大動脈解離に対するステントグラフト(SG)留置(TEVAR)後特有の遠隔期合併症として,SG末梢端に生じる新規内膜亀裂(SINE)が重要である.SINEは大動脈解離に対するTEVAR後の4.8–25%に発生し,とくに慢性解離症例で発生頻度が高くなる.SINE発生のメカニズムとしてSGのoversize率・復元弾性力(spring back force)の関与が報告されており,発生回避には厳密な真腔口径計測に基づいたSGサイズ選択および復元弾性力による大動脈壁ストレスを減弱させるSG留置計画が必要となる.末梢に小口径デバイスを用いた積み上げ留置はこれらのリスク因子への対応が可能であり,SINE発生リスクを減少させる上で有用な留置戦略と考えられる.
遺残坐骨動脈は稀な先天異常で,瘤化,閉塞,血栓塞栓症などをきたすことが多い.今回われわれは,右遺残坐骨動脈の閉塞による右下肢虚血に対する血行再建術として側副血行路の血管形成術を施行した症例を経験した.症例は66歳,男性,右下肢跛行にて近医より紹介された.右下肢動脈は膝窩動脈以下で動脈拍動触知不能,Ankle brachial index (ABI)は右で0.63と低下を認めた.CTでは遺残坐骨動脈を認め閉塞していた.大腿動脈は低形成だったが膝窩動脈と側副血行路を介した交通が認められた.手術は側副血行路合流部の血管形成術による血行再建術を施行した.術後はABIも0.88と改善し跛行も改善傾向となった.その後の外来経過観察でABIは1.01まで改善し跛行も消失した.