本研究は, 共感性・社会的スキル・外向性, 及びこれらの下位次元に注目し, 各要因がどのようなメカニズムで向社会的行動を生起させるのかを検討する目的で実施された。女子大学生115名に対し, 共感性・社会的スキル・外向性・向社会的行動の各尺度を用いて質問紙調査を行った。
分析の結果, 向社会的行動に強い正の影響を及ぼしていたのは, 共感性と外向性であった。また, 社会的スキルに強い影響があったのは外向性であった。これらは, 仮説を部分的に支持したため, 共感性と社会的スキルの下位概念に注目し, 因子分析を行った。その結果, 共感性においては, 冷静さ, 緊急時の不安, 感受性, 立場の理解と命名された4因子, 社会的スキルにおいては, 問題の処理, 積極性, 感情の表出, 周囲への配慮, 謝罪, 他者とのコミュニケーションと命名された6因子が抽出された。そこで, これら10因子に外向性を加え, 新たに向社会的行動との因果関係について解析した。その結果, 向社会的行動に直接強い正の影響を及ぼしていたのは, 他者とのコミュニケーション, 感受性, 冷静さの3つであった。立場の理解は冷静さを, また, 問題の処理や感情の表出, 外向性, 積極性の4つは, 他者とのコミュニケーションを媒介として正の影響を与えていた。ただし, 積極性の効果は弱いものであった。
以上の結果から, 非緊急事態における向社会的行動をとりやすいのは, 相手の立場になって考えたり, 他者の意見を考慮できることに加え, 他人の不幸に冷静でいられる人, 或は, 映画や小説の登場人物に感情移入しやすい人, 他者との交流が上手な人が考えられた。また, 対人面でのトラブル処理が上手な人や, 外向的・積極的な人が, 他者との交流にも長けていた場合に, 向社会的行動をとりやすいものと考察された。
また, 今後の課題として, 向社会的行動における場面ごとの検討, 向社会的行動と他の影響要因との関連, 女子大学生以外のサンプルについての検討等が挙げられた。
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