抄録
対人関係が発展する各段階においては, 嘘をつくことが必要で重要な役割をもつことがある。真実を伝え合うことはのぞましいことではあるが, 対人関係の均衡を保つために欺瞞行為をとらなければならないこともある。
この研究の目的は, 対面的な2者間の会話事態における欺瞞に伴うコミュニケーション特徴を明らかにすることである。被験者は男女各24名, 合計48名の大学生である。互いに未知の同性の被験者が組み合わせられるが, 一人は欺瞞者, 他は非欺瞞者に割り当てられる。あらかじめ実施してある態度調査の結果に基づき, 2人ともに態度の一致している項目を選択し, 一方の被験者には自分の態度とは反対の立場で発言するよう指示した。これが欺瞞者である。その相手についてはこの操作はせず, かつ, このような操作があることも伝えない。
会話 (12分間) の前後には被験者は会話相手についてのパーソナリティ, 魅力評定を求めた。
主な結果としては, 欺瞞者は非欺瞞者に比べて発言が活発であった。特に, この関係は女性で頻著である。視線行動については, 一般的な事態では女性>男性の関係があるが, 欺瞞者については, 男性の活動性が上昇し, 女性≒男性の関係になっていた。身体接触行動については, 欺瞞者は手・腕への接触が相手よりも多かった。この関係は, 男性で著明であった。これらの男女によって異なる特徴は, 欺瞞を導入しない一般的な会話事態での各チャネルの活動性の関係とは反するものであった。さらに, 女性の欺瞞者は, 会話後には特におしゃべりで, ユーモアがあり, 感じがよく, 魅力的と肯定的に評定されていた。
これらの結果によると, 欺瞞の導入によって生じる心理的変化は, 一般的には抑制されているコミュニケーション・チャネルが活性化される形で示され, それが女性ではより意識的な行為として, 男性では無意識的な行為に強く反映されることがうかがわれる。