深澤 千寿美, 吉田 智峰子, 佐々木 清寿, 増田 勝紀, 武田 京子
    2017 年44 巻3 号 p. 485-491
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     潜在性甲状腺機能異常症は、血清遊離サイロキシン(FT4)値は基準範囲にありながら、血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)値が基準範囲を超えて高値(機能低下)もしくは低値(機能亢進)を示す病態である。本研究では2004年4月から2014年3月までの10年間に当センターで実施した健康診断結果をまとめ、潜在性甲状腺異常症の出現状況について検討した。10年間の受診者は延べ386,846名で、潜在性甲状腺機能低下症と判定された頻度は全体の4.02%、潜在性甲状腺機能亢進症と判定された頻度は全体の1.23%であった。年齢別に検討すると、潜在性甲状腺機能低下症の出現頻度は加齢に伴って増加する傾向にあり、潜在性甲状腺機能亢進症の出現頻度は緩やかではあるが加齢に伴って減少する傾向を示した。また、年度別に検討すると、受診者数は2006年度以降ほとんど変動がないが、潜在性甲状腺機能低下症の出現頻度は増加傾向にあった。反対に潜在性甲状腺機能亢進症は減少傾向にあった。さらに、年齢別かつ年度別に検討すると、潜在性甲状腺機能低下症の出現例数は経年による傾向の変化は見られなかった。潜在性甲状腺機能亢進症は2006年度を除き40歳代にピークを認めるパターンを示すとともに、30歳代の出現例数は年々減少傾向が顕著であった。10年間を通して、潜在性甲状腺機能低下症は年々増加傾向にあり、潜在性甲状腺機能亢進症は減少傾向にあることが分かった。
  • 水野 杏一, 山下 毅, 小原 啓子, 近藤 修二, 船津 和夫, 横山 雅子, 本間 優, 影山 洋子, 中村 治雄, 横島 友子
    2017 年44 巻3 号 p. 492-498
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     肥満は心血管イベントの重要なリスク因子であるが、非肥満者でも他のリスク因子を持つとリスク因子を持たない例に比べ心血管イベントが2倍以上発症することが第5回特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会で報告され、非肥満者でも生活習慣病に対する取組を積極的に行うことが提唱された。そこで心筋梗塞や脳卒中を発症した人の健康診断結果を調査し、心・脳血管イベントは非肥満者でも発症するか、また、発症年齢についても調査を行った。A社(2015年の健康診断受診者8,813名 男性7,803、女性1,010名 平均年齢40.2歳)において2015年4月1日から2016年6月30日までの1年半の間に発症した心筋梗塞、脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)例の健診結果を調査した。心・脳血管イベントは17例発症した。全例男性で平均年齢は49歳であった。内訳は心筋梗塞が8例、脳卒中が9例(脳梗塞4例、くも膜下出血3例、脳出血2例)であった。心筋梗塞、脳卒中は約半数が40歳代で発症していた。特に心筋梗塞例の約3分の2が40歳代で発症していた。心・脳血管イベント発症例でのメタボリックシンドロームの合併は半数(47%)に過ぎなかった。BMI25以上を肥満と定義すると、肥満からの発症は17例中9例(53%)のみで、脳卒中例の多く(67%)が非肥満から発症していた。心・脳血管イベントは非肥満者から約半数発症するので、リスク因子を抱える非肥満者へも生活習慣病予防に関する取り組みを積極的に行っていく必要がある。心・脳血管イベントの半数が40歳代で発症しているので、特定健診の目的が症状の早期発見・早期対応ではなく、症状を来す前に指導を行い、疾患の発症を予防するための取り組みなら、症状を起こす前の30歳代からの特定健診が望まれる。
大会講演
日本総合健診医学会 第45回大会
  • 吉村 博邦
    2017 年44 巻3 号 p. 499-504
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     新たな仕組みによる専門医制度については、地域医療への影響や機構のガバナンスへの批判など多くの意見のある中で、平成28年7月に新理事会が誕生した。新理事会では、機構の基本的な姿勢として、機構と学会が連携して専門医制度を構築すること、機構と学会の役割分担の明確化を図り、学会は学術的な観点から責任を持って研修プログラムを作成することとした。機構の役割については、①学術的な観点から専門医制度の標準化を図り、領域学会に対してチェック機能、調整機能を発揮し、領域学会をサポートする、②専門医を公の資格(私でない資格)として認証する、③専門医に関するデータベースを各領域学会と共同で作成する、④専門医制度を通して、国民に信頼される良質な医療を提供するための諸施策を検討する、などとした。研修プログラム開始は1年間延期し、平成30年度に基本19領域で一斉にスタートすることを目指し、地域医療の確保対策や整備指針の改定を行っているところである。
     新整備指針では、基本領域の研修は原則として研修プログラム制で、研修施設群を形成しローテイト研修を行うこと、また診療に従事する医師は、いずれかの基本領域の専門研修を選択し、その領域の研修を受けることとなっている。サブスペシャルティ領域の研修はプログラム制、カリキュラム制のいずれも可とし、研修施設群の形成は必須ではなく、また基本領域とサブスペシャルティ領域の連動研修を可能とした。サブスペシャルティ領域の認定については、関連する基本領域学会等とで検討委員会を構築し、専門医制度を策定、機構に提出し、機構が提出された制度を検証し、認定する方針だが、基盤となる基本領域が多岐にわたる領域あるいは明確でない領域に関しては単独でプログラムを提出できる仕組みを検討している。認定の基準となる要項は詳細を今後定めるが、①あるべき専門医像、②当該専門医が必要とされる理由、③国民にわかりやすく目安になるような専門医、④医師の紹介、連携等に役立つ、⑤研修カリキュラムまたはプログラムが妥当、などが挙げられる。
  • 山門 實
    2017 年44 巻3 号 p. 505-510
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     人間ドック健診は生活習慣病などの疾病の発症予防・重症化予防を行う予防診療であり、人間ドック健診担当医には国民に信頼されるための専門性が要求される。日本病院会は1999年より質の高い人間ドック健診を国民に提供することを目的に「人間ドック認定指定医」制度を発足した。その後、日本総合健診医学会は2004年に「総合健診専門医」制度を発足した。一方、日本人間ドック学会は独自に「人間ドック認定指定医」制度を継続し、2006年より発展的に「人間ドック認定医」制度に改組、現在もその制度を継続している。また、2009年より「人間ドック専門医」制度も新たに発足させた。その後、専門医制度は日本専門医機構を中心に変革が求められ、その対応として両学会の専門医制度は合同されて、2012年より「人間ドック健診専門医」制度が新たに発足した。2017年4月1日現在、専門医1,737名、指導医1,073名、研修施設380施設であり、認定医は5,240名となっている。
     一方、日本専門医機構が2016年より新体制となり、新たな対応が必要となった。現時点では人間ドック健診専門医は「未承認、基盤学会のないもの」に区分されている。このため、まずは新機構ならびに基盤学会より、サブスペシャルティ領域としての承認を得なければならない。前機構の見解は人間ドック健診は診療領域ではないとのことであったが、予防診療(人間ドック健診)は診療領域であり、専門医として位置づけられるものと考えており、新機構の専門医制度新整備指針に準拠した「理念と使命」、「研修カリキュラム」、「研修プログラム」の作成をすでに終了させ、ヒアリング待ちである。課題としては、基盤となる基本領域学会が必要であるか否か、必要であるならどの学会にアプローチすべきかといった問題が挙げられる。
  • 伊賀瀬 道也
    2017 年44 巻3 号 p. 511-516
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     われわれは2006年から開始している抗加齢ドックのデータを基にした加齢に伴う認知症発症リスクに対する検討を行っている。根本的な治療薬のない現在「可能な限り早期に認知症および認知症予備群を発見して適切な生活への介入を行うこと」が求められている。近年、正常加齢と認知症の境界領域と考えられる軽度認知障害(Mild cognitive impairment: MCI)が注目されており、MCIと関連するファクターを探索し、それらに対する介入を試みることは臨床面からも有用であると考えられる。MCIは65歳以上の高齢者の約5%にみられ、年間約10-15%がADに移行することが知られている。われわれはMCIの診断には「MCI screen」を用いている。このテストを用いて2017年に2本の論文がpublishされた。
    論文1)高齢者のMCI診断におけるSAFの有用性
     AGEs(Accumulation of advanced glycation endproducts)の蓄積と認知症の発症の関連性が示唆されている。しかしながら認知症発症の前段階と考えられるMCI(mild cognitive impairment)とAGEsの関連を検討した報告は少ない。そこで本研究では健常高齢者におけるMCIと皮膚に蓄積したAGEsとの関連について検討した。本研究から非侵襲的なAGEs測定法であるSAF(Skin autofluorescence)は健常者におけるMCIスクリーニングを行う上で有用なバイオマーカーである可能性が示唆された。
    論文2)高齢者におけるエクオール産生能と認知機能低下の関連
     豆イソフラボン摂取による心血管疾患の予防効果が知られているが、認知機能予防効果については愚論のあるところである。個人差がある原因として大豆イソフラボンの代謝産物である「エクオール」(Equol)産生能の有無が関連している可能性がある。本研究結果からは1)エクオール産生者では有意にタッチパネル式認知機能検査の点数が高い2)エクオール非産生者では有意にMCIの存在率が高い、ことからエクオール産生者では認知機能の予防効果がある可能性がある。
  • ─とくに慢性腎臓病,サルコペニア,緑内障の観点から─
    和田 高士
    2017 年44 巻3 号 p. 517-522
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     加齢性変化について4つの視点から検討した。加齢による変化が顕著な推定糸球体ろ過(eGFR)、健康寿命を阻む推定下肢筋肉量(脚点)、そして心身ともに健全をめざす6つの健康習慣と脚点の関連、外部情報の9割を占める視覚の中でも潜在的に進行する緑内障の本態である視野異常を拾い上げる視野検査の有用性について検証した。eGFRの有意な低下要因は、高尿酸血症、1日の座位時間であった。推定下肢筋肉量は20~25歳を100とした時の値(脚点)で評価した。脚点は仕事時間、身体活動時間にかかわらず1日の座位時間が有意な低下要因であった。無煙、少食、少酒、多動、多休、多接の6つの健康習慣の実践数が少ないほど脚点は低下していた。視野検査導入により、眼科関係治療率は3倍に増加した。
  • 山田 千積, 岸本 憲明 , 茂出木 成幸, 菊地 恵観子, 尾形 珠恵, 黒田 恵美子, 小田 夏奈江, 久保 明, 石井 直明, 西﨑 ...
    2017 年44 巻3 号 p. 523-530
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/01
    ジャーナル オープンアクセス
     日本総合健診医学会第45回大会において、日本抗加齢医学会との共催により、「健診・人間ドックは加齢性リスクに挑めるか!?」というテーマでシンポジウムが行われた。日本総合健診学会と日本抗加齢医学会の各学会を代表とする演者により、総合健診と抗加齢ドックの両者の観点から、健康寿命を延ばし「サクセスフル・エイジング」を実現するための、加齢性リスクに挑戦する最新の知見が紹介された。
     超高齢社会を迎えている現在、健診・人間ドックの場においても、加齢性リスクを評価して予防・軽減につなげる「一次予防」の必要性が高まってきている。血管、ホルモンレベル、酸化ストレス、体組成など早期に加齢性変化を発見できる検査を従来の人間ドックに加えて行い、抗加齢医学の専門家がアドバイスを行う、いわゆる「抗加齢ドック」を提供する施設も増えており、その知見が集積されてきている。
     2006年6月の開設以来、東海大学医学部付属東京病院の抗加齢ドックの受診者は1,900人に達している。抗加齢ドック10回連続受診者の経年齢変化の検討から、DHEA-Sやアディポネクチンなどの加齢性変化が不変または改善する例が認められた。また、BMIが正常域にあっても体脂肪率が高い「かくれ肥満」では、加齢に伴う筋肉量の減少が様々な生活習慣病関連因子の異常を招き、肥満者と同等レベルに悪化していることが判明した。これらは指導の妥当性と進む方向性を表すものとして貴重な成果であり、健診・人間ドックは加齢性リスクに挑めることを証明する成果と考えている。
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