安全教育学研究
Online ISSN : 2186-5442
Print ISSN : 1346-5171
ISSN-L : 1346-5171
最新号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 森重 比奈, 野村 純, 加藤 徹也
    2025 年 24 巻 2 号 p. 3-13
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/23
    ジャーナル フリー
    理科において、火気や化学薬品を使用する観察、実験活動が含まれる授業は、刻一刻と変化し事故を誘発しかねない環境要因や生徒の心理状態など、授業者がコントロールできない内在的な危険と隣り合わせであり、通常の授業以上の高度な安全保持義務が要求される。我々は、予期せぬミスにより授業中に軽度な事故が起きた場合の措置・連絡等の事後対応についての特に応急手当と教員間の連携に焦点を当てた対応力の強化をねらいとした授業を実施した。授業は大学4年生を対象とし、90分の授業時間を設定した。授業前半では化学薬品の危険性、応急手当の方法、事故発生後の対応の流れについての講義をした。授業後半では、アクションカードを使用した事故対応ロールプレイ演習を行った。そして、アンケートにより応急手当の知識、授業で扱った内容の知識向上に関する自己評価、印象に残った点を調査し、授業内容を評価した。アンケートの結果、曖昧であった受講学生の応急手当の知識は授業後では大きく向上したことが示された。また、授業で扱った内容の知識向上に関する自己評価においては、本授業実践の内容には受講生にとって初見となる内容が含まれていたことが伺え、受講生にとって需要のある内容であった。印象に残った点の調査結果からは、前半の講義内容や後半のロールプレイ演習にまんべんなく関心を寄せていたことが伺え、本授業が理科授業中の事故発生を自分事として考えるきっかけになったことが推察された。これらの結果から、本授業は受講学生の事故対応力の強化と事故発生時の自身の役割意識の向上が期待できた。
  • ― 実践的な先行事例の検討から ―
    大竹 美登利, 石垣 和恵, 吉井 美奈子, 畔柳 まゆみ, 村山 良之, 藤岡 達也
    2025 年 24 巻 2 号 p. 15-22
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/23
    ジャーナル フリー
    近年、日本は大規模な災害が起こり、学校教育においても様々な教科で防災教育が求められている。学習指導要領や教科書での防災教育の取り上げられ方を調べたところ、家庭科ではどの領域でも防災と結びついた学習が取り上げられていた。これをふまえ、本報告では、中学校家庭科の防災教育の教育実践を収集し、特徴を分析した。その結果、家族・家庭生活、食生活、住生活、避難所、避難訓練、災害への備えなどや、幼児・高齢者との関わりや調理法や衣服のはたらき、消費環境についてなどと結びつけた多面的な内容や地域に視点を広げた取り組みが見られた。さらに、理科や社会などの他教科と連携した実践もあり、多様で幅広い授業実践が行われていた。
  • ― ボトムアップ型の活動を取り入れた防災教育の可能性
    佐藤 公治, 森本 晋也, 木村 玲欧
    2025 年 24 巻 2 号 p. 23-33
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/23
    ジャーナル フリー
    学校教育法施行規則には授業時数の標準が定められており、学校で防災教育を行う場合、ここに定められた教科等の中から授業時数を確保することが必要となる。この際に、選択した教科等の目標と防災教育の内容が合致していることが重要である。そこで、教科等の選択の実態を明らかにするために、宮城県内の小中学校を対象に調査を行った。調査は、対人管理的な避難訓練とそれ以外の防災教育が、どの教科等を選択して行われているのか、その実態等を明らかにするものである。調査の結果、小・中の全教科等の中で、中学校の総合的な学習の時間(以下「総合」)だけが、避難訓練とそれ以外の防災教育の双方に活用されていることが明らかになった。この結果をもとに、「総合」において、生徒たちのレジリエンスを育む防災教育について考察を行った。
  • ~ 運行マニュアルや運転手の研修、座席ベルトの設置状況を踏まえて ~
    木宮 敬信, 村上 佳司, 斎藤 利之
    2025 年 24 巻 2 号 p. 35-43
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/23
    ジャーナル フリー
    2022年に静岡県牧之原市で発生した幼稚園送迎バス置き去り死亡事故の後、2023年4月には園児の所在確認の徹底と安全装置の設置が義務化された。これにより、送迎バスの安全性は一定程度向上したものと考えられるが、運転手や同乗者の資質や研修等に関する義務は定められていない。また、座席ベルトの設置については、2013年の国土交通省車両安全対策検討会によるガイドラインで方向性が示されたものの、義務化には至っていない。そこで、幼稚園及び認定こども園を対象に調査を実施したところ、運行マニュアルの作成は進んでいるものの、運転手への研修機会の提供や座席ベルトの設置は十分に進んでいない現状が伺えた。また、運転手の非常勤化、高齢化による問題や有効な座席ベルトの開発や公費による費用補助の必要性など、今後送迎バスの安全性の向上に向けた多くの課題が明らかとなった。
  • ― 大阪府における課題の抽出とその解決に向けて ―
    柴田 真裕, 長谷川 陽一, 村上 佳司, 八木 利津子
    2025 年 24 巻 2 号 p. 45-54
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/04/23
    ジャーナル フリー
    本研究では、日本の知的・発達障がい児者に対する防災支援の現状と課題、特に熊本県の「福祉子ども避難所」制度を大阪府における南海トラフ地震対応として検討する必要性について考察した。災害大国である日本において障がい者、特に知的障がい者等に対する災害時の備えの重要性が極めて重要であると指摘されている(和田ら(2016)1))。東日本大震災では、健常者に比べ障がい者の死亡率が約2倍であったことからも、障がい者の避難や避難所生活の困難さが浮き彫りとなった。また、南海トラフ地震発生が予測される中、災害リスクの高い地域である大阪府でも知的障がい者等への配慮が不十分とされる。  本研究では、熊本県が導入した「福祉子ども避難所」のシステム(熊本市(2019)2))を大阪府で活用する可能性を探るため、熊本県でのインタビュー調査を実施し、その効果や課題について検討を行った。なお、「福祉子ども避難所」は熊本市が取り組む二次的避難所の位置づけである福祉避難所の一種として熊本市が定めたものであり、特別支援学校と連携し、障がい児者やその家族が安心して避難生活を送れる環境を提供するものであり、大規模災害時に支援が行き届きにくい障がい児者のニーズに応える役割を果たしている。本研究結果から大阪府での実施が可能になった場合、津波リスクが少ない特別支援学校を避難所として活用することが可能となり、障がい者の避難生活の支援に繋がる可能性が示唆された。しかし一方で、こうした避難所の運営には、備蓄や人員確保、制度整備といった課題も残されていることから今後は、行政や地域との連携による合理的配慮の実現が重要であることが明らかとなった。
feedback
Top