日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
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最新号
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講座
  • 坂野 比呂志
    2025 年34 巻4 号 p. 85-88
    発行日: 2025/07/17
    公開日: 2025/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    包括的高度慢性下肢虚血(CLTI: Chronic Limb Threatening Ischemia)の治療について総合的に概説する.CLTIに対する最適な治療戦略を理解するために,以下の6つの重要な観点,①PLANコンセプト,②創傷治療,③栄養介入,④リハビリテーション,⑤薬物・補助療法,そして⑥大切断,の順に論じていく.従来,重症下肢虚血(CLI)という概念が用いられてきたが,近年では虚血のみならず組織欠損や感染といった要素も含めた“肢の運命”全体に着目するCLTIという新たな包括的概念が国際的に導入されており,治療戦略の再構築が進んでいる.CLTIの治療目標は単なる救肢ではなく,QOL(生活の質)を重視した機能的救肢にある.多職種による集学的アプローチと個別化された評価・治療戦略が求められるCLTIにおいて,最新のガイドラインや国内外のエビデンスを基にした臨床判断が重要である.

  • 森景 則保
    2025 年34 巻4 号 p. 89-95
    発行日: 2025/07/20
    公開日: 2025/07/20
    ジャーナル オープンアクセス

    JCS/JSCVS/JATS/JSVS 2020 Guideline on Diagnosis and Treatment of Aortic Aneurysm and Aortic Dissectionを中心に,2018年改定のThe Society for Vascular Surgery practice guidelines on the care of patients with an abdominal aortic aneurysmおよび2024年改定のEuropean Society for Vascular Surgery (ESVS) 2024 Clinical Practice Guidelines on the Management of Abdominal Aorto-Iliac Artery Aneurysmsのガイドラインも参考にして,腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤の診断と治療について概説する.

症例
  • 中島 貴登, 原田 剛佑, 溝口 高弘, 竹内 由利子, 末廣 晃太郎, 濱野 公一
    2025 年34 巻4 号 p. 97-101
    発行日: 2025/08/07
    公開日: 2025/08/07
    ジャーナル オープンアクセス

    今回われわれは術前にショックバイタルを呈していた破裂性腹部大動脈瘤に対してchimney EVARを施行し救命できた症例を経験したので報告する.症例は70歳,男性.突然の腹痛に対して精査が行われ,造影CT検査で破裂性腹部大動脈瘤と診断された.手術加療目的に当科へドクターヘリで救急搬送された.搬送時にはノルアドレナリン0.08 γの投与で収縮期血圧が70 mmHgとショックバイタルを呈していた.搬送前に前医のCT画像でプランニングを行い,short neckのためchimney EVARを行う方針とした.当院到着から手術室入室まで5分,手術開始まで16分,大動脈遮断バルーン挿入まで23分,ステントグラフト完成まで97分であった.術後経過は良好で術後16日目に自宅退院となった.術後6カ月経過するが,明らかなエンドリークや瘤径拡大,後腹膜血腫増大などなく経過しており,外来経過観察中である.

  • 寒川 顕冶, 藤本 鋭貴, 奥山 倫弘, 山本 修
    2025 年34 巻4 号 p. 103-106
    発行日: 2025/08/07
    公開日: 2025/08/07
    ジャーナル オープンアクセス

    鈍的外傷による腋窩・鎖骨下動脈損傷は自動車事故や高所からの転落など高エネルギー外傷後に起こることが多い.今回われわれは比較的軽度の鈍的外傷による腋窩・鎖骨下動脈損傷2例を経験した.症例1:41歳男性,自転車で転倒し右肩を打撲した.造影CTで右鎖骨下動脈閉塞と造影剤の血管外漏出,鎖骨骨折を認めた.症例2:88歳男性,自宅で飲酒後転倒し左肩を打撲した.造影CTで左腋窩動脈閉塞と上腕骨近位端骨折を認めた.外科的治療の準備も行ったうえで同側の上腕動脈からVIABAHNステントグラフト内挿術を行った.高エネルギー外傷でなくとも血管損傷を起こしうることが示唆された.血管外傷に対する緊急手術でステントグラフトは有力な選択肢である.

  • 大西 義彦, 吉田 慶之, 澁川 絢子, 笹原 聡豊, 柴田 講, 贄 正基
    2025 年34 巻4 号 p. 107-111
    発行日: 2025/08/08
    公開日: 2025/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    ステントグラフト脚閉塞は潜在性合併症の一つとされ,AFXフレキシブルリムエクステンションのmigrationによる脚閉塞に対して血管内治療が奏功した1例を経験した.症例は75歳男性,右総腸骨動脈瘤切迫破裂に対して準緊急でAFXとAFXフレキシブルリムエクステンションを用いて腹部ステントグラフト内挿術を施行した.術後1カ月で間欠跛行症状を訴え,造影CTでAFXフレキシブルリムエクステンションの中枢migrationとそれによる脚閉塞と診断した.本人希望で血管内治療による追加治療を選択し,kissing balloon techniqueを用いてベアメタルステントを左脚内に留置した.良好なステントの拡張が得られ,両側脚も良好に描出され,術後1年,再発なく経過している.AFXフレキシブルリムエクステンションを使用した報告は稀であり,文献的考察を交えて報告する.

  • 北尾 真友子, 髙木 寿人
    2025 年34 巻4 号 p. 113-119
    発行日: 2025/08/08
    公開日: 2025/08/08
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    症例は76歳,女性.2週間前に右耳前部の鈍痛があり,触れると米粒大の腫瘤に気が付いた.その後徐々に増大してきた.右耳前部に15×15 mmの拍動性腫瘤を認め,発赤,熱感,自発痛,圧痛はなかった.超音波検査で腫瘤内および腫瘤の流入・流出血管に血流を,造影CT検査で右耳介前部の浅側頭動脈に9 mm大の動脈瘤を認めた.CTやMRA検査で大動脈・脳・腸骨・内臓動脈に動脈瘤はなかった.浅側頭動脈瘤と診断し,局所麻酔下に切除した.病理組織検査では内膜肥厚と中膜囊胞壊死(cystic medial necrosis; CMN)を認めたが,炎症所見はなく3層構造は保たれていて,真性瘤と診断した.本邦報告に自験例を加えた28例の集計では,3例(10.7%)でCMNあるいはCMN類似所見がみられた.腹部大動脈瘤3例,脳動脈瘤3例,脾・腎・外頸動脈瘤各1例の計9例(32.1%)で,浅側頭動脈以外の動脈瘤を合併していた.

  • 東原 千耶子, 児玉 裕司, 倉岡 正嗣, 三井 法真, 卜部 洋司
    2025 年34 巻4 号 p. 121-125
    発行日: 2025/08/15
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は54歳女性.右下腿後面の腫脹などのため前医を受診した.巨大卵巣癌による下大静脈の外的圧迫と易血栓性が原因と考えられる静脈血栓塞栓症を認め,一時留置型下大静脈フィルターが留置された.抗凝固療法として2日間ヘパリンの持続点滴を行い,DOAC内服に置き換えられた.その後卵巣癌の加療目的に当院へ転院した.転院後に撮影したCTで,下大静脈フィルター並びに両側下腿まで血栓が充満していたためDOACを中止し,ヘパリンの持続点滴を開始した.予定のように卵巣癌手術を行い,術後血栓溶解目的でt-PA, ワーファリンを追加したが血栓の状態に改善はなかった.牽引による下大静脈フィルター抜去が試みられたが困難であり,開腹下下大静脈フィルター摘出,下大静脈結紮術を施行した.下大静脈フィルターの留置中には,適切な抗凝固療法を行う必要があり,抜去困難となった際には,外科的摘出・下大静脈結紮術が有用であると考えられた.

  • 横山 俊貴, 斎藤 聰, 坪根 咲里依, 小林 俊郎, 郷良 秀典
    2025 年34 巻4 号 p. 127-131
    発行日: 2025/08/15
    公開日: 2025/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は83歳男性.右大腿部の拍動性腫瘤を指摘され近医より紹介となった.CTで両側大腿深動脈瘤を認め,右大腿深動脈瘤は最大径82 mm, 左大腿深動脈瘤は最大径51 mmと巨大であった.破裂のリスクが高いと考え早急に手術の方針とした.しかし,手術待機期間中に右大腿深動脈瘤が破裂したため緊急でVIABAHNステントグラフトを留置し術後経過は良好であった.さらに左大腿深動脈瘤に対しても待機的にVIABAHNステントグラフトを留置し,合併症なく両側の瘤の縮小が得られた.大腿深動脈瘤は稀な疾患であるが,破裂例の報告もあり早期手術が望ましい.治療方針としては瘤切除および人工血管置換術が基本となるが血管内治療例も報告されている.右大腿深動脈瘤が巨大で破裂例であり,左大腿深動脈瘤も高齢で認知症が高度であるため,低侵襲の血管内治療を選択し良好な結果を得た.

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