日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
29 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
講座
原著
  • 倉岡 節夫, 篠永 真弓, 三富 樹郷, 鈴木 脩平
    2020 年29 巻3 号 p. 145-149
    発行日: 2020/06/06
    公開日: 2020/06/06
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】破裂性腹部大動脈瘤(AAA)に対する緊急開腹手術(OR)と緊急ステントグラフト内挿術(SG)の医療資源を比較して医療経済上の相違を検討すること.【方法】対象は2011~2018年に当院で経験したRutherfordレベル2~4でinstruction for use(IFU)外のためORを施行した21例(OR群)とIFU内でSGを施行した14例(SG群)であった.術前因子,術中因子,術後成績,医療費を比較した.【結果】2群間の術前重症度,総輸血量,術後成績に有意差は認めなかった.麻酔時間と手術時間はOR群が有意に長く,医療材料費はSG群で有意に高額であった.【結論】SG群は高額な医療材料を消費した.破裂性AAAに対する緊急手術では,SG群はOR群に比して,統計学的有意差はないものの,初回入院時の総医療費が高く入院期間が延長する傾向にあったが,手術時間と麻酔時間は有意に短縮されていた.

症例
  • 大賀 勇輝, 久保 陽司, 剱持 礼子, 松本 三明
    2020 年29 巻3 号 p. 141-144
    発行日: 2020/05/23
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩静脈静脈性血管瘤(Popliteal Venous Aneurysm: PVA)は肺塞栓症を合併することが多く,時に致命的となる場合があるため,早期手術と術後抗凝固療法が現在の標準的な治療となっている.患者は75歳女性,突然の胸部不快感および呼吸困難を自覚して近医を受診,急性肺動脈塞栓症と診断されて当院へ入院となった.造影CT検査では内部に血栓を伴う23×37 mmの左PVAを認め,リバーロキサバンによる抗凝固療法を開始した.呼吸困難は次第に消失し,造影CTで肺動脈および膝窩静脈内の血栓は消失した.周術期に下大静脈フィルターを留置し,瘤切除および縫縮術を施行した.術後抗凝固療法としてリバーロキサバンを1年間継続投与し,良好な短期成績を得ている.直接経口Xa阻害薬は歴史が浅く,これを使用した術後抗凝固療法の有効性や投与期間については報告例が少ない.今後さらなる検討が必要と考えられた.

  • 横山 賢司, 大石 清寿, 田崎 大, 吉﨑 智也
    2020 年29 巻3 号 p. 151-155
    発行日: 2020/06/06
    公開日: 2020/06/06
    ジャーナル オープンアクセス

    87歳,男性.他院にて破裂性下行大動脈瘤に対し下行大動脈置換術の施行歴があった.人工血管中枢側吻合部(遠位弓部)に仮性動脈瘤が形成され手術施行した.前回手術時に同吻合部の止血操作に難渋しており,正中切開での全弓部置換術は同部位の剝離に難渋することが予想された.また術前CTで人工血管は高度に屈曲し末梢では複数多発する壁在血栓を伴う大動脈瘤も認め,末梢アプローチのTEVARも困難と考えた.以上からopen stent graft法による全弓部置換術を選択した.留置の際に遠位端が人工血管の高度屈曲部より末梢に十分なlanding zoneを確保して吻合部仮性瘤をカバーするのを確認する必要があった.内視鏡による血管内観察により遠位端の位置と血管内の性状等を確認してからdeployし,さらにその良好な拡張も確認できた.Open stent graft使用の際の有用な補助手段であったので報告する.

  • 田内 祐也, 三井 秀也, 石神 修大
    2020 年29 巻3 号 p. 157-160
    発行日: 2020/06/06
    公開日: 2020/06/06
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は,胎生期に下肢を灌流していた坐骨動脈が遺残する稀な先天血管異常であり,腹部大動脈瘤との合併は極めて稀である.症例は65歳男性で,前医にて腹部大動脈瘤を指摘され当院受診した.造影CTにて最大短径53 mmの腹部大動脈瘤,完全型左遺残坐骨動脈を認めた.また,左外腸骨動脈および大腿動脈は低形成であった.将来的に瘤化,閉塞のおそれのある遺残坐骨動脈も治療する方針とし,手術は腹部大動脈瘤人工血管置換術,遺残坐骨動脈結紮,左大腿動脈–膝窩動脈バイパス術を施行した.術後造影CTにて左遺残坐骨動脈の完全な血栓化を確認した.

  • 内田 直里, 薦岡 成年, 平田 昌敬
    2020 年29 巻3 号 p. 181-183
    発行日: 2020/06/18
    公開日: 2020/06/18
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は7年前に急性大動脈解離で上行大動脈置換術を受けた58歳男性,血液検査でHb 6.9 g/dL, LDH 2684 IU/L, T-Bil 6.9 mg/dLと黄疸と伴った溶血性貧血と診断された.CTで弓部大動脈の解離が残存し,遠隔期に偽腔拡大することで,術直後から認められていた人工血管の屈曲が増していた.再手術はオープンステントグラフトを内挿して弓部全置換術を行い,人工血管の屈曲を解除した.術後すみやかに溶血は消失した.屈曲の原因として不適切なグラフト長に,遠隔期に末梢側の残存解離腔の拡大が推測された.

血管外科手術アニュアルレポート2015年
  • データベース管理運営委員会 , NCD血管外科データ解析チーム
    2020 年29 巻3 号 p. 161-179
    発行日: 2020/06/18
    公開日: 2020/06/18
    ジャーナル オープンアクセス

    2015年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2015年にNCDに登録された血管外科手術は124,073件であり,1,038施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,22,041, 15,671, 4,779, 2,313, 631, 48,837, および29,801例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は18,907例で,その57.6%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,850例(9.8%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ16.0%,0.6%であった.破裂症例に対するEVARは33.6%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ16.6%と14.5%であり,有意差はなかった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み15,671例登録され,open repair 8,230例(うちdistal bypass 1,194例),血管内治療7,441例が施行された.血管内治療の割合が47.4%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術が47,046例と急激に増加し,このうちレーザー治療(EVLA)が27,849例で,手術法の59.2%を占めた.下肢深部静脈血栓症は531例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術29,801例,下肢切断1,511例が登録された.【結語】2014年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療や下肢静脈瘤に対するレーザー焼灼術の増加が目立った.

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