リビングマルチとは,主作物と間作または混作し,その被覆効果によって雑草を防除することをねらって栽培される植物のことである.しかし,作物種や諸事情によって本来のリビングマルチを実施できない条件では,畝間(通路)のみを部分的にリビングマルチすることも試みられている.例えば帰農志塾では,各種野菜栽培において畝については慣行通り黒ポリマルチによる被覆を行い,畝間のみ屑コムギを播種した畝間リビングマルチに取り組んでおり,特に種子代を安く抑えるために屑コムギを利用している点が特徴である.本研究では,この帰農志塾のナス栽培において,畝間への屑コムギ播種が雑草抑制効果・窒素動態・土壌線虫群集・土壌物理性に及ぼす影響を検討した.
調査は,2012年6月5日,6月26日及び9月13日に行った.コムギマルチ区では,屑コムギを75kg/10a既存事例よりも4.7~9.4倍播種したことで屑コムギが早期に単一植生を形成し,初期の雑草発生量は自然植生区と比べてそれぞれ17.8%(6月5日),3.3%(6月26日)と大幅に抑制された.また,コムギマルチ区では,屑コムギが土壌窒素を旺盛に吸収することで畝間における硝酸態窒素の溶脱量は自然植生区の12.1%(6月5日),40.3%(6月26日)と低く抑えられた.自然植生区で雑草が繁茂した後,9月13日では深さ0-30cmの土層の無機態窒素含有量は,コムギマルチ区において自然植生区よりも24.3kgN/10a高かった(9月13日).一方,コムギマルチ区ではコムギによる単一植生によって発生雑草草種数は減少したが,コムギマルチ区のみに発生が認められた雑草草種も認められた.これに対し,土壌線虫群集構造の変化はほとんど見られなかった.以上のことから,畝間に屑コムギを播種することで,植生をコントロールにより雑草抑制を図り,栽培初期の硝酸溶脱を抑制できる可能性が示唆された.