強酸下である胃内においてHelicobacter pylori(H. pylori)以外の多数の常在細菌や口腔内細菌(以後非H. pylori)が棲みつき,胃内常在細菌叢を形成している.著者らの検討において183例の胃液培養では,65.7%で非H. pylori培養陽性であり,約7割がPPI内服症例であった.Streptococcus-α-hemolyticが51例と最多であった.非H. pylori培養結果と関連する胃炎の京都分類所見としては,単変量解析では培養陽性と関連するのは萎縮性胃炎,腸上皮化生,粘膜腫脹,白濁粘液,過形成性ポリープ,敷石状粘膜に有意な関連を認め,培養陰性はRegular arrangement of collecting venules(RACs),ヘマチンに有意な関連を認めた.多変量解析ではヘマチンのみ有意な関連を認めた.内視鏡検査にて,非H. pyloriによる胃内細菌叢の変化を観察することの重要性がある.
【背景・目的】閉塞性大腸癌に対するbridge to surgery(BTS)としてのステント治療は高齢者で増加しているが,その治療成績の報告は少ない.今回,高齢者におけるBTS目的の大腸ステントの有用性と安全性について検討した.
【方法】BTS目的に施行した大腸ステント85例を75歳以上の高齢者群38例と75歳未満の非高齢者群47例の2群に分け,治療成績について解析した.
【結果】大腸ステント留置成功率は高齢者群97.4%,非高齢者群97.9%,閉塞解除成功率は高齢者群100%,非高齢者群97.9%であり,穿孔や再閉塞などの偶発症は認めなかった.ステント前CROSSは高齢者群1.8±1.7,非高齢者群1.5±1.7,ステント後CROSSは,高齢者群3.9±0.3,非高齢者群3.8±0.7であり,両群ともステント留置により速やかに閉塞症状が改善した.予後推定栄養指数は高齢者群,非高齢者群ともにステント時と外科手術時で同様であった.
【結論】高齢者に対するBTS目的の大腸ステントは安全に施行可能であり,緊急手術を回避し外科手術までの栄養状態維持に貢献すると考えられた.
81歳男性.胃穹窿部の60mm大の粘膜下腫瘍に対して,22GのFranssen needleを用いてEUS-FNAを施行したところ,初回穿刺終了後に穿刺部から湧出性出血をきたした.そこで,APCによる止血術を施行した.EUS-FNA時の腫瘍内出血を確認するため施行した止血直後のCTで,胃壁内気腫と門脈ガス血症を認めた.腫瘍内のガス像はみられなかった.したがって,門脈ガス血症発症の要因として,腫瘍により圧排された胃粘膜から粘膜下層の血管,あるいはEUS-FNAによる腫瘍表層の血管破綻部からアルゴンガスが流入したためと考えられた.APC止血に伴う門脈ガス血症の報告はなく,極めてまれと考えられるため,文献的考察を加えて報告する.
症例は72歳の男性.単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(monomorphic epitheliotoropic intestinal T-cell lymphoma:MEITL)の化学療法中に慢性下痢を発症し,精査目的で当科紹介となる.上部・下部内視鏡検査では診断できず,小腸ダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:小腸DBE)の初回病理評価でも診断はできなかった.最終的には経過中の病理所見を比較評価することでMEITLの再発の診断に至った.診断に難渋した点と,極めて予後不良な疾患の長期生存例である点,再発形態を内視鏡的に評価できた貴重な症例と考え,報告する.
78歳男性.数カ月前から自覚していた粘血下痢便が,右中葉肺腺癌に対するペムブロリズマブの2回目投与後から悪化した.CSでは全大腸に発赤浮腫状粘膜を認め,生検にてアポトーシス像を確認したことから,免疫関連腸炎の診断でプレドニゾロンの治療を開始した.しかし症状の改善がみられなかったため,再度の内視鏡検査を行い,全大腸の炎症の悪化と直腸に多発潰瘍を認めた.病理組織学的所見ではアポトーシス像は消失しており,経過からペンブロリズマブ投与前に潰瘍性大腸炎を発症していた可能性が考えられ,ベドリズマブを投与し速やかな改善が得られた.炎症性腸疾患を疑う症状がある場合は,免疫チェックポイント阻害薬を開始前にCSを検討することが重要である.
47歳男性.膵頭部膵石を伴う慢性膵炎と診断され,2021年から前医にて経過観察されていた.2022年8月の造影CTで膵石増大に加えて膵頭部に仮性囊胞が出現した.2022年12月に腹痛と発熱を認め,仮性囊胞および閉塞性黄疸の診断に至り,加療目的に当院へ転院となった.造影CTで主膵管内膵石を伴った膵管の高度狭窄とそれによる仮性囊胞および閉塞性黄疸と診断した.内視鏡的膵管ドレナージ術を試みたが,膵管狭窄が強く既存のデバイスで狭窄を突破できなかった.しかし,新型ドリルダイレータを使用することで,比較的容易に狭窄突破と拡張が可能であった.慢性膵炎による膵管高度狭窄に対して新型ドリルダイレータが有効であった1例を報告する.
小腸出血診療においてカプセル内視鏡は重要であり,小腸内視鏡診療ガイドラインの診断アルゴリズムでも中心的役割として記載されている.しかし従来のカプセル内視鏡にはその特性上見逃しが多い部位が存在することや,電波干渉の懸念によりペースメーカーや植込み型除細動器を使用している患者には使用できないこと,導入に対するコストの懸念などのいくつかの解決すべき問題が残されていた.一方で2011年に4基のカメラにより360°パノラマ撮影が可能なカプセル内視鏡が報告されており,2021年より長瀬産業からCapsoCam PlusⓇとして発売され本邦でも使用が可能になった.特徴として側視型カメラによる見落としの軽減や,カプセル本体にデータが保存されることにより電波干渉がないこと,導入コストが医療機器としては安いことなどが挙げられ従来の懸念点を解消しえるデバイスである.しかしその運用としてカプセル本体の回収が必ず必要であることなど,導入にあたり知っておくべき知識や運用の要点,小腸出血での使い所があり本稿で解説する.
【目的】大腸神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)の発生率は大腸がん検診プログラムの実施や大腸内視鏡検査件数の増加に伴って増加している.近年,大腸NETの治療は,根治手術から内視鏡切除へと移行している.本研究は,大腸NETに対する内視鏡的切除法別の短期成績を評価することを目的とした.
【方法】大腸NET STUDYに登録された患者のうち,初回治療として内視鏡治療を受けた患者を対象とした.一括切除率,R0(断端陰性一括切除)切除率など短期成績を治療法別に解析した.
【結果】患者472例477病変が内視鏡治療を受け,このうち418例421病変が解析対象となった.患者の年齢中央値は55歳,性別は男性が56.9%であった.部位は下部直腸(Rb)が88.6%と最も多く,10mm未満の病変が87%を占めていた.治療法はESMR-L(endoscopic submucosal resection with a ligation device)が56.6%と最も多く,次いでESDが31.4%,EMR-C(endoscopic mucosal resection using a cap-fitted endoscope)が8.5%であった.10mm未満のR0切除率はESMR-L,ESD,EMR-Cでそれぞれ95.5%,94.8%,94.3%であった.偶発症は16例(3.8%)で発生し,全例保存的治療が可能であった.不完全切除は23例(5.5%)あったが臨床病理学的リスク因子は示されなかった.
【結論】ESMR-L,ESD,EMR-Cは,10mm未満の大腸NETに対する治療法として同等の有効性と安全性を示した(UMIN000025215).
【背景】超音波内視鏡下エタノール注入療法(endoscopic ultrasonography-guided ethanol injection:EUS-EI)は,膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine neoplasms:PNENs)の治療戦略の一つとして近年実施されているが,外科的治療の代替としての役割は明らかにされていない.本研究では,前向き多施設共同研究を通じて,小型PNENの治療におけるEUS-EIの有効性と安全性について評価した.
【方法】病理学的に確認されたグレード1,直径≤15mmの腫瘍を有する患者を組み入れた.主要評価項目は有効性と安全性の評価であり,具体的には治療後1カ月および6カ月でのCTを用いた完全焼灼,治療後1カ月以内の有害事象,治療後1カ月での重篤な膵液瘻,および治療後6カ月での糖尿病の新規発症または悪化について評価した.EUS-EIの主要複合評価項目は,外科的治療に基づく過去の研究の結果と比較した.
【結果】PNEN患者25例(腫瘍径中央値10.1mm)をEUS-EIにて治療した.主要複合評価項目は,患者の76.0%(25例中19例)で達成され(95%CI 54.9%-90.6%),これは外科的治療の47.8%よりも有意に優れていた(P=0.008).有効性に関して,患者の88.0%(25例中22例)が1カ月および6カ月時点で完全焼灼を達成した(95%CI 68.8%-97.5%).安全性に関して,患者の96.0%(25例中24例)において,1カ月以内に膵液瘻を含む重篤な有害事象を認めなかった(95%CI 79.7%-99.9%).また,患者の84.0%(25例中21例)において6カ月時点で糖尿病の新規発症または悪化を認めなかった(95%CI 63.9%-95.5%).
【結論】EUS-EIは安全であり,小型のPNENsに対する有望な治療選択肢になり得ることが示唆された.