抄録
我々は、メタボリック症候群のリスクを複数持つ対象者に対して、頸動脈の動脈硬化を減速させる要因を検討した。
研究対象は、26歳から63歳(平均±標準偏差;46.2±8.2歳)の男性114人。全員が、労災二次健診の対象者で、メタボリック症候群のリスク、すなわち肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖のうち3個あるいは4個を保持している。
平成21年度と平成25年度に、対象者の両側の頸動脈の内膜中膜複合体の厚さの最大値(maxIMT)を計測した。両側のmaxIMTの平均値を計算し、max IMT平均値とし、以下の解析に供した。
114例を、平成21年度のmaxIMT平均値が1.1mm未満の群と、1.1mm以上の群に分け、4年間のmaxIMT平均値の変化と、平成21年度における健康診断の結果との関連を検討した。
maxIMT平均値が1.1mm以上の群においては、有意な関連は見られなかった。maxIMT平均値が1.1mm未満の群では、有意に関連する2つの要因が見出された。1つは年代であった。若い年代の症例は高齢の年代の症例より、4年間のmaxIMT平均値の増加量が少ない傾向にあった。他の1つは血清のLDLコレステロール値であった。血清コレステロール値を140mg/dL未満、140~159mg/dL、160mg/dL以上の3群に分けた時、140~159mg/dLの症例において、4年間のmaxIMT平均値の増加量が最も少なかった。
結論として、動脈硬化が比較的進んでいない状態では、年齢が若い場合、血清のLDLコレステロールが軽度高値である場合に、頸動脈の動脈硬化の進展速度が遅い可能性が示唆された。