安全教育学研究
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23 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 水野 安伸, 西岡 伸紀, 村上 佳司, 柴田 真裕
    2024 年 23 巻 2 号 p. 3-13
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
    本研究は、学校安全点検のプロセスを小・中学校の児童生徒が効果的に学習するためのプログラムを開発することを最終目的とした。そのために短期的には、児童生徒の安全点検に関する意識及び安全点検の参加状況等を明らかにし、その結果を踏まえて教育内容や指導方法を検討することを目的とした。 「教員による安全点検の実施の認知」「安全点検に関する意識及び参加状況等」に関する児童生徒の実態を明らかにするため、5都道府県の小学5、6年生児童210名、5府県の中学生268名を対象とし、小中学生にアンケート調査を行った。 その結果、安全点検に参加したことのある児童生徒の割合は、小学生41.0%、中学生47.8%だった。また、小学生57.6%、中学生48.9%が校内における危険を発見した経験を有していたが、危険発見時の連絡先では、誰にも連絡しなかったとの回答が、30~40%程度あった。 また、教員等による安全点検を目撃したことのある児童生徒はいずれの校種も80%を超えた。 安全点検に対する参加の意思、関心、自分で行う点検の必要性、適切な点検実施の自信については、いずれの校種も肯定的回答が70~90%を占め、参加や実施に対して肯定的であった。 学校での安全マップづくりの経験は、地域や家庭への活用や安全点検への自信や関心など、ほとんどの項目間に有意な関連が見られなかった。一方、安全点検に参加経験が有る児童生徒は、経験が無い児童生徒よりも、校内における危険を発見した経験の割合が約30%高かった。 本研究から、児童生徒は日常的に校内の危険箇所を発見しており、それには教員が気づくことのできないような箇所も含まれる可能性があること、児童生徒が主体となって安全点検を行うことにも肯定的であること、また安全点検への参加がその後の危険発見にも有効であることが明らかとなった。したがって、今後開発される学習プログラムは、児童生徒が安全点検に参加したいと思えるものであり、かつ、学校での安全管理の学習が地域や家庭でも活かされる必要がある。
  • 井口 成明, 牧野 勇登
    2024 年 23 巻 2 号 p. 15-23
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
    スポーツ教育において安全性の確保は極めて重要であるが、死亡事故や障害事故が数多く発生している。我々の先行研究では、スポーツの中で最も危険な動作の一つである水泳の飛び込みスタートにおいて、熟練者であってもスポーツ事故のリスクがあることを報告した。本稿では、危険な水泳の飛び込みスタート動作の背景に、生徒の安全性を損なう精神状態、練習状況、指導の言葉があるのではないかと考え、検証した。水泳競技に参加する高校生を対象にアンケート調査を行った。その結果、生徒の集中力の低下は危険性を高める主な要因ではなく、動作を早く達成したい、より良い技術を探求したいといった心理状態が、生徒に危険な動作を行わせていることが明らかになった。指導者は、危険な動作を練習する際、いくつかの言葉や指導方法によって、これらの心理状況をコントロールする必要があることを示唆している。
  • ― 教員養成女子大学生を対象とした避難所の在り方を考える授業 ―
    佐藤 真太郎
    2024 年 23 巻 2 号 p. 25-36
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
    本研究は、近年の女性の視点に立った防災・復興の取組の必要性を受け、将来学校教員となる女子大学生が避難所等における課題を認識し、女性の視点及び多様な性別や立場からの視点に立った避難所の在り方について考えることができる教材を開発し、その教材を活用した学習プログラムの教育的効果を検討したものである。具体的には、スフィアプロジェクト等、避難所に関わる基本的な知識を確認した後に、教材を活用した2つの活動を行った。一つは、ホワイトボード2枚を小学校の体育館とプレイルーム(避難生活場所)に見立て、災害発生前(通常時)に、女性の視点及び多様な性別や立場からの視点を意識し、避難所の配置図やレイアウトを考えたり、備蓄品や資材機のカードを確認したりする活動である。二つ目は、災害発生後(非常時)を想定して、市の防災担当者や避難所のリーダーの立場で、カードに記載された避難者を避難所で受け入れ、備蓄品を配ったり、生活のし易さを考慮し、間仕切りをしたりする活動である。これらの活動を、京都市内の教員養成課程に所属する女子大学生を対象に実践し、教育的効果を検討した。その結果、教材を活用した活動を通して、女性の視点に加え、既存の知識を活用しながら、様々な人たちの様子を想像し、避難所の在り方について考えを持つことができることが示された。また、スフィア基準が判断の根拠の一つとなることなどもわかった。さらに、避難所の運営については、事前に考えを持っていることが必要であり、そのために、防災・復興教育の一つとして、女性の視点から避難所の運営について考える教育を実施することの意義を示すことができた。
  • 藤本 一雄, 戸塚 唯氏
    2024 年 23 巻 2 号 p. 37-52
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
    本研究では、学校が安全文化を醸成する上でどのような価値観を重要視しているのか、その現状を包括的に把握することを目的として、学校安全表彰を受賞した全国の小・中・高等学校及び特別支援学校174校を対象としてアンケート調査を行い、76校からの回答を得た。その結果、1)安全文化を醸成する上で重視して取り組んでいる事項を尋ねた結果からは、「事前の危機管理」に関する「安全教育」を通じて、児童生徒の「思考力・判断力・表現力」を育成する傾向にあることを確認した。2)安全文化を醸成する上で重視している要素・要因を尋ねた結果から、安全文化に関しては「情報に立脚した文化」を最も重視しており、安全風土に関しては「安全の学校内啓発」を最も重視していることを確認した。一方、「正義の文化」や「柔軟な文化」はあまり重視されていないことが分かった。3)学校安全に取り組むようになった《きっかけ》、周辺地域や他団体の模範となる《特色ある取組・実践》、安全文化を醸成するための《創意工夫》について尋ねた結果から、安全文化を促進させている要因ととして、組織活動に取り組むこと、安全関連の支援事業の指定を受けること、他校・他地域の被害を見聞きすることなどが分かった。一方、安全文化を醸成する上で直面している《課題》について尋ねた結果から、安全文化の醸成を阻害している要因として、教職員の意識の低下・温度差であることが分かった。4)学校安全に取り組み始めてからの年数が長い学校では、管理職の交替(異動)による影響を受けず、また、学校安全に関するPDCAサイクルが効率的に機能し、安全文化が維持されている可能性がある。その一方で、学校安全に取り組み始めてからの年数が長くなると、失敗等を報告しにくい学校環境になっていく恐れがあることが分かった。
  • ― 東京都内公立中学校での実践 ―
    上田 啓瑚, 大木 聖子
    2024 年 23 巻 2 号 p. 53-63
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2025/06/23
    ジャーナル フリー
    本研究は、東京都内公立中学校において実施した、生徒と教員が連携する避難訓練の成果と課題を検討するものである。筆者らは2021年度から、東京都内の公立中学校(以下、A中学校)との共同研究を行っている。本論文に詳述される訓練は2021年度末から同校で導入され、翌年度以降は継続的に年に3回実施されている。本訓練では1)緊急地震速報を流し、生徒らは自らの判断で身を守る姿勢をとる。その後、2)事前に役を与えられた生徒が傷病者役として演技を開始する。3)教員や周囲の生徒は連携して、傷病者役の生徒への対処行動をとる。本論文では、2022年に実施された計3回の同訓練において、参加した中学生511名と教員に対して行った、各訓練後の事後アンケートおよびヒアリング結果を定性的に分析した。その結果、生徒らは、訓練のリアリティーから災害時を想像し、学習を活用して他者に対する共助を実践するに至った。さらに、本訓練で「新たな役割」を認識し、学習意欲の向上や課題の発見・改善につながっていることが明らかとなった。
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