本研究の目的は,対教師暴力から立ち直った中学生の体験を分析することによって,対教師暴力からの立ち直りプロセスモデルを構築することである。そのために本研究では,対教師暴力を起こした後に立ち直った9名の中学生のインタビュー・データを,質的研究の1つの手法であるM-GTAを用いて分析した。そして,その分析結果から,次のようなプロセスモデルが構築された。暴力を起こした後,暴力を振るった生徒たちは逮捕された経験を通して,自分が間違っていたことに気がつき,自分のしたことを後悔する。そして,立ち直ろうと努力するが,学習面でうまくいかずに挫折する。しかし,彼らはそれを家庭裁判所調査官の援助を受けることによって克服する。そして,このような支えられる体験を通じて,彼らの他者に対する認識はポジティブに変化し,また話し合って問題解決する力などの立ち直る力を獲得することで自己認識もポジティブに変化し,暴力を振るわずに生活できるようになる。そして,本研究はまた,彼らの教育,指導のためにどのようなサポートが有効であるかも明らかにした。
注意集中効果に関するほとんどの研究では,情動的刺激として,交通事故や外科手術,殺傷場面などの情動的シチュエーションを使用している。これらの状況においては,実験参加者は情動を喚起させる原因となる詳細な特徴というよりはむしろ,血に注意を向けていると考えられるかもしれない。このことから血には周囲に脅威を伝えたりあるいは助けや保護を求める役割があることから,注意をひきつけると仮説をたて検証した。実験では,16名の実験参加者に対しワイシャツについた血またはバラ(胸花)のイメージを3×3の配列で呈示した。実験参加者には,呈示された刺激画像中に異なる刺激画像が含まれるかについて判断させた。その結果,いくつものバラの中に1枚だけ呈示された血は,血の中に1枚だけ呈示されたバラと比べ,エラーが少なく,より正確に検出されることが明らかになった。この実験結果は,血が注意を引きつけやすいことを示している。
本研究は,DSH(故意に自分の健康を害する症候群)の概念を援用して,非行少年による自傷行為の意味等を解明することを目的とした。DSH行為の経験頻度を尋ねる13項目を因子分析し,不良文化因子,強迫的習癖因子,直接的自損因子及び危険事態希求因子の4因子を抽出したうえ,因子得点をクラスター分析した結果に基づいて対象者を4群に分割し,各群の因子特性,属性上の傾向等から,これらを軽度不良化群,注意獲得群,不良文化親和群及び統制不全群とした。MJPIの群別平均尺度得点を見ると,軽度不良化群と不良文化親和群はやや発散的・即行的又は防衛的な性格傾向であること,一方で注意獲得群と統制不全群は人格全体の偏りが大きく,特に神経症傾向,情緒統制の弱さ,自己顕示傾向の強さが認められた。これらを踏まえ,非行少年に特徴的な自己損傷行為は,不良文化の取り入れや,仲間への承認を求めての自己呈示,またその結果として非行性が進んでいる表れと考えられる一方,手首切傷等,狭義の自傷行為は,衝動抑制の道具的行為あるいは他者の注意・関心や愛情を獲得するための顕示的行動であることが示唆された。
本研究の目的は,地域社会の集合的有能感に焦点を当て,集合的有能感が個人の規範意識を媒介し青少年の問題行動を抑制する個人要因からの検討と,学校荒れ度を媒介する環境要因からの検討,そして,個人要因と環境要因の双方向的影響過程を検討することであった。7校の中学生1,606名を対象に,質問紙調査を行った。その結果,集合的有能感の中でも,「社会的凝集性・信頼」と「コミュニティ協力行動統制」は,規範意識を媒介し,問題行動を抑制する効果が示された。さらに,規範意識は学校荒れ度を媒介する効果も示され,規範意識の低い生徒が集まり相互作用することによって学校荒れ度が高まり,さらに問題行動が増加するという集団レベルでの二次的効果として説明できることが示唆された。今後,青少年の問題行動を抑制するために,地域社会と学校との連携をより深めていく必要性が示唆された。