有機農業研究
Online ISSN : 2434-6217
Print ISSN : 1884-5665
4 巻, 1-2 号
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【巻頭言】
【特集】東日本大震災,原発災害と有機農業─第12回北海道大会・全体セッション報告─
【論文】
  • 小松﨑 将一, 山下 幸祐, 竹崎 善政, 嶺田 拓也, 金子 信博, 中島 紀一, 太田 寛行
    2012 年 4 巻 1-2 号 p. 53-66
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル フリー

    耕さず,草を生やし,ごく少量の有機質肥料の投入で作物栽培を行う自然草生・不耕起栽培は,農業生産におけるエネルギー投入が極めて少なく,かつ土壌の肥沃度が高くなることが期待されている.しかしながら,自然草生利用・不耕起が成立する技術的な側面についての検証は十分に行われていない.本研究では,自然草生利用・不耕起圃場を対象として,その経営の実態,土壌炭素の集積,雑草植生,および土壌養分の年間の変化の側面について検討した.茨城県阿見町で実施されている自然草生利用・不耕起栽培(1998年開始,調査時は継続して11年目)での畑作野菜生産圃場(5圃場)を対象として,土壌炭素および窒素の層別分布,雑草の草生量,発生雑草種,作付体系,および作物収量について調査した.また,調査圃場に隣接するオカボ圃場(慣行栽培)および裸地圃場(除草剤利用による無植生維持)の土壌炭素含有量を測定し,比較対照とした.自然草生利用・不耕起圃場の0-2.5cm深の土壌では雑草草生による植物バイオマスの供給により慣行栽培圃場に比べて炭素蓄積が多いことを認めた.また,土壌無機態窒素についても自然草生利用・不耕起畑地で高い値を示しており,有機物蓄積に伴う養分供給能があることが認められた.自然草生利用・不耕起畑地における土壌肥沃度の向上には,雑草植生が圃場面に通年にわたり維持されることでミミズなどの土壌生物がニッチを確保し,土壌中での物質循環に貢献しているものと推察された.

  • 岩元 泉, 李 哉泫, 豊 智行
    2012 年 4 巻 1-2 号 p. 67-78
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル フリー

    スペインにおける有機農業は,近年急速に拡大し,ヨーロッパで最大面積を誇るようになってきたが,有機農産物の70%は主にEU域内へ輸出されている.輸出対応のために,有機農産物の販売では農協を通じた流通チャネルが形成され,EU基準に沿った有機認証が必要とされてきた.その一方で,スペイン国内での有機農産物流通チャネルは,有機専門店,自然食品店が主流であり,消費者へのチャネルは必ずしも太くなく,1人当たり有機農産物消費も少なかった.2000年代に入り,EUの農業環境政策の支援を受けた有機農業普及組織および有機認証組織が形成され,スペインにおける有機農業の急速な展開を支えてきたが,スペイン政府も有機農業の支援のために,国内消費者への理解促進,普及に努めた.

    そのような中で,近年消費者の安全志向,健康志向の高まりもあって,有機農産物への需要が高まり,有機農業者サイドでも国内市場向けの対応が見られるようになってきた.本稿ではバレンシア自治州を対象に,有機農業の普及,認証組織,有機農業の概要を明らかにした後,有機農産物の流通チャネル毎の事例を取り上げて,その特徴を明らかにする.輸出対応型農協の事例では,EUの有機認証のみならず,個別の認証も取得し,種々のサービス事業を行なっているが,収益性を確保するのが困難になっている.広域流通型の事例では,農業有限会社を設立し,国内市場対応に転換しつつあり,消費者との提携に基づく有機農産物販売を行っている.地場流通型の事例では,農協への出荷から農場での直接販売に転換し,有機認証をとりやめている.国内消費者向けの有機農産物流通チャネルの組織化が進めば,市場は拡大するものと見られる.

  • 三木 孝昭, 岩石 真嗣, 阿部 大介, 原川 達雄
    2012 年 4 巻 1-2 号 p. 79-88
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル フリー

    有機水田における雑草対策では様々な方法が試行されており,その一つに除草機の利用がある.除草機には様々な機構のものが存在するが,一般に株間の除草精度に課題を有するものが多い.そこで条間だけでなく株間の除草精度を向上させるために,ツース(除草爪)を往復振動させる機構を開発し,歩行型動力除草機として製品化した.本機の除草性能を長野県松本市のキカシグサやアゼナなどの広葉雑草が優占する黒ボク土水田で検証したところ,2-3回の除草作業実施により,雑草放任区(平均12439本m-2)の16-4%にまで残存雑草発生本数を低減でき,収量は完全除草区と同等以上であった.また,イヌホタルイ,コナギ,クログワイが発生する状況では,2回代かき・4葉以上の苗(不完全葉を除く)の遅植え(6月上旬)を組み合わせることで十分な除草効果を得られることが確認できた.1回の除草作業時間が約1時間/10aであることから,理論上の耕作可能面積は3.6-4.2haとなるため,有機水稲農家の作付け規模で多い10-300aの面積をカバーできる水田除草機として有望であると考えられた.

  • 髙山 耕二, 塚野 桂, 溝口 由子, 主税 裕樹, 大島 一郎, 中西 良孝
    2012 年 4 巻 1-2 号 p. 89-96
    発行日: 2012/10/31
    公開日: 2025/07/22
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    本研究では,荒廃林地にブタを放牧し,林内の植生管理を図ると同時に,自給飼料給与による小規模養豚の可能性を検討するため,去勢バークシャー種3頭(20週齢,平均体重35kg)をスギ(Cryptomeria japonica D. Don) およびタイワンアサマツゲ(Buxus microphylla Siebold et Zucc. var. sinica Rehder et E.H. Wilson)主体の林地(10a)に2011年8月から翌年1月にかけて放牧した.放牧期間中,ブタには飼料用籾米を主体とする発酵飼料,トウフ粕サイレージ,生トウフ粕および飼料用玄米の炊飯を不断給与し,ブタの行動や林床植生などを調べた.得られた結果は以下のとおりである.

    放牧したブタは日中約半分の時間をルーティング(鼻先を土中に潜り込ませて,上へ突き上げるようにして掘り返す行動)に費やした.供試した林園にはクズ(Pueraria lobata(Willd.)Ohwi)が優占していたものの,ブタ放牧区(試験区)では放牧開始後32日目にはすべて消失し,裸地率は禁牧区(対照区:2a)に比べ試験区で有意に大きかった(P<0.05).放牧開始後32日目の植物現存量についても,対照区に比べ試験区で有意に低い値を示した(P<0.05).その一方で,試験区ではスズタケ(Sasamorpha borealis(Hack.) Nakai)およびメダケ(Pleioblastus Simonii(Carrière)Nakai)が残存した.放牧開始から1ヵ月間,ブタ2頭の発育は停滞し,うち1頭は退牧した.しかしながら,残り2頭はその後約4ヵ月間にわたり順調に発育し,41週齢の体重は105および84kgであった.

    以上より,放牧直後におけるブタの放牧環境への馴致方法に課題が残されたものの,その後,飼料用米を主体とした自給飼料を給与したブタが順調な発育を示し,荒廃林地の植生管理におけるブタ放牧の有効性が示されたことから,荒廃林地を用いた小規模養豚は可能であることが示唆された.

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【書評】
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