有機農業研究
Online ISSN : 2434-6217
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5 巻, 2 号
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【巻頭言】
【論文】
  • 赤池 一彦, 中村 知聖, 小澤 明子, 石川 寛人
    2013 年 5 巻 2 号 p. 5-13
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    山梨県の甲府盆地で夏秋キュウリを有機栽培する際に,生育ステージがキュウリと適合するニガウリを次の 2 通りの方法で混作することで上物収量や上物率が向上した.①キュウリとニガウリを同一畦内で 6株ごとに交互混作すると,混作しない場合と比べて,キュウリ 1 株当りの上物収量は約 7%,上物率は約 6%高くなった.②ニガウリをキュウリ畦に対して垂直に障壁として混作(1 畦,1 条植え)すると,混作しない場合と比べて上物収量は約 10%,上物率は約 11%高くなった.一方,ニガウリをキュウリ畦の両端に 1株ずつ混作した場合は,キュウリの上物収量は,混作しない場合と比べてやや高くなったが差は認められずニガウリの栽植株数が少ないと上物収量に対する混作の効果が現れにくくなった.また,ニガウリを交互混作することで,キュウリの葉の炭疽病被害軽減,ウリハムシによる葉の食害軽減が図られ,ニガウリを障壁利用することで,アブラムシ類の葉への寄生軽減が図られた.しかし,ニガウリとの混作によりキュウリの上物収量や上物率が向上したのは,病害虫の被害軽減効果よりも,混作作物によりキュウリが風害などから保護され,傷果や曲がり果が減少したことによる影響が大きいと考えられた.

  • ──埼玉県小川町下里一区を事例として──
    小口 広太
    2013 年 5 巻 2 号 p. 14-25
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    埼玉県小川町では,1970年代から有機農業が取り組まれている.その起点をつくったのが霜里農場を営む金子美登氏である.その後,新規参入者が定着し,徐々に有機農業の取り組みは広がりを見せた.小川町では新規参入者が中心となって有機農業に取り組んでいるのが特徴で,その傾向が現在も続いている.

    その一方で,2000年以降,下里一区という集落レベルで既存農家による有機農業への転換参入が始まったこの動きは地域農業の衰退を背景に米,小麦,大豆の販路確保や農地・水・環境保全向上対策を活用しながら集落ぐるみの取り組みへと展開した.

    その展開要因を検討し,もっとも早く転換参入した既存農家・安藤郁夫氏が地域社会と有機農業をつなぐ役割を担ったこと,そのような取り組みが金子美登氏の有機農業に取り組む姿勢と農業経営のなかから生まれたこと,その両者が地域農業の展開方向を考えて行動していたこと,地域農業の解体過程において有機農業が受容されたことを明らかにした.

  • 赤池 一彦, 國友 義博, 上野 直也, 平林 正光, 濱野 周泰
    2013 年 5 巻 2 号 p. 26-36
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    山梨県北杜市で,野菜の有機栽培が成立している要因を,農家のアンケート調査や現地圃場の実態調査から抽出し,次のような耕種的な特徴を得た.①作付けは多品目を前提としながら,果菜類と葉菜類の数品目を中心品目として位置づけていた.②使用品種は作り易さや早晩性,収量性,耐病性の有無など,作付け品目に合わせて選択していた.③1枚の圃場に複数品目が作付けられるよう畦毎にブロック状の配置をしていた.④果菜類では病害虫全般を,葉菜類では虫害を特に問題としており,対応策として,耐病性品種の利用,適期作付け,疎植,混作,雨よけ,被覆資材の利用等の手段を講じていた.⑤有機質肥料は性質や肥効の違いを考慮に入れ,資材の使い分けや施用量の調節を行っていた.⑥栽植法は,通路幅を広くとった疎植とし,採光,通気性の確保を行い,畦間や畦畔は自生する雑草を活かした草生管理を行っていた.⑦野菜の作付け期間中の圃場の植生は,畦間は一年生雑草,畦畔は多年生雑草が主であった.⑧有機栽培圃場では作物の葉上や畦間において多くの土着天敵の生息が認められた.⑨圃場の作付けローテーションは,野菜を数グループに分け,毎年グループ毎に作付け圃場が移動するように配置していた.ナス科野菜は,連作障害を避けるためにローテーション間隔を 3 年以上としていた.

  • 北岡 大知, 大津 直子, 村瀬 香, 小俣 良介, 中島 健太, 林 敦, 鈴木 創三, 仲井 まどか, 横山 正, 木村 園子ドロテア
    2013 年 5 巻 2 号 p. 37-45
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    日本の茶園に重大な被害を及ぼす害虫であるカンザワハダニは,チャへの窒素の施用にともなって寄生虫数・被害葉率ともに高くなるとされているが,このときの窒素肥料,茶葉内窒素化合物およびハダニの発育との関係については明らかにされていない.本研究では形態の異なる窒素肥料である堆肥と化学肥料さらにそれらの窒素施用量の違いによってチャの葉内窒素含量およびカンザワハダニの発育にどのような影響があるか調べた.

    チャ幼木の化学肥料ポット栽培においては,窒素施肥量の増加に伴って新葉の全窒素量は増加し,新葉に接種したカンザワハダニの発育が早まった.一方,チャ幼木の窒素施肥量を等しくした堆肥あるいは化学肥料圃場栽培においては,堆肥区および化学肥料区ともに土壌の酸性化(pH 低下),および養分量の増加(EC 増加)が認められたが,その変化量は化学肥料区の方が堆肥区よりも大きかった.葉の全窒素量は全炭素量と同様に無施肥区<化学肥料区<堆肥区の順に増加していたが,葉に接種したカンザワハダニの発育は堆肥区で遅れることが観察された.

    これらの結果から,化学肥料,堆肥ともに窒素施肥量の増加に伴って茶葉の全窒素量を増加させるが化学肥料はカンザワハダニの発育期間の短縮を,堆肥はその発育速度を低減させる可能性が示唆された.

  • ──栃木県有機野菜農家の栽培事例分析──
    八木岡 敦, 伊藤 崇浩, 戸松 正, 嶺田 拓也, 小松﨑 将一
    2013 年 5 巻 2 号 p. 46-58
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    リビングマルチとは,主作物と間作または混作し,その被覆効果によって雑草を防除することをねらって栽培される植物のことである.しかし,作物種や諸事情によって本来のリビングマルチを実施できない条件では,畝間(通路)のみを部分的にリビングマルチすることも試みられている.例えば帰農志塾では,各種野菜栽培において畝については慣行通り黒ポリマルチによる被覆を行い,畝間のみ屑コムギを播種した畝間リビングマルチに取り組んでおり,特に種子代を安く抑えるために屑コムギを利用している点が特徴である.本研究では,この帰農志塾のナス栽培において,畝間への屑コムギ播種が雑草抑制効果・窒素動態・土壌線虫群集・土壌物理性に及ぼす影響を検討した.

    調査は,2012年6月5日,6月26日及び9月13日に行った.コムギマルチ区では,屑コムギを75kg/10a既存事例よりも4.7~9.4倍播種したことで屑コムギが早期に単一植生を形成し,初期の雑草発生量は自然植生区と比べてそれぞれ17.8%(6月5日),3.3%(6月26日)と大幅に抑制された.また,コムギマルチ区では,屑コムギが土壌窒素を旺盛に吸収することで畝間における硝酸態窒素の溶脱量は自然植生区の12.1%(6月5日),40.3%(6月26日)と低く抑えられた.自然植生区で雑草が繁茂した後,9月13日では深さ0-30cmの土層の無機態窒素含有量は,コムギマルチ区において自然植生区よりも24.3kgN/10a高かった(9月13日).一方,コムギマルチ区ではコムギによる単一植生によって発生雑草草種数は減少したが,コムギマルチ区のみに発生が認められた雑草草種も認められた.これに対し,土壌線虫群集構造の変化はほとんど見られなかった.以上のことから,畝間に屑コムギを播種することで,植生をコントロールにより雑草抑制を図り,栽培初期の硝酸溶脱を抑制できる可能性が示唆された.

【研究動向】
  • 臼井 智彦, 多田 勝郎
    2013 年 5 巻 2 号 p. 59-62
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    岩手県では,現在,2013年3月に「ひとと環境に優しいふるさと農業プラン」を策定し,有機農業を含む環境保全型農業の推進に取り組んでいる.

    岩手県農業研究センターでは,1997年4月に環境保全研究室を設置し本格的に有機農業関係研究を開始した.初期の研究は,有機農業のリスク評価が中心であったが,最近は,有機農業の課題をいかに解決するかといった方向に変わってきている.中でも水稲有機栽培については,もっとも大きな課題である除草技術の開発に取り組み,機械除草技術に複数の耕種的防除手段を組み合わせることで一定の成果が得られた.現在は,その技術の普及に取り組んでいる.

  • 鈴木 芳人
    2013 年 5 巻 2 号 p. 63-70
    発行日: 2013/10/30
    公開日: 2024/08/06
    ジャーナル フリー

    生態学に立脚した総合的有害生物管理(IPM)は,半世紀以上にわたり,人や環境に対する負荷を軽減する作物生産技術の開発に貢献してきた.IPM の取り組みで蓄積されてきた知識と経験は,有機農業における害虫管理技術の改善に活用できる.しかし,有機農業では合成農薬が使えないため,臨機防除の手段に乏しい.したがって,害虫の発生を予防する農生態系の構築が有機農業ではきわめて重要である.その伴を握るのは時間的・空間的な植生管理である.植生管理戦略の設計では,害虫の侵入,定着,生存,繁殖の抑制と,天敵の保護増強法の改善が焦点の課題となる.有機農業における害虫管理技術の体系化においては,分野の境界を超えた共同研究が望ましい.また,技術を選び使うのは農家であることを踏まえて農家による害虫管理技術の選択に役立つ情報をできるだけ多く提供する努力が求められる.

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