日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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31 巻, 4 号
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講座
  • 春田 直樹
    2022 年31 巻4 号 p. 193-199
    発行日: 2022/07/13
    公開日: 2022/07/13
    ジャーナル オープンアクセス

    再発静脈瘤に関し,国際的にrecurrent varices after surgery(REVAS)と呼称し,手術既往部位での再発は勿論のこと,非加療部に生じた静脈瘤もREVASの範疇に含まれる.再発静脈瘤の原因としては,不十分な術前評価に基づく不適切手術,不適切もしくは不完全な手術手技や,血流遮断部の血管新生による逆流,さらに手術既往部位と異なる部位での静脈瘤遺残も含めて静脈瘤進行などが挙げられる.このうち,誤った診断に基づく不適切な術式選択や稚拙な手術手技を原因とするREVASなどは,初回手術時の慎重な治療戦略により避けることができた可能性がある.またREVASと診断された時点では症例ごとに特異な静脈逆流形態を示し,定型的な術式では対応できない症例が多い.このため,初回手術以上に詳細な術前評価と術式選択,さらに卓越した手術手技が求められる.

  • 工藤 敏文
    2022 年31 巻4 号 p. 201-208
    発行日: 2022/07/13
    公開日: 2022/07/13
    ジャーナル オープンアクセス

    若年で閉塞性動脈硬化症の危険因子がない膝窩動脈狭窄・閉塞症例では,非動脈硬化性病変として膝窩動脈捕捉症候群(popliteal artery entrapment syndrome; PAES)と外膜囊腫(adventitial cystic disease; ACD)を考慮する必要がある.PAESは腓腹筋内側頭に対する膝窩動脈走行の先天的異常によるもので,腓腹筋内側頭あるいは異常線維束により膝窩動脈が捕捉される.解剖学的な異常を伴うタイプでは手術が第一選択となる.ACDの正確な原因は不明であり,囊胞はゼラチン状のムコイド物質で満たされている.閉塞ではなく膝窩動脈狭窄を示すことが多いが,膝窩動脈血栓性閉塞の合併または広範な動脈変性の場合は切除的治療法が望ましい.

  • 山岡 輝年
    2022 年31 巻4 号 p. 239-242
    発行日: 2022/07/30
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    大腿膝窩動脈領域に対する血管内治療は,デバイスの進歩と手技の確立によって実臨床において広く受け入れられている.最新の主要デバイスを中心にその現状を概説する.

  • 植田 初江, 雨宮 妃
    2022 年31 巻4 号 p. 263-268
    発行日: 2022/08/26
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    長期透析患者における血管心病変は動脈硬化が主体であり,とくに末梢の動脈では必発である.近年透析が適応となる患者の基礎疾患として糖尿病性腎症が増加しているが,透析前から存在する糖尿病性血管病変は透析によりさらに加速される.これまで透析患者の末梢血管病変はメンケベルグ型中膜石灰化症を示すと言われてきた.しかし,われわれの剖検例における病理学的解析では,長期透析患者の動脈硬化症の形態は典型的なメンケベルグ硬化症とはやや異なっていた.総括すると①通常の動脈硬化進展よりも,早期から動脈硬化症が出現する.②大動脈から末梢の筋性動脈,細動脈まで連続性に,板状石灰化が内膜を主体に認められる.③冠動脈硬化症による虚血性心疾患を高頻度に合併する.とくに冠動脈では内膜の石灰化を主体としたハードプラーク(AHA動脈硬化症分類AHA Class V)がソフトプラーク(AHA Class VI)よりも多く認められた,などであった.

症例
  • 坂尾 寿彦, 石田 直樹, 根津 賢司, 今井 良典, 岡田 憲三, 梶原 伸介
    2022 年31 巻4 号 p. 189-192
    発行日: 2022/07/05
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル オープンアクセス

    診断が困難であった稀なCOVID-19感染後の結核性上腕動脈仮性動脈瘤の症例を報告する.症例は73歳男性,COVID-19に罹患し4週間入院加療した.軽快退院4週間後に発熱を認め,左肘部の発赤腫脹疼痛が出現した.抗生剤の内服で経過観察したが,症状は改善しなかった.CTにて蜂窩織炎が疑われ,MRIでは蜂窩織炎,膿瘍,動脈瘤が疑われた.血管超音波検査で左肘部腫脹部位に上腕動脈と交通のある一部血栓化した37 mmの動脈瘤を認め,上腕動脈仮性動脈瘤と診断した.入院後,局所麻酔下に瘤内血栓除去,瘻孔閉鎖術を施行した.術後発熱が持続し,術後8日目のCTで両肺野にびまん性の粒状陰影を認め,粟粒結核が疑われた.喀痰および摘出血栓のPCR検査で結核菌陽性となり,粟粒結核,結核性仮性動脈瘤と診断した.摘出血栓の病理検査で抗酸菌を確認した.結核治療のために転院し,症状は改善し退院となった.

  • 黒澤 弘二, 蝶野 喜彦, 大木 隆生
    2022 年31 巻4 号 p. 209-212
    発行日: 2022/07/13
    公開日: 2022/07/13
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は51歳男性.主訴は間歇性跛行と運動時の右下腿の易疲労感.初診時,ABIは正常範囲内,下肢の脈拍は両側とも膝窩動脈,足背動脈まで触知可能であった.超音波検査にて右膝窩動脈周囲に半周性に囊胞性病変を認めたが,動脈の狭窄は認めなかった.1カ月後再診時,運動負荷後のABIを測定したところ,ABI右0.27と低下を認め,超音波検査でも膝窩動脈の狭窄を認めた.膝窩動脈外膜囊腫と診断し,全身麻酔下に,外膜囊腫切除を施行した.術後経過良好で退院し,間歇性跛行症状も消失した.術後3年以上経過観察しているが,再発はなく,外膜囊腫に対して負荷ABIを使用した診断は適切で,外科治療は有効であった.

  • 川島 賢人, 中山 雅人, 外山 正志
    2022 年31 巻4 号 p. 213-215
    発行日: 2022/07/16
    公開日: 2022/07/16
    ジャーナル オープンアクセス

    今回われわれは,右鼠径部からの採血後に右大伏在静脈に50 mm大の巨大な静脈性血管瘤が出現し手術を行った症例を経験した.術中所見では右大伏在静脈に2 cmの裂傷を認め,鼠径部採血時の血管損傷が原因と思われた.医原性静脈性血管瘤の本邦報告例は非常に少なく稀な症例である.鼠径部採血時の注意点を踏まえ,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 加藤 昂, 宇佐神 潤, 手塚 雅博, 柴崎 郁子, 緒方 孝治, 福田 宏嗣
    2022 年31 巻4 号 p. 243-247
    発行日: 2022/08/10
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル オープンアクセス

    Stanford A型急性大動脈解離(TAAD)で弓部分枝に解離進展し脳障害を呈する症例が散見される.症例は71歳,男性.前医からTAADの診断で当院へ転院搬送された.意識障害や左上下肢の麻痺などは認めなかったが,前医CTで腕頭動脈(BCA)から右総頸動脈(RCCA)中枢側まで閉塞が認められた.術前頸動脈超音波でRCCA末梢側に血栓形成を認めた.動脈原性脳塞栓症を回避するために,循環停止後に選択的脳分離灌流を左鎖骨下動脈と左総頸動脈から開始し,その左からのcross flowによりRCCA末梢側血栓を除去した.その後にRCCAと人工血管を端々吻合し,RCCAの順行性脳灌流を開始した.RCCA中枢側完全閉塞でその末梢側血栓を術前診断し,選択的脳分離灌流の順序を工夫することにより,広範囲な脳塞栓症合併を回避することに成功したため文献的考察を加え報告する.

  • 野田 和樹, 陽川 孝樹, 澁谷 卓, 松田 均
    2022 年31 巻4 号 p. 249-252
    発行日: 2022/08/11
    公開日: 2022/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は稀な先天異常であり,動脈瘤を形成することにより下肢動脈虚血の原因となりえる.症例は84歳女性,右下肢痛を主訴に前医を受診した.CTで壁在血栓を伴う右遺残坐骨動脈瘤と膝窩動脈以遠の閉塞を認めた.初期の抗血栓療法は効果的であったが,右下肢痛が再燃し潰瘍形成のため足趾切断を要した.血栓塞栓症の再発予防目的に大腿動脈–膝窩動脈バイパス術と臀部アプローチによる動脈瘤切除を施行し,良好な結果を得たため報告する.

  • 西出 亮, 小澤 博嗣, 村上 友梨, 馬場 健, 宿澤 孝太, 大木 隆生
    2022 年31 巻4 号 p. 253-257
    発行日: 2022/08/26
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    下腸間膜動脈瘤(IMAA: inferior mesenteric artery aneurysm)は,腹部内臓動脈瘤の中でも極めて稀な疾患である.今回われわれは腹腔動脈(CA: celiac artery)の閉塞,上腸間膜動脈(SMA: superior mesenteric artery)に高度狭窄を伴うIMAAに対して,血管内治療を施行した1例を報告する.症例は72歳,女性,無症候性の25 mm大の囊状IMAAおよびIMAの75%狭窄,CAの閉塞,SMAの99%狭窄と診断された.腹部臓器は主にIMAからの血流で灌流されていた.瘤の空置に加え,「jet disorder phenomenon(ジェット障害現象)」からの離脱や腸管虚血の回避をなし得るため,血管内治療を施行した.小口径ステントグラフトによりIMAAは空置され,かつ,SMAステントによりSMAの血流改善を認めた.術後経過は良好であり,術後9日目に退院した.術後約3年経過したが,ステント,ステントグラフトともに再狭窄を認めず経過良好である.

  • 村井 則之, 西山 綾子, 松浦 壮平, 向後 寛子, 澤 真太郎
    2022 年31 巻4 号 p. 259-262
    発行日: 2022/08/26
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    陥入爪に対するフェノール法施行後,左第1趾が壊死となり治癒に難渋した症例を経験した.症例は,59歳男性.既往歴は1996年糸球体腎炎のため透析導入,左大腿–右大腿動脈バイパス.家族歴に特記事項なく,飲酒・喫煙もない.2020年3月に左第1趾陥入爪に対してフェノール法施行.治癒遅延で5月当院受診.感染と壊死にて7月下旬左第1趾切断.6日後に左下肢動脈への血管内治療受け退院するも治癒不全にて9月下旬に再入院.大動脈弁狭窄症への弁置換術を他院で受け,10月下旬に再々入院.入院当日意識消失あり,ペースメーカー植込みを行った後,左大腿動脈–足背動脈バイパス.11月中旬左第1趾腐骨除去.入院中,直腸潰瘍より出血し止血術施行,12月中旬,陥入爪処置から9カ月後治癒退院.フェノール法による陥入爪の処置は簡便・低侵襲で普及しているが,虚血が疑われる症例では慎重に行うべきである.

血管外科手術アニュアルレポート2018年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会, NCD血管外科データ解析チーム
    2022 年31 巻4 号 p. 217-237
    発行日: 2022/07/30
    公開日: 2022/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

    2018年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2018年にNCDに登録された血管外科手術は143,745件であり,1,090施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,24,495, 18,700, 4,813, 2,363, 694, 45,088, および47,592例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は20,160例で,その61.6%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,794例(8.9%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ15.7%,0.6%であった.破裂症例に対するEVARは43.3%を占め,比率が年々増加しているが,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ14.0%と14.6%であり,有意差はなかった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み18,700例登録され,open repair 8,336例(うちdistal bypass 1,348例),血管内治療9,710例が施行された.血管内治療の割合が51.9%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術が43,133例と昨年に引き続いて減少し,前年比で7.7%減少した.このうち血管内焼灼術は33,346例で,手術法の77.3%を占めた.下肢深部静脈血栓症は449例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術44,003例,下肢切断1,631例が登録され,共に増加している.【結語】2017年と比較して,全領域において血管内治療が増加しており,とくに動脈瘤に対するステントグラフト内挿術,慢性動脈閉塞症に対する血管内治療や下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術の増加が目立った.

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