日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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32 巻, 2 号
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総説
  • 駒井 宏好
    2023 年32 巻2 号 p. 105-109
    発行日: 2023/03/23
    公開日: 2023/03/23
    ジャーナル オープンアクセス

    糖尿病による血管病変として最も重要なものが閉塞性動脈硬化症である.神経性潰瘍を生じる糖尿病性足病変との鑑別は重要で,虚血の有無を早急に診断する必要がある.閉塞性動脈硬化症では糖尿病が合併することでより一層重症化しやすく,下肢切断に至ることも稀ではない.糖尿病の早期からの適切なコントロールの必要性はもちろんのことだが,潰瘍壊死症例では早急に血行再建を行わなければならず,長期的な予後も考慮して積極的な外科治療を適切に行うことが血管外科医には求められている.

  • 北山 晋也
    2023 年32 巻2 号 p. 141-146
    発行日: 2023/04/12
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル オープンアクセス

    リンパ浮腫はリンパ系の機能障害により生じた浮腫であり,その成因により明らかな誘因を認めない原発性と外因性の誘因を有する続発性に分けられる.主な症状は浮腫と重だるさ,皮膚硬化・リンパ囊胞,リンパ漏・乳頭腫などの皮膚変化,反復性の蜂窩織炎などであり,不可逆的かつ進行性であることも多く,QOLを大きく低下させる.診断はリンパシンチグラフィーやICG蛍光リンパ管造影などリンパ流を評価できる画像検査により行われ,線状陰影(Linear Pattern)と皮膚逆流現象(Dermal Backflow)が主要な所見である.治療は保存治療と外科的治療に分けられる.保存治療は弾性着衣による圧迫療法,運動療法,用手的リンパドレナージ,スキンケアの4つからなる複合的理学療法(Complex Physical Therapy: CPT)が行われる.体積減少や維持効果,蜂窩織炎予防効果などで有効性のエビデンスが報告されており治療のgold standardとなっているが,対症療法であり障害されたリンパ流の改善は見込めない.一方外科的治療はリンパ管静脈吻合や血管柄付きリンパ管移植がその代表的なものであり,新しいリンパ流を作成してリンパ浮腫の根本原因であるリンパ流の障害を改善できる.体積減少効果,蜂窩織炎予防効果,QOL改善などが報告されており有効性が期待されているが,症例集積研究が多いため今後エビデンスレベルの高い研究が求められている.本邦では保存療法と外科療法を組み合わせて治療を行うことが多いが,リンパ浮腫は難治であり完治となる例は少なく,いかに治療成績を向上していくかが課題となっている.

講座
  • 末松 義弘
    2023 年32 巻2 号 p. 93-100
    発行日: 2023/03/23
    公開日: 2023/03/23
    ジャーナル オープンアクセス

    急性大動脈解離(AAD)は3大致死的循環器系疾患(急性心筋梗塞,急性肺動脈血栓塞栓症,AAD)の一つであり,これらの3大疾患の診断および治療には,迅速性が要求される.その発症から診断までの時間をいかに短縮できるかが予後に大きく影響する.発症後の死亡率は1–2%/hourといわれており,またStanford AのAADでは保存的にみた場合の死亡率は24時間で20%,48時間で30%,7日で40%,1カ月で50%と報告されている.AADにおいては緊急手術が施行されれば,その予後は良好であり,診断と治療が遅れれば,上述のように心タンポナーデや大動脈破裂など致死的転帰を辿る.AADは,急性心筋梗塞,急性肺動脈血栓塞栓症とは異なり,内科医が行う血管内治療や内科治療のみでは良好な救命率が得られず,救急診療科,循環器内科,心臓血管外科,麻酔科を含めた緊急治療のチームが必要であり,また必ずしも典型的な胸痛症状で来院するとは限らず,来院時ショックバイタル症例にもしばしば遭遇し,AADの診断に際しても各種モダリティーを駆使し,これらチームの密な連携体制の構築が必須と考えられる.本稿にて急性大動脈解離の診断を主に述べる.

  • 佐戸川 弘之, 籠島 彰人, 中田 悠希
    2023 年32 巻2 号 p. 115-120
    発行日: 2023/03/26
    公開日: 2023/03/26
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    静脈疾患には日常最もよく遭遇する疾患である下肢静脈瘤と深部静脈血栓症(DVT)がある.エコー検査は静脈瘤では診断のみならず,術中のガイドとしての使用や術後評価として必須であり,DVTでは早期の画像診断のための第一選択の検査である.エコー検査においては静脈瘤の場合,静脈径の測定,逆流の判定を実施するとともに,瘤の広がり,逆流源,逆流経路を検査する.DVTでは可能な限り確定診断を行い,血栓の範囲,形態,性情を観察し早期治療を開始する.以上の理由から静脈エコー診断法は血管外科医も習熟しておく必要がある.

  • 杉本 貴樹
    2023 年32 巻2 号 p. 129-135
    発行日: 2023/04/01
    公開日: 2023/04/01
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    血管外傷には動脈外傷,静脈外傷があるが,ここでは診断の遅れが致命的となる動脈外傷について解説する.発生機序としては,鋭的損傷と直達・介達外力による鈍的損傷があり,医原性損傷もしばしばみられる.臨床所見は,出血,血腫,仮性瘤形成のほか,鈍的損傷では動脈解離,内膜損傷とそれに伴う閉塞・血栓形成などがあり,出血性ショックや重篤な血流障害をきたすこともある.診断は多臓器損傷の合併も多く,造影CTによる全身撮像が第一選択であるが,さらに血流不全を把握するため血管造影が必要となることも多い.治療は損傷部に対し直接縫合,パッチ形成,グラフト置換などの外科的修復術のほか,血管内治療として塞栓術,ステントグラフト留置などが行われる.また治療戦略として出血性ショック例に対する一時的中枢側バルーン留置下での緊急手術や血行動態の比較的安定した多臓器損傷例に対するダメージコントロールサージェリーも成績向上のために考慮する必要がある.本稿では,自験例の提示も含め血管外傷の発生機序,診断法,治療戦略について解説する.

症例
  • 植村 翼, 荒田 憲一, 下石 光一郎, 福元 祥浩, 四元 剛一
    2023 年32 巻2 号 p. 83-86
    発行日: 2023/03/03
    公開日: 2023/03/03
    ジャーナル オープンアクセス

    肩関節脱臼に伴う腋窩動脈損傷の発生率は約1–2%と稀であり,多くは50歳以上で発症する.症例は83歳女性.転落による右肩関節脱臼の整復直後から右上肢の動脈を触知できなくなり,動脈損傷を伴う急性動脈閉塞が疑われ当院へ救急搬送された.造影CT検査で右肩関節部の腋窩動脈が閉塞しており緊急手術を行った.右腋窩動脈損傷部は内膜が完全離断し,外膜は引きつれて細径化していた.損傷部を切離し血栓除去後,断端をトリミングし,直接連続端々吻合で再建した.術直後より右撓骨動脈は触知可能となった.経過良好につき,術後10日目に自宅退院となった.稀な症例を経験したので,考察を加えて報告する.

  • 漆野 恵子, 嶋岡 徹, 池田 元彦, 木村 龍範
    2023 年32 巻2 号 p. 87-91
    発行日: 2023/03/23
    公開日: 2023/03/23
    ジャーナル オープンアクセス

    カテーテル穿刺部仮性瘤は血管外科医として日常遭遇する.一方,後天性血友病Aは第VIII因子に対する自己抗体が原因となる非常に稀な疾患であり致命的な大出血をきたす.今回,カテーテル穿刺部の仮性瘤形成を契機に後天性血友病Aと診断し,経過中に急性胆囊炎を併発し治療に苦渋した症例を経験した.症例は79歳男性.亜急性心筋梗塞治療後の手背橈骨動脈仮性瘤で当科へ入院となった.左手背の血腫,上肢,体幹の広範な皮下出血を合併し,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)延長が遷延したことから精査を行い,後天性血友病Aと診断した.経過中に急性胆囊炎を発症し全身状態の悪化をみたが,経皮経肝胆囊ドレナージ,内視鏡的経乳頭的胆囊ステント留置を行い救命しえた.重症の出血傾向を示す患者で遷延するAPTT延長を認めた場合は本症を鑑別に考えて早期の治療介入,併発疾患への適切な治療方針を決定する必要がある.

  • 森 旭弘, 中村 康人, 河合 憲一, 石田 成吏洋, 熊田 佳孝
    2023 年32 巻2 号 p. 101-104
    発行日: 2023/03/23
    公開日: 2023/03/23
    ジャーナル オープンアクセス

    浅側頭動脈瘤のほとんどは外傷に伴う仮性動脈瘤であり,非外傷性の特発性浅側頭動脈瘤はとくに稀である.また頭蓋内の脳動脈瘤との関連について報告した文献はわずかである.今回われわれは脳動脈瘤を合併した非外傷性真性側頭動脈瘤の症例を経験したので報告する.症例は74歳女性.数カ月前からの左耳介前部の拍動性腫瘤を主訴に当院を受診した.明らかな外傷歴はなく,ドップラーエコー,頭部MRA検査にて左浅側頭動脈瘤,2 mm大の右前大脳動脈瘤と診断された.左浅側頭動脈瘤に対して局所麻酔下にて動脈瘤切除術および断端吻合術を行った.術後経過は良好であった.組織学的に動脈壁の3層構造は保たれており,中膜の線維性肥厚を認め,弾性板は部分的に途絶・不明瞭化しており,外傷機転がないことから特発性真性動脈瘤と診断した.術後6カ月の経過は良好であり,今後も右前大脳動脈瘤に対して経過観察を続けていく方針である.

  • 笹見 強志, 掘江 弘夢, 藤原 義和, 森本 啓介
    2023 年32 巻2 号 p. 111-114
    発行日: 2023/03/26
    公開日: 2023/03/26
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は56歳男性.高コレステロール血症にて近医よりスタチンが処方され,高クレアチンキナーゼ(CK)血症を来したため内服は中止されたが,依然として高CK血症が持続するため当院へ紹介となった.低身長,両下肢筋力低下,眼瞼下垂,左感音性難聴を認め,精査ならびに診断基準によりミトコンドリア脳筋症と診断された.腹部超音波検査で,下腸間膜動脈(IMA)直上の腹部大動脈内に著明な可動性を有するプラークを認め,塞栓症の発生が危惧されたため腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)を施行した.手術では,腎動脈下腹部大動脈のIMA分岐部直上にデバイスを留置し,血管エコー検査で可動性プラークの消失を確認した.塞栓症などの合併症なく,軽快退院した.ミトコンドリア脳筋症に併発した腹部大動脈可動性プラークに対して,EVARによる治療を施行した症例を報告する.

  • 土田 勇太, 下河原 達也, 大竹 裕志, 渋谷 慎太郎
    2023 年32 巻2 号 p. 121-124
    発行日: 2023/03/29
    公開日: 2023/03/29
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈はまれな先天性疾患であるが,壁構造が脆弱であり,瘤形成や閉塞をきたした場合,外科的治療介入が必要となる場合がある.症例は86歳の女性で発熱(38°C),右臀部から大腿部後面の拍動性腫瘤,疼痛のため来院された.造影CT検査では遺残坐骨動脈瘤周囲に炎症所見を認めたが,血液培養検査陰性のため感染性遺残坐骨動脈瘤と確定診断できなかった.初期治療として抗生剤加療を開始し,炎症反応,感染兆候が改善したため,感染性遺残坐骨動脈瘤と臨床診断した.患者の耐術能を鑑みて血管内治療を選択し全身麻酔下でVIABAHNを留置し,術後3年を経った現在でも良好な経過をたどっている.感染性遺残坐骨動脈瘤に対して,抗生剤加療ののちにステントグラフト留置することで良好な経過を得ることができた.感染性遺残坐骨動脈瘤であっても感染コントロールできていれば,血管内治療も選択肢の一つとなる可能性が示唆された.

  • 加藤 有紀, 中村 康人, 河合 憲一, 石田 成吏洋, 熊田 佳孝
    2023 年32 巻2 号 p. 125-128
    発行日: 2023/03/29
    公開日: 2023/03/29
    ジャーナル オープンアクセス

    包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)患者の多くは糖尿病や末期腎不全患者で,冠動脈病変を合併していることも多い.症例は59歳女性,9年間の維持透析と糖尿病があった.右拇趾の潰瘍を認め,他院で血管内治療をするも感染制御不良で当院へ紹介となった.右足病変は壊死が中足部にまで拡大していた.両側下腿の閉塞病変と,左冠動脈主幹部を含む冠動脈2枝病変を認めた.虚血の改善を優先し,抗菌薬投与の上,右浅大腿動脈への血管内治療した後distal bypass術とデブリードマンを行った.術後19日目にオフポンプ冠動脈バイパス術(LITA-LAD, Ao-SVG-#12)と右足再デブリードマンを施行した.その後VAC療法や分層植皮を行い,狭心症状も認めず術後57日目に独歩退院となった.複合的治療により良好な結果を得たため報告する.

  • 磯村 彰吾, 大野 英昭, 八巻 文貴
    2023 年32 巻2 号 p. 137-140
    発行日: 2023/04/12
    公開日: 2023/04/12
    ジャーナル オープンアクセス

    後脛骨動脈瘤は稀な疾患であり,多くは仮性動脈瘤である.下腿近位部から中部にかけて好発し,足関節部の発症は稀である.症例は65歳女性.無痛性右足関節腫脹を主訴に来院した.造影CT検査で23 mmの壁在血栓を伴う右後脛骨動脈瘤,右前脛骨動脈末梢の閉塞と診断した.右後脛骨動脈が足関節以下の主要な血行路となっており,足趾の術中パルスオキシメーター波形を参考に血行再建の必要性を判断した.動脈瘤の切除と後脛骨動脈の直接吻合を行った.術後経過に問題なく術後21日に造影CT検査で後脛骨動脈の開存を確認した.関節周囲の後脛骨動脈は中枢側と比較し血管露出が容易であり,積極的に血行再建を考慮すべきと考えられた.

  • 保坂 公雄, 田邉 大明, 加藤 雄治, 川井田 大樹, 松田 諭, 外山 雅章
    2023 年32 巻2 号 p. 147-150
    発行日: 2023/04/13
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル オープンアクセス

    腸回転異常は腸管の回転や後腹膜への固定が先天的に障害された状態であり,多くは小児期に発症し成人期の報告は少ない.腸回転異常を合併した腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術の報告もほとんどなく,手術戦略などはあまり知られていない.今回,開腹・経腹膜経路での人工血管置換術を行った症例を経験した.症例は69歳,男性.胃癌手術時に腸回転異常と診断されていた.造影CT検査では腎動脈下に腹部大動脈瘤を認めたが,腸回転異常の評価は困難であった.比較的若年であり人工血管置換術の適応であると判断した.術中所見では,小腸は右側腹部に,結腸は左側腹部に存在していた.腎動脈下で遮断し,人工血管置換術を行った.小腸を右側腹部に,結腸を左側腹部に配置し,術後の腸軸捻転を予防した.腸回転異常を合併した腎動脈下腹部大動脈瘤手術では,大動脈への到達方法が重要であり,閉腹時の腸管の位置に注意する必要がある.

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