厚生労働省は健康日本21(第三次)における身体活動・運動分野の取り組みを推進するため、「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を2024年1月に公表した。本ガイドは、科学的知見に基づき、身体活動・運動分野の取組を推進するため、健康づくりに関わる専門家(健康運動指導士、保健師、管理栄養士、医師等)、政策立案者(健康増進部門、まちづくり部門等)、職場管理者、その他健康・医療・介護分野における身体活動を支援する関係者等に向けて策定したものである。このガイドにおける新たな変更点や追加点は以下の8点である。
1)名称を「基準」から「ガイド」に変更
2)こどもを対象とした推奨事項を設定
3)高齢者に多要素な運動を週3日以上実施することを推奨
4)慢性疾患を有する人の身体活動のポイントを紹介
5)すべての世代に座りっぱなしの時間が長くなり過ぎないよう注意することを推奨
6)成人と高齢者に筋トレを週2~3日実施することを推奨
7)働く人が職場で活動的に過ごすためのポイントを紹介
8)身体活動支援環境整備の重要性を紹介
『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(以下、食事摂取基準と呼ぶ)は、厚生労働省が5年ごとに改定し公開している食事・栄養に関する基本的・包括的ガイドラインである。かつては集団給食などにその利用は限られていたが、最近では、健診実務を含め、あらゆる栄養実務に広く活用されるようになった。食事摂取基準ではエネルギーと35種類の栄養素について摂取すべき量が検討され、このうちエネルギーと33種類の栄養素について摂取すべき量が定められている。ガイドラインとしての食事摂取基準の特徴は量的ガイドラインであり、質的ガイドラインではないという点であろう。
エネルギーについては推定エネルギー必要量と「目標とするBMIの範囲」が定められ、栄養素については5種類の指標(推定平均必要量、推奨量、目安量、耐容上限量、目標量)が定められている。このなかで健診業務に就く者にとって特に重要な指標は、生活習慣病の発症予防のために定められている目標量であろう。また、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病、骨粗鬆症について、エネルギー・栄養素との関連が説明されている。この章では摂取すべき量の提示はなく、定性的な説明に留まっているものの、生活習慣病の特徴を理解するうえで貴重な章であると考えられる。さらに、食事摂取基準の活用に関する説明もあり、基本としてPDCAサイクルが紹介され、習慣的な栄養素摂取量を推定し(実施可能でじゅうぶんな信頼度を担保した食事アセスメントを行い)、それを食事摂取基準が定めた摂取すべき量と比較することの重要性が強調されている。
食事摂取基準は単に数値情報を与えるものではなく、その全体を「使う」ものへとすでに変わっている。(2025年版)は2025年4月から5年間使われる。正しくかつ積極的な活用をお願いしたいものである。
脂質異常症は動脈硬化性疾患の重要なリスクであり、イベント抑制のためにその管理が重要である。日本動脈硬化学会(JAS)は1997年に高脂血症診療ガイドラインを発出して以降、疫学研究や臨床試験などの新たな知見の累積を受けて5年ごとにガイドラインを改訂しており、2022年には最新版である動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版を発出した。前版からの改訂点としては、アテローム血栓性脳梗塞を二次予防疾患に加えたこと、脂質異常症診断基準に随時の中性脂肪の値を加えたこと、一次予防のリスク層別化ツールに久山町スコアを採用したこと、糖尿病に関する管理目標値を部分的に変更したこと、が挙げられる。さて、日本では労働安全衛生法により企業等での従業員に対する健康診断が義務化され、被扶養者などに対する特定健診も行われており、本学会に参画している健診施設では受診者の医療機関への紹介などの対応が必要となる。厚生労働省健康局の「標準的な健診・保健指導プログラム」を参考にして、医療機関紹介基準などを設定している健診施設が多いと考えるが、この基準ではガイドラインの意図とは少し異なることになる。本稿では動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版を概説するとともに、健診施設などでのその利用方法について提案したい。
慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全の原因であると同時に、心血管疾患(CVD)発症および死亡のリスク因子としても認識されるようになった。日本では慢性透析患者数が他国と比較して多く、高齢化に伴うCKD患者数の増加も予測され、重要な課題となっている。CKD診療の普及・啓発にはこれまでも診療ガイドラインが大きな役割を果たしてきた。2002年にKDOQI(National Kidney Foundation’s Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)が診断と管理に関するガイドラインを公表し、その後KDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)がこれを継承している。日本腎臓学会は、かかりつけ医との病診連携を行うためのツールとして2007年に「CKD診療ガイド」を発刊し、2009年および2012年に改訂された。2009年には、腎臓専門医を対象とした「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」を発刊、2013年にはCQ形式を採用した改訂版が発刊されている。その後、2018年には非専門医も利用者に想定した「CKD診療ガイドライン」を全面改訂するとともに、「患者さんとご家族のためのCKD療養ガイド」が発刊された。
「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では、CQ形式に限定せず、エキスパートオピニオンを含むテキスト解説とCQを併存させた点が変更点となっている。また情報量が多いとの指摘を受け、非専門医やメディカルスタッフ向けの簡便な「CKD診療ガイド2024」と患者およびその家族向けの「CKD療養ガイド2024」の改訂版も作成された。これらの取り組みにより、「CKD診療ガイドライン2023」の位置づけが明確化され、CKDの早期発見、診療連携の強化、進行阻止が進むことで、CVD発症や透析導入の抑制、市民の健康増進につながることが期待されている。
わが国における糖尿病患者数は1,000万人を超え、ほぼ同数の予備軍(耐糖能異常)が存在すると推計されている。糖尿病の診断は血糖値を測定することによって行われ、多くの臨床データより、その基準値が決められている。2型糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であり、これに加えて薬物療法を行う。最近、糖尿病治療薬の開発が急速に進み、経口糖尿病薬は9種類となった。また、糖尿病性腎症に対する有効性のエビデンスを有する薬剤は、長い間ACE阻害薬とARBの2剤のみであったが、最近、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬、さらには非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の有効性を示すエビデンスが生まれている。
本稿では、日本糖尿病学会から発刊された糖尿病治療ガイド2024と糖尿病診療ガイドライン2024より、最近のエビデンスに基づいた糖尿病および糖尿病性腎症の診断と治療について解説する。
当健康管理センターでの上部消化管造影検査数は年間約1万件である。重篤な偶発症を起こさない為に検査終了後のバリウム排泄における対策が重要であるが、当院では2022年に消化管穿孔の偶発症例が2例発生し緊急手術となった。このことを契機に新規対策の導入および既存対策の変更を行った。この対策による効果について、上部消化管造影検査を受けた検診受診者にアンケート調査を実施し検討した。結果はバリウムによる造影検査直後の水 500mLでの下剤飲用は排泄時間を早めていた。粘度の検証ではバリウム粘度が消化管内で約10分の1から16分の1まで低下すると推測され、便を硬化させず、排泄のしやすさに関与していると考えられる。
また、受診者に下剤飲用、水分摂取、食事の仕方などを詳細に説明することが大切になるが、これには他部門との協力が不可欠である。
【目的】眼底写真から診断がついた弾性線維性仮性黄色腫(以下PXE)の2症例を経験したので報告する。
【症例】症例1は60歳女性。脳梗塞を発症し、1年後に視力低下で上天草総合病院眼科(以下当科)を受診。眼底写真を撮影し、両眼のうっ血乳頭と視神経乳頭からの出血を認めた。出血は2週間後に消退し、右眼視神経乳頭から伸びる網膜色素線条(以下AS)を認めた。皮膚科で皮膚の生検が行われPXEの確定診断となった。症例2は66歳男性。他医で視野欠損のために正常眼圧緑内障の診断となり緑内障点眼薬が処方されていた。当科初診時に眼底写真の撮影を行った。両眼にASを認め、皮膚科紹介し生検の結果PXEの診断となった。
【結論】PXEは全身の血管に病変を来たし、様々な障害を起こす。診断にはASの存在が必須であるが、眼底写真を判読する医師にPXEの疾患概念が無ければ、ASの存在に気づいても診断に至らないケースもあると思われる。健診や人間ドックにおいて、眼底写真を判読する医師がASの存在に気付いた場合、首の皮膚の所見を確認し、積極的に皮膚科への紹介につなげるべきと思われる。