近年の安全な食品へのニーズの高まりや,持続型農業への政策転換を受けて環境保全型農業への関心が高まっている.その手法の一つとして,リビングマルチが有機農家の間ではよく知られている.リビングマルチは土壌保全・雑草防除・窒素供給などに有用であるが,適応できる作物が限定的であり,また利用コスト高や収量減少が懸念されるため普及が制限されている.また農地は温室効果ガスである亜酸化窒素の主要な発生源の一つであるが,リビングマルチ利用の影響はほとんど検証されていない.そこで栃木県那須烏山市の有機農家で実践されているポリマルチと屑コムギを利用した「低コスト型リビングマルチ」の有機栽培および減化学肥料栽培下での効果を検証するため,那須烏山市および茨城県阿見町のナス栽培ほ場において畝間への屑コムギ播種が雑草抑制・土壌の窒素動態や物理性および土壌からの亜酸化窒素発生に及ぼす影響について調査した.
調査は2地点,①茨城県阿見町,②栃木県那須烏山市のほ場で,2013年5月~10月の6ケ月間行った.いずれのほ場も畝に黒ポリマルチを施用し,畝間は屑コムギリビングマルチの有・無と,阿見では2つの施肥基準(36kg-N/10a, 54kg-N/10a),那須烏山では1つの施肥基準(元肥+追肥で105kg-N/10a)を設けて各処理3反復で実験を行った.その結果,屑コムギは雑草より早く単一植生を形成して無処理区と比較して20~62%雑草の発生を抑制した.またナス栽培初期において屑コムギマルチ区の硝酸態窒素は無処理区の1/5~1/7に低下し,土中の硝酸態窒素吸収効果がみられた.温室効果ガスである亜酸化窒素の発生については,栽培期間の積算値は阿見ではリビングマルチ区の方が無処理区の約30mg・N2O-N/m2より2.5倍程度高かったが,那須烏山ではいずれの処理区も320mg・N2O-N/m2程度と差がみられなかった.また収量において異なる処理区による収量の有意差はみられなかった.
以上のことから低コスト型リビングマルチ技術は有機栽培および減化学肥料栽培下において,収量に影響することなく雑草防除と硝酸態窒素溶脱に有効かつ亜酸化窒素の発生も少ない技術であることがわかった.またこの技術は通常の除草方法と比較して32~62%資材コスト安となるため,環境保全型農業を推進する上で農家にとっては魅力的な選択肢の一つになりうると考えられる.
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