鉄道工学シンポジウム論文集
Online ISSN : 2759-1492
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鉄道工学シンポジウム論文集
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鉄道工学シンポジウム論文集
  • 廣畑 翔介, 吉田 尚
    2025 年 29 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     ラインセンサカメラで撮影した軌道の画像データと深層学習モデルを用いてレール表面傷およびレール底側部の腐食を検査する技術を開発した.レール表面傷の検査モデルは,レール上面から撮影した画像からレール頭面領域における,シェリング,きしみ割れ,ゲージコーナーき裂,波状摩耗の4種類の傷をそれぞれ判定することができる.底部腐食の検査モデルは,レール側面を斜めに撮影した画像から,レール底側部における腐食の有無を判定することができる.いずれの検査モデルも,同一の画像を複数人でチェックして作成したソフトラベルによるデータセットを用いることで,人間の判断のばらつきをモデルの予測値に反映できるような工夫を施し,モデルの予測の確信度と人間の判断の確信度の間に高い関係性を築くことができた.

  • 木村 瞭太, 坪川 洋友
    2025 年 29 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     軌道設備の維持管理は,保線技術者が現地に出向き,目視や寸法測定等により行われているため,保線技術者にとって大きな負担となっている.そのため,近年急速に進化している計測技術や画像処理技術を活用して,維持管理業務を効率化することが求められている.そこで本研究では,トロ台車に搭載したプロファイルカメラ(3Dカメラ)でレール頭部と軌間内の画像データを取得し,画像データからレール遊間とスラブ軌道における突起コンクリート周辺てん充層に生じた隙間を測定するアルゴリズムを提案した.さらに,新幹線の保守基地線および営業線において,トロ台車を走行させながら画像データを取得して提案したアルゴリズムを適用し,現地における実測値と比較した.その結果,レール遊間は0.5mm程度,突起コンクリート周辺てん充層の隙間は1mm程度の精度で測定可能であることがわかった.

  • 梶原 和博, 田中 博文
    2025 年 29 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     生産年齢人口の減少や就業者の高齢化が進行する社会情勢において,デジタル技術を活用した保線業務の省人化が求められている.近年,汎用の携帯情報端末を加速度や動画等を取得するセンサとして利用し,列車巡視等の保線業務を低コストに省力化する検討が進められている.本研究では,携帯情報端末で取得した列車前方動画にSfM-MVS技術を適用して,軌道および線路周辺の3次元空間モデルを作成し,その作成効率や精度に及ぼす各種撮影条件の影響を検証した.これらの検証を通じて,列車前方動画から作成した3次元空間モデルを,線路の平面線形の推定や線路周辺構造物の寸法計測等に活用できる見通しを得た.

  • 清水 惇, 箕浦 慎太郎, 河西 拓哉, 福井 義弘
    2025 年 29 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     在来線において,建築限界内の支障物検知や沿線の環境変化検知が可能となる列車巡視支援のための線路周辺画像解析エンジンが開発されている.一方,新幹線を新規に建設する際にも,建築限界確認の省力化および効率化が強く求められている.そこで,線路周辺画像解析エンジンを用いた新幹線における建築限界の確認を目的として,建設中の新幹線の駅やトンネル等の暗所となる区間で複数の線路周辺画像を取得し,建築限界支障物検知の適用可能性について検証を行った.その結果,複数の近赤外線投光器を用いて取得した画像に鮮明化処理を実行してから解析することで,画像撮影速度が30km/h以下であれば,平均10mm程度の誤差で支障物を検知できることを確認した.

  • 山下 雄大, 仲山 貴司, 野城 一栄
    2025 年 29 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     鉄道トンネルの維持管理では,日々の巡回のほか,定期的な検査が義務付けられており,検査員による目視や打音調査の結果を踏まえて健全度が判定されている.今後は労働人口の減少が見込まれており,検査業務をいかに省力化するかが課題になっている.そこで本研究では,既往の画像情報の活用技術をさらに発展させた,2つの検査支援システムを開発した.一つめは,撮影画像からひび割れ以外の変状と補修跡をAIで検出し,これら変状等の検出結果から標準的なトンネルの健全度を判定する,「変状抽出・健全度判定アプリ」である.二つめは,AIで検出した変状のうち,詳細に確認すべき要注意箇所を,トンネル覆工の表面に投影できる,移動式の「要注意箇所投影装置」である.これらの開発技術の詳細について,現場での検証結果を含めて報告する.

  • 北村 啓太朗, 松本 康寿, 佐々木 良
    2025 年 29 巻 1 号 p. 38-45
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     平地から傾斜地,山地に及ぶ鉄道空間を支える土構造物(以下,土工等設備という)の維持管理は,安全で持続可能な鉄道システムに欠かせない.本研究では,維持管理の省力化と災害リスクマネジメントの体系化に寄与する目的で,鉄道MMSと航空LPの三次元点群データをGISに展開し,(1)土工等設備の特徴と配置関係を示す3Dデータの生成,(2)地山と接する設備に照射したレーザ点群のクラス分類,(3)反射強度表示の点群オルソ画像と微地形表現図の合成,(4)建築限界を切り取る鉄道MMS点群と広範な沿線空間をカバーする航空LP点群の統合により,土工等設備の立体構造特性を可視化した.

     本論文では,これらの空間データを用いて,実空間の既存記録をデジタルツインの土工等設備に紐づける方法,沿線の構造物エッジを不動とし相対的な経時変化を捉える方法を提案する.

  • 足立 天翔, 磯崎 光
    2025 年 29 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     東京地下鉄が実施している地下鉄トンネルのコンクリートはく落防止を目的とした打音点検効率化のため,AIによる変状抽出に用いる画像の違いによる抽出精度比較検討を行った.検討方法として,2つの方法で取得したトンネル内の高彩度画像及びグレースケール画像による変状展開図を基に正解データを作成したうえで,AIの学習モデルを構築した.高彩度画像のモデルでグレースケール画像の変状抽出を行うなど複数パターンの精度検証を実施した結果,学習と検証に使用した画像種別が同じであると精度が高くなる傾向が確認された.また,更なる学習を続けることで色彩情報を持たず,解像度が低いグレースケール画像でもAIによる変状抽出は不可能ではなく,研究を進める価値が示された.

  • 佐藤 保大, 中村 大輔, 栗林 健一
    2025 年 29 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     高齢化・人口減少下において,多大な労力を占める目視検査の省力化は急務であり,変状データの効率的取得に向けた画像撮影手法および変状自動抽出手法の確立が喫緊の課題となっている.本研究では,新幹線線路内の土木構造物変状に対し,画像認識AIによる変状抽出の適用可能性を検証したうえで,新幹線さく内連続画像撮影機器の開発に取り組んだ.その結果,一定条件で撮影した画像を学習させたAIモデルにより,変状を一定精度で抽出できることを確認した.あわせて,効率的な画像データ取得のため,線路内を連続的に撮影可能な機器を開発し,営業線での走行の結果問題なく機能することを確認した.

  • 松谷 真吾, 西宮 裕騎, 玉川 新悟, 細見 章人
    2025 年 29 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     現行のロングレール管理では,レールのふく進等により付加されるレール軸力の温度換算値である換算付加温度を用い,敷設後の中立温度を更新することでレール軸力を管理している.一方で,このような管理下においても軌道の著大通り変位は発生しており,この原因として,敷設後の中立温度の経時変化により,想定以上のレール軸力が発生している可能性が考えられる.本研究では,中立温度の変化特性を把握するため,ふく進量の変化を軌道構造に着目し分析するとともに,ロングレール区間でレール軸力とレール温度を敷設時より長期間測定した.その結果,ふく進の要因と考えられる項目について影響の大きさを定量的に確認した.また,今回対象とした条件では,中立温度の経時変化により想定以上のレール軸力が発生している可能性は低いことを確認した.

  • 佐々木 智
    2025 年 29 巻 1 号 p. 65-68
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     線路設備管理においてレール張り出し事故防止は安全安定輸送のために重要な責務である.保線系統ではレール張り出し事故を未然に防ぐため,ロングレール検査を行い,必要に応じて設定替え(レールに適切な緊張力を与える保守工事.酷暑期おけるレール張り出しや厳冬期におけるレール破断を防ぐことを目的とする.)を行っている.しかしながら,JR東日本管轄内においてレール張り出しを根絶させることはできていない.そこで本研究では,通常検査の補助手段として通り変位データに着目し,通り変位データを活用することでレール張り出しの予兆を把握することが可能か検討した.また,通り変位分析の対象箇所に敷設されたレール軸力センサのデータを踏まえ,通り変位とレール軸力の関係性について報告する.

  • 岡本 光生
    2025 年 29 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     分岐器は駅,車両,施設,電気と複数部門が関係すると同時に,機械的な可動部を有するため各部門の定期的な保守作業を必要とする設備である.そのため,従来の定期的なメンテナンスから必要に応じたメンテナンスを行うCBMへの移行を行うことで,検査周期適正化と転換不能の未然防止を目指している.CBMの実現には状態監視のためのセンサ設置が必要だが,NS形電気転てつ機にはそれらの機構が存在しない.そこで,本研究では営業線上のNS形電気転てつ機を有する分岐器に対して長期間設置可能なセンサの開発,安定したデータ取得,および,それらによる分岐器検査のシステムチェンジ実現を目指した.また,分岐器転換不能時の各センサ値を取得するため,試験環境で各種の調整不良,転換不能を模擬した検証を行った.

  • 稲場 亘, 松岡 弘大, 高橋 和樹
    2025 年 29 巻 1 号 p. 77-84
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     持続的な鉄道のメンテナンス体制を構築するためには,経験により技術者個々に内在された設備メンテナンスの知識(暗黙知)の共有・継承が重要な課題の一つであるが,実際に技術者の暗黙知を調査し形式知化した事例は少ない.本研究は,技術者アンケート調査により電気転てつ機の定期検査に関わる技術者の暗黙知を直接抽出することを試みる.ロック調整と密着度調整を対象とした調査と分析の結果,ロックの調整を行うずれ量に技術者間のばらつきが存在し,特に温度変化やクセ・ガタ等の要因を考慮して,あえて大きいずれ量を残す暗黙知の存在が示唆された.また,ずれ量残しを行う技術者の割合は年齢と相関がなかったことから,既存のOJTなどではこの暗黙知が十分に伝承・共有されているとは言えず,マニュアルなどによる形式知化の必要性が示唆された.

  • 神前 真桜, 松岡 弘大, 稲場 亘, 高橋 和樹, 貝戸 清之
    2025 年 29 巻 1 号 p. 85-92
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     地方鉄道では設備維持管理の省力化が喫緊の課題となっている.レール間の電気的接続を担うレールボンドは数が多く,検査頻度も高いため,実態に応じた管理の合理化が重要である.一方これまで,台帳の管理単位やデータ欠損により,一般的な指数ハザードモデルによる分析では異常発生頻度を精度よく把握できなかった.本研究では,レールボンドを管理する電気系統のデータに加え,保線系統の台帳・検測データを系統横断的に活用したデータセットの構築法を提案する.さらに,実路線の2,092本のレールボンドへの適用を通じて,系統横断でのデータ活用による異常発生頻度の分析精度の向上効果を実証的に示す.

  • 藤本 大輝, 坂本 達朗, 吉田 幸司, 他谷 周一, 三條 剛嗣
    2025 年 29 巻 1 号 p. 93-100
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     我が国の鋼鉄道橋の塗装塗替えは,劣化した塗膜を除去し,活膜を残して塗り重ねることが一般的である.そのため供用年数が長い鋼鉄道橋では,塗膜厚が増加し,内部応力が増加するほか,経年により塗膜が硬脆化することで塗膜に割れ・剥がれの発生が懸念されるが,塗膜の付着性および硬度を複数時期で比較した事例は少ない.そこで,1960年代に供用を開始し高頻度に塗り重ねられた鋼鉄道橋を対象に,二時期で外観調査と塗膜履歴調査,付着性評価試験の実橋調査を行うとともに,塗膜各層の押し込み硬さを室内試験で測定した.その結果,わずかに塗膜割れが確認されたが,大部分の塗膜は十分な付着力を有し,大面積での塗膜の剥がれは確認されなかった.一方で,塗膜の付着力は低下傾向にあり,最下層の鉛丹さび止めペイントが硬化傾向にあることがわかった.

  • 鍛治 秀樹, 関 雅樹, 田辺 篤史, 門田 祐一朗, 北原 武嗣
    2025 年 29 巻 1 号 p. 101-108
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     東海道新幹線鋼橋の可動沓の一部は,支承の静的移動量が温度変化に伴う主桁の伸縮量に追従していない場合がある.このような変状を放置すると支承部に応力集中が生じ,端補剛材下端部の損傷が生じかねない.しかし,近接目視調査のみでは可動不良の支承部を抽出することが困難な場合もある.そこで,可動不良の支承部を抽出する調査として,下フランジのソールプレート前面の下フランジ応力,ソールプレートの移動量および部材温度に関して,3日間静的測定を行う方法を検討した.測定結果からソールプレートの温度追従性と応力状態を評価し,健全性を判定するものである.本稿では,可動不良が生じた2橋りょうを選定し,支承部据直し前後での実橋測定を行い調査方法の妥当性を検証した.

  • 中原 祐介, 徳永 宗正, 成田 顕次, 坂井 公俊
    2025 年 29 巻 1 号 p. 109-116
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     構造物の非線形挙動が地震時走行安全性に与える影響を把握するため,一般的な振動特性を持つ鉄道橋りょうを対象に多数の非線形動的解析を実施するとともに,地震時走行安全性に関する指標であるRSIに着目した分析を実施した.その結果,構造物が非線形化すると,振動変位が地震時走行安全性に与える影響は減少する一方で,不同変位による地震時走行安全性への影響はそれほど変化せず,結果として両者を統合した総合的なRSIは減少する傾向が得られた.また,隣接する構造物間で降伏震度が異なる場合には,不同変位による影響が急激に大きくなるため,構造物が非線形化する場合には隣接する構造物間の降伏震度の違いに配慮する必要があることが分かった.

  • 早川 容平, 楠田 将之
    2025 年 29 巻 1 号 p. 117-124
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     軌道の座屈安定性評価は,わが国では列車荷重を考慮しない温度荷重に対する静的座屈を対象とするのが一般的である.しかしながら,未だ多くの鉄道事業者で著大通り変位事象が発生しており,座屈安定性のより精緻な評価手法の必要性が高まっている.検討においては,温度荷重による静的なレール挙動の実態や,列車走行時の動的影響下における道床横抵抗力特性の解明が必要であるが,十分に明らかになっていない.そこで本研究では,レールの静的挙動の実態を把握するため,急曲線ロングレール区間のレール変位の長期計測を行った.また,動的影響の実態を把握するため,ロングレール区間の浮きまくらぎ箇所のアップリフトおよびレール凹凸箇所の振動加速度の現地測定を行った.さらに,数値計算により現地で得られたアップリフトの再現解析を行った.

  • 髙山 大陸, 水谷 淳, 弟子丸 将
    2025 年 29 巻 1 号 p. 125-131
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     レール損傷が発生する要因の一つに腐食がある. 特に山岳トンネル内の漏水箇所では, 軌道パッド等のレール締結装置の構成部材と直接接触するレール底側部に腐食による減肉が確認されている. 減肉したレールは疲労強度が低下することから, 腐食レールの疲労強度を高精度に予測することが重要である. 本研究では三次元形状測定装置を活用して, レール底部全体の減肉状態を精緻に再現した有限要素モデルを作成し, 有限要素解析法によって算出した実応力と応力勾配を用いて底側部が減肉したレールの疲労強度を評価した. その結果, レール底面から疲労き裂が進展して破断に至ったレールでは, 実際の疲労試験結果と比較して, 破断時載荷回数が0.7から2倍の範囲で高精度に予測可能であった.

  • 水谷 淳, 髙山 大陸, 弟子丸 将
    2025 年 29 巻 1 号 p. 132-138
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     現行のレール探傷で実施されているレール頭頂面からの超音波探傷ではレール底側部が探傷不能領域となる問題がある.そこで,レール底側部に発生した欠陥を検知可能な手法として,レール底側部の上方に設置した非接触式センサによって欠陥の有無による漏洩磁束の変化を検知する新たな探傷システムを提案し,室内試験による基礎検討を行った.レール頭頂面にレールに印加する磁場を発生させるためのコイル,レール底側部の上方に磁場を測定するための磁気センサを設置し,レール底側部に加工した人工欠陥周辺での磁気センサの出力を評価した.その結果,レール締結装置がない場合,磁気センサの出力の変化によって欠陥の有無や欠陥形状を判別できる可能性が示唆された.また,レールをレール締結装置で固定した場合についても,磁気センサの出力の変化によって欠陥の有無を判断できる見通しを得た.

  • 龍尾 一海, 井上 拓也, 田中 俊史, 楠田 将之
    2025 年 29 巻 1 号 p. 139-146
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     シェリング傷への進展を抑制するためには,初期の微小き裂を除去することが有効である.これまでにレール頭頂面の微小き裂を検知するために渦流探傷の導入に向けた検討を実施している.本検討では,レール探傷車に渦流探傷装置を搭載し車上での検測を行うために,高速域(約40km/h)における微小き裂の検知精度を室内および営業線で検証し,十分な検知精度であることを確認した.レール探傷車での渦流探傷により取得した信号波形から,微小き裂の反応のみを抽出するシステムを構築し,微小き裂の発生状況の分析結果から実態を明らかにした.また,レール頭頂面の微小き裂の検知領域を従来のレール幅方向5mmから20mmへの拡大を実現する渦流探傷機構を開発し,超音波探傷検査と同じ領域での測定を可能とした.

  • 豊原 匡織, 北川 晴之, 徳永 宗正, 池田 学
    2025 年 29 巻 1 号 p. 147-154
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     鉄道橋の構造性能や列車走行性を精度よく評価するためには,全体系および部材の動的応答,即ち,剛性,重量を適切に把握する必要がある.鉄道橋では軌道部材等の非構造部材が主桁等の主構造剛性に少なからず影響を及ぼす.本研究では,従来実測による検討が少ない新幹線合成桁2橋,新幹線SRC桁1橋を対象に合成桁全体の剛性評価を目的として,高解像度カメラによる画像計測を行い列車通過時のたわみと固有振動数を測定した.また,梁理論に基づき非構造部材および線路方向の断面変化を考慮して剛性を算出し,画像計測結果との比較分析を行った.分析結果より,橋りょうの実剛性に及ぼす影響として,主構造の線路方向の断面変化と比較して非構造部材の影響が支配的であること,非構造部材の影響を考慮することで,梁理論による計算値と実測値が一致することを示した.

  • 北川 晴之, 徳永 宗正, 池田 学
    2025 年 29 巻 1 号 p. 155-162
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     列車通過時の鉄道橋りょうの動的応答を精度良く評価するためには,橋りょう通過時の列車の挙動を考慮する必要がある.本研究では,車両/橋りょう間の動的相互作用を考慮した橋りょうの動的応答の評価法を確立することを目的に,数値解析および振動理論に基づいた検討を行った.まず,動的相互作用解析から,橋りょう上のレールキャンバーが一般的な諸元のコンクリート及び合成桁の動的応答に与える影響は小さい一方,車体の加速度を低減させる効果があることを示した.さらに,50mの合成桁を対象に,列車の空気ばねの減衰定数の増加により共振時における橋りょうの衝撃係数が低下することを示した.また,橋りょう上の列車が散逸するエネルギーと等価なエネルギー減衰により動的応答を評価する簡易評価法を構築し,この手法が動的相互作用解析および実測の動的応答を再現できることを示した.

  • 土井 宏政, 他谷 周一
    2025 年 29 巻 1 号 p. 163-170
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     日本の橋りょうの多くは経年劣化への対応が課題となっており,効率的なヘルスモニタリング手法の開発が急務である.しかしセンサーを橋りょうに設置する監視手法はセンサー自体の保守に労力やコストが嵩むため,多数の橋りょうへの適用は困難である.本研究では軌道検測車から得られるデータ(以下,車上データ)のうち軌道の高低検測差に着目し,橋りょうの健全度を評価する手法を検討した.車上データから変換係数を用いて推計した桁たわみと,地上から実測した桁たわみとを比較した.その結果,車上データから推計した桁たわみの有用性を示した.また,支点部に隙間のある桁における車上データを変状補修前後で比較した.補修前後で明瞭な差異があり,車上データから支点部の隙間の変化を定量的に把握できる可能性を示した.

  • 服部 紘司, 松岡 弘大, 田中 博文
    2025 年 29 巻 1 号 p. 171-178
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     近年発展してきている軌道変位に基づく構造物の車上計測手法では,動的軌道変位差分と呼ばれる指標が着目されているが,その算出誤差は車上計測手法の精度に直結する.本研究では,動的軌道変位差分の算出過程における位置ずれが動的軌道変位差分の誤差に及ぼす影響を理論的に導出した.さらに,導出した理論に基づき既往の動的軌道変位差分の算出過程を見直し,サンプリング間隔の変更に基づく新たな手法を提案した.提案した手法により算出した動的軌道変位差分をFEM解析と比較した結果,提案手法により動的軌道変位差分の誤差が低減することを明らかにした.また,理論導出で得られた誤差の特徴は,実軌道変位でも成り立ち,軌道変位の勾配や位置ずれ量が大きくなるほど,また軌道変位の波長が短くなるほど増大する性質を明らかにした.

  • 田中 俊史, 楠田 将之
    2025 年 29 巻 1 号 p. 179-186
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     改良形接着絶縁レールは,レールと継目板の間にある接着材にテフロンシートをあらかじめ挿入し,接着材内部に人工的な界面を設けることで,継目板から接着材がはく離することを防ぐ仕組みとなっている.しかし,近年,テフロンシートの端部付近を起点とした継目板折損が連続して発生した.そこで,列車走行時に継目板に発生する応力分布を把握するとともに,既設の改良形接着絶縁レールを回収して継目板の腐食範囲およびレールと継目板に残存する接着力を確認した.得られた結果に基づき,新たな接着材を使用し,テフロンシートを拡大した接着絶縁レールを製作した.性能確認として,引張試験およびレール曲げ疲労試験機を用いた疲労試験を実施し,実用上問題がないことを確認したので報告する.

  • 宮下 綾乃, 塩田 勝利
    2025 年 29 巻 1 号 p. 187-194
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     現在,分岐器を構成する部材について鉄道構造物等設計標準・同解説 軌道構造に則った照査を行う場合には,一般軌道のレール締結装置の輪重・横圧の設計作用を用いることとされている.しかし,ポイントやクロッシングの乗り移り部で衝撃的な輪重・横圧が生じているにもかかわらず,分岐器構造を考慮した設計作用は設定されていない.そこで,分岐器構造を考慮した設計作用の算定方法を確立するために,分岐器内で発生する輪重・横圧の推定式を検討することとした.具体的には,マルチボディダイナミクスを用いた分岐器走行シミュレーションを用いて分岐器内で発生する輪重・横圧を算定した.また,ポイントで発生する輪重の最大値を目的変数,分岐器番数,車両重量,走行速度を説明変数とし,重回帰分析を行い,求めた推定式を用いてポイントで発生する輪重を算定したところ,実測値と一致する結果が得られた.

  • 小野 寛典, 篠田 憲幸, 佐藤 安弘
    2025 年 29 巻 1 号 p. 195-202
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     筆者らは小型情報端末を用いて,上下振動加速度により高低変位を推定して軌道管理を行う手法を研究してきた.この手法をもとに,ある地方鉄道事業者では列車先頭運転台にて小型情報端末により車両動揺を高頻度に測定して上下振動加速度により軌道管理を行っている.しかし,通り変位については,小型情報端末を用いて推定する手法の報告が見当たらない.通り変位が軌道整備目標値を超過する箇所は,高低変位に比べて少ないものの,曲線部や緩和曲線部では通り変位が原因と考えられる車両動揺の発生が顕著にみられるため,曲線部を中心に軌道状態の把握を行い,通り変位の管理手法の検討を行うこととした.その解析結果について述べるとともに,ヨー角速度による軌道管理手法の構築を行い,軌道管理手法の有効性について確認した.

  • 成田 顕次, 後藤 恵一, 弟子丸 将
    2025 年 29 巻 1 号 p. 203-210
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     新幹線の地震対策が進む一方,逸脱対策等により軌道に作用する横圧の著大化が懸念されるが,地震時横圧に対するレールの抵抗特性,軌道部材の破壊性状に関する知見は少ない.本研究では,地震時における車両からの著大横圧に対する新幹線スラブ軌道のレールの抵抗特性および軌道部材の破壊性状を把握することを目的に,実物大の新幹線スラブ軌道を試験体として,レールの頭部及び底部に対する水平載荷試験を行った.その結果,レール頭部に載荷した場合にはレール小返り挙動が卓越し,最終的にはレールが板ばねから脱離した.また,レール底部に載荷した場合にはアンカーボルトが破断した.加えて,載荷試験後の軌道スラブの埋込栓の引抜強度を評価した結果,全ての埋込栓でJIS規格値を上回った.

  • 佐藤 和久, 和田 直樹, 本間 基寛, 羽賀 泰之
    2025 年 29 巻 1 号 p. 211-216
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     鉄道橋では,河川の増水により橋脚や付近の盛土の流出等の恐れがある場合,橋梁下の水位に応じて,徐行や停止といった運転規制を行っている.運転規制のためには,橋梁下の水位を観測する必要があり,従来は独自に各鉄道橋に水位計を設置してきたが,設置・維持に人手とコストがかかっていた.そこで,河川管理者が設置する水位計情報を用いることにより,橋梁下の水位を推定することでその労力の削減を図った.橋梁下の水位推定には2つの異なる手法を用いた.1つは,橋梁下の水位計と河川管理者が設置する水位計測定値の相関性を解析することで推定する手法を用いた.もう1つは,洪水解析モデルの1つであるRRIモデルと河川管理者の水位計情報により推定する手法である.それぞれで精度良く橋梁下の水位を推定することができたので報告する.

  • 鍋島 康之, 小原 優輝
    2025 年 29 巻 1 号 p. 217-220
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     2024年7月に山形県で発生した豪雨による土砂災害の内,鉄道用地外からの土砂流入による鉄道被害に着目し,公開されているDEM(digital elevation model)データを用いて軌道から100mまでの範囲に存在する渓流の最大傾斜角,平均傾斜角ならびに流域面積を算出する.その値に地質や針葉樹の割合を加味して数量化 II類分析でスコアリングし,土砂流入の発生に対する各指標の寄与率を算定する.そして,その寄与率に基づき鉄道用地外からの土砂流入による危険度の高いエリアを抽出した.

  • 青栁 広樹, 大中 英次, 石島 修祐
    2025 年 29 巻 1 号 p. 221-224
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     自然災害の激甚化・頻発化により多くの鉄道施設が被災している.特に中小の鉄道事業者は要員不足・技術者不足が顕著であり,迅速な対応が困難である.このため,復旧に時間がかかり,地域住民の生活を支える交通インフラとしての機能が長期間滞る恐れがある.被災した鉄道施設の早期復旧には専門的知見を有する者の関与が必要である.鉄道・運輸機構は,国土交通省と連携し,2023年度に「鉄道災害調査隊(RAIL-FORCE)」を発足させ,被災鉄道施設の概況調査や復旧計画を支援している.また,災害時以外にも地域鉄道支援の一環として,鉄道事業者に対する技術的支援を行っている.

  • 北山 晴人, 佐藤 尚次
    2025 年 29 巻 1 号 p. 225-228
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     並行在来線の第三セクター鉄道では貨物列車の運行ルート担っているが,経営状態が厳しく災害対策も十分ではない.そのため大規模災害に被災した際には大きな被害を受け,加えて貨物列車運休によって日本全体に大きな影響を及ぼす可能性がある.そこで本研究では,並行在来線の第三セクター鉄道が被災した際の貨物列車運休による経済被害について,産業連関表を用い分析を行った.分析の結果,特に,北海道~首都圏を結ぶ道南いさりび鉄道・青い森鉄道・IGRいわて銀河鉄道の3路線では被害が甚大になることが示された.本研究で算出した経済被害額は,防災事業の費用便益分析に有用であるが,鉄道では防災事業の費用便益分析には研究の余地があるため,現時点では国による災害対策の優先順位付けの参考となることが期待される.

  • 大縄 登史男, 古免 久弥, 田中 学
    2025 年 29 巻 1 号 p. 229-232
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     溶接作業者の眼を保護するための遮光保護具の規格として「遮光保護具」(JIS T 8141)がある.しかし,この規格において主眼となっているのはアーク溶接であり,レール溶接工事の年間施工接手数の約4割を占めるテルミット溶接について,遮光度番号選定のための基準がJISでは示されていない.遮光度番号は1.2から16まで19段階あり,番号が大きくなるほど,透過率の低い,色の濃いフィルタとなる.本研究では,レール溶接における遮光保護具の遮光度番号の選定方法として,まず,金属の自由電子モデルから溶鋼からの放射エネルギーを計算により求めた.それと「レーザ製品の安全基準」(JIS C 6082)における角膜に対するMPE(Maximum Permissible Exposure:最大許容露光量)を比較することにより,各波⻑域において要求される透過率を求めることで,テルミット溶接時に溶接作業者が着用すべき遮光保護具の遮光度番号を決定した.

  • 青木 宣頼, 安達 季並, 道辻 洋平
    2025 年 29 巻 1 号 p. 233-239
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     高マンガン鋼は耐摩耗性に優れていることから,クロッシングに採用されている.高マンガン鋼の材料特性について主に耐摩耗性について研究されてきたが,近年マンガンクロッシングにも転がり接触疲労傷が確認されており,パーライト鋼と比較することで,摩耗や耐転がり接触疲労性を評価した.その結果,摩耗量は初期には両者に差はないが,その後は高マンガン鋼が耐摩耗性に優れている.硬さも初期は両者に差が見られないが,初期の転動により高マンガン鋼の方が加工硬化が進むことが分かった.EBSDによる測定結果では,両者とも転動によりひずみの蓄積層を形成し,その範囲から傷が確認された.以上から,マンガン鋼は初期硬さは低いが,転動による表面の加工硬化により摩耗の進行が抑えれる.一方で,転動回数が増えるごとにひずみが蓄積し,これが転動疲労傷の発生の一因と考えられる.

  • 紅露 一寛
    2025 年 29 巻 1 号 p. 240-247
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/07/22
    ジャーナル 認証あり

     井桁状まくらぎ敷設レール継目部を有するバラスト軌道を対象に,井桁状まくらぎの設計条件がレール継目部の軌道振動および道床の不可逆変形に及ぼす影響について数値解析により検討した.解析では,軌道振動と道床繰り返し変形との弱連成有限要素解析法を用い,レール継目落ちの考慮の必要性について検討した上で,井桁状まくらぎの高さおよびまくらぎ下弾性パッド(USP)の選定が軌道振動応答および道床繰り返し変形に及ぼす影響について検討した.数値実験を通して,当該問題のシミュレーションではレール継目落ちの考慮は必要であること,井桁状まくらぎ・通常まくらぎの双方で低弾性USPの使用がレール継目部の道床沈下の平準化に対して効果的であることがわかった.

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