高齢者の消化器疾患,特に,逆流性食道炎と大腸癌について内視鏡検査成績を踏まえ検討した. 逆流性食道炎は日本人の高齢者人口の増加と食生活の変化並びに内視鏡検査法の進歩により逆流性食道炎の患者は増加し,5年間で3.1%から8.1%に増加している.逆流性食道炎の自覚症状は胸やけを認めることが多く,高齢者では喘息や慢性咳嗽などの非典型的症状を伴う傾向があり,内視鏡所見ではロサンゼルス分類のgrade C,Dが加齢と共に増加する傾向にある.また,Gastroesophageal flap valve (GEFV)の程度は高齢者ではgradeの高い3,4が多く,食道裂孔ヘルニアの頻度と一致した.逆流性食道炎の治療は年々PPI製剤による治療例の増加を認め,PPIが初期治療の段階から処方されるようになっている. 一方,大腸癌は食生活の欧米化に伴い増加の傾向を認め,大腸癌罹患率が増加している.5年間の大腸癌比率は,非高齢者3.9%に対し,高齢者7.3%であった.大腸癌の発症部位は高齢者では右側結腸が増加する傾向にあり,来院時の主訴は非高齢者・高齢者ともに無症状者が84%を占め,高齢者では下血,便通異常,腹痛などの有症状者が55%を超え,イレウス症状を認める割合が増加している.早期大腸癌の治療はポリペクトミーやEMRが積極的に行われ,進行大腸癌では手術が可能であれば積極的に切除術を行うべきであり老化の進行には個人差が大きく,「暦年齢」と「生物学的年齢」との隔差が存在することを常に念頭において,高齢者消化器疾患の特徴を理解して,日常診療に反映していくことが重要である.
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