有機農業研究
Online ISSN : 2434-6217
Print ISSN : 1884-5665
8 巻, 1 号
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【特集】文化としての農業を考える
【特集】有機食品市場の展開と消費者
  • 谷口 葉子
    2016 年 8 巻 1 号 p. 12-25
    発行日: 2016/10/30
    公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

    本研究では3種のアンケート調査の結果を用いて有機野菜の購買層の重視するBasic Human Valuesを測定し,ほぼ予想通り,購買層が「安全」「博愛」「慈善」「自主独往」といった価値を強く重視する傾向にあることが確認できた.ただし,「快楽」の価値だけは予想に反して購買層と非購買層との間で有意差は見られなかった.購買層が重視した価値は複数の上位概念にまたがっており,その多様性の背景を探るためにクラスター分析を行ったところ,購買層が大きく1)「安全」を最も重視する層,2)「自主独往」を最も重視する層,3)「快楽」を最も重視する層,4)いずれの価値も重視しないが,比較的「自己高揚」に属する価値を重視する層に分かれることがわかった.クラスター分析の結果より,有機野菜購買層には多様なタイプの人々が含まれると共に,有機野菜の購買動機は複数の価値が関与して複雑に形成されている可能性が示唆された.また,各クラスターには,それぞれデモグラフィック上,ライフスタイル上の特性が見られた.異なる価値を重視している消費者の間では,有機野菜に期待している便益や価値が大きく異なる可能性がある.有機野菜の販売事業者は自らの利用者層に応じたきめ細かな消費者理解の上で販売努力を図っていくことが重要であることを示しているといえよう.

  • 酒井 徹
    2016 年 8 巻 1 号 p. 26-35
    発行日: 2016/10/30
    公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

    本稿の課題は,日本における有機農産物市場の規模の推移を推測することと,有機農産物市場の展開に伴う性格変化について考察することである.過去の複数の推計から,減農薬・減化学肥料栽培の農産物やそれに由来する加工食品の市場規模は90年代前半で1,000億~2,000億円,90年代後半で2,000億~3,000億円,2009年時点で6,000億~7,000億円程度の規模で推移したと推測される.有機農産物市場の拡大に伴い消費者の購買先はスーパーにシフトしており,消費者の位置付けは,全体としては有機農業運動の担い手から有機農業を支持する組織会員へ,さらに組織的な関わりを持たず有機農産物を購買する消費者へとシフトし,生産者と消費者の乖離も進んでおり,有機農産物市場は商業的性格を強めていると言える.しかしながら,運動的性格や生産者と消費者の関係性を持つ流通も併存しており,生産者における有機農産物の販売条件が維持されていることから,有機農産物市場が性格を大きく変化させるには至っていないと言える.今後の有機農産物市場の性格変化の一つの鍵となるのが消費者の動向であり,有機農業が健全に発展していくための条件の検討が求められる.

  • 鷹取 泰子
    2016 年 8 巻 1 号 p. 36-45
    発行日: 2016/10/30
    公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

    近年「マルシェ」と名付けられた屋外型の直売市が日本各地で開設・注目されるようになっており,有機直売市もその一つである.有機農産物等を扱う直売空間を類型化した結果,仮説的に4種類に分類された.本報告で事例として取り上げる北海道帯広市の有機直売市は,その一類型である「商店コラボ型」として位置づけられ,その活用事例,消費者による利用状況,運営状況を具体的に把握しながら,有機直売市の存在意義と可能性,課題等を明らかにした.アンケート調査やヒアリング調査などから,有機直売市は,有機農産物や自然栽培等による農産物を求める消費者の購買により大きく支えられること,地域農業や地産地消を重視する価値観を共有できる既存の商業施設と有機直売市の連携は,経済的な繋がりを超えて共存共栄の関係を築くことが出来ることが示唆された.移動式の器具を利用して設営される屋外型の直売市の場合,初期費用は少ないが,駐車場の共有や設営道具の保管などにおいて,連携する商業施設に依存する部分も大きく,それによる支援・貢献は直売市の運営に重要な要素となっていた.有機直売市に出荷する会員農家が,売上額と販売コスト・手間とのバランスをとることは容易ではなく,既存の様々な販売方法と組み合わせ,直売市の利点・特長を生かした活用方法を模索・確立していく必要性が明らかとなった.

【論文】
  • 新美 洋, 鈴木 崇之, 上杉 謙太, 岩堀 英晶, 立石 靖, 石井 孝典, 安達 克樹
    2016 年 8 巻 1 号 p. 46-58
    発行日: 2016/10/30
    公開日: 2021/10/27
    ジャーナル フリー

    南九州の立地条件を十分に活用する有機栽培技術として,ダイコンとサツマイモに対する焼酎廃液濃縮液の2作一括施用,ダイコン作付後のサツマイモの畦連続使用栽培,畦間へのエンバク間作を組み合わせた「ダイコン─サツマイモ畦連続使用有機栽培体系」を考案した.そこで有機JAS認定圃場で本体系を実施すると同時に,ダイコンおよびサツマイモの各作付ごとに耕うん,施肥,薬剤防除を行う慣行栽培を隣接する圃場で行い,作物の収量性,養分収支,土壌化学性の変化,線虫害,雑草の発生動向などを4年間にわたり総合的に比較し,本体系の収量性および持続性を検証した.

    その結果,本体系でダイコン,サツマイモともに4年間慣行栽培と同等の収量と求められる商品形状を維持することを確認するとともに,養分収支が均衡であり,土壌化学性が長期間安定することを明らかにした.さらに畦連続使用栽培により土壌消毒を行わなくともサツマイモの線虫害は抑制されること,ダイコン作期から継続して畦間にエンバクを栽植することにより,サツマイモ作期において畦間の雑草発生を抑制できることを明らかにし,防除面を含めて収量性および持続性の高い有機栽培体系であることを確認した.

【資料紹介】
【書評】
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