本研究は,サイコパシー特性と自伝的記憶の想起特性との関連を検討することを目的とした。大学生172名を対象に,質問紙調査を行った。記憶特性質問紙を用いて,感情的にポジティブ,ネガティブ,中性な自伝的記憶の想起特性の評定を求めた。同時に,日本語版一次性・二次性サイコパシー尺度を用いて,感情・対人関係面の特徴を表す一次性サイコパシー(PP)と,行動面の特徴を表す二次性サイコパシー(SP)の評定を求めた。その結果,PP特性が高いと,時間情報や知覚的感覚を鮮明に想起するというような,ポジティブな自伝的記憶の想起に及ぼすポジティブ感情の影響が弱かった。また,SP特性が高いと,出来事を何度も想起し,意味を見いだす傾向が低かった。さらに,PPとSPのいずれにおいても,サイコパシー特性が高いと,出来事の明確性が低かった。これらの知見から,サイコパシー特性が自伝的記憶に影響を及ぼすことが示唆される。
矯正施設において,更生に向けての動機づけを高めることは受刑者の処遇に重要な役割を果たす。また,動機づけを的確に把握することは,適切な処遇を実施したり,処遇効果を検証したりするのに有効である。本研究は,少年刑務所に収容されている男子受刑者を対象とし,変化の段階モデルを基にした更生への動機づけ尺度を作成し,内的一貫性及び妥当性を検討した。因子分析の結果からは,変化の段階モデルが部分的に受刑者に適応可能であることが示された。作成した尺度を基に,受刑者の更生への動機づけとそれに応じた処遇という観点から考察した。
一般住宅対象の侵入盗(空き巣・忍込み・居空き)に関する13の犯行特徴を基に,カテゴリカル主成分分析を実施した結果,“窃盗過程における悪質性”と“窃盗目的の指向性”といった犯行特性が抽出され,居空き,空き巣,忍込みの順で悪質性や窃盗犯の年齢が高く,最終学歴が低かった。一方,居空きと忍込みに比べて,空き巣の目的指向性が高かった。移行性については,空き巣と忍込みで同一種別の一貫性が高く,居空きで空き巣への移行割合が高かった。
女子大生の防犯意識は,性に関する危険な出来事の被害体験によってどのような影響を受けるのかについて,楽観主義バイアスの視点から明らかにすることを目的とした。性に関する危険な出来事の被害は,変質者に出会うということに限定した。楽観主義バイアスは,被害にあう確率を他者と比較するという楽観主義バイアス(頻度)と,被害にあった場合の結果の重大性を他者と比較するという楽観主義バイアス(程度)の2つを設定した。そしてそれぞれの楽観主義バイアスを直接法および間接法によって測定した。中部地方の女子大学生329人に対し,平成21年1月に調査を行った。その結果,被害体験がある場合には楽観主義バイアス(頻度)が低くなるが,防犯意識の形成にまでは至らないことが示された。また防犯意識を従属変数にし,被害体験と楽観主義バイアス(程度)を独立変数にした分析では,直接法では被害の有無にかかわらず,楽観主義バイアス(程度)が高いと防犯意識が低いことが示された。同様の分析において間接法では交互作用が認められ,特に被害体験がある場合には,楽観主義バイアス(程度)が高いと防犯意識が低いことが示された。