水産海洋研究
Online ISSN : 2435-2888
Print ISSN : 0916-1562
89 巻, 1 号
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総説論文
  • 高橋 紀夫, 津田 裕一, 伊藤 智幸
    2025 年89 巻1 号 p. 1-16
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/06/19
    ジャーナル フリー

    2011年以降,順応的管理の概念に基づき,みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)はバリ方式と呼ばれる管理方式(MP)によってTACを算定してきた.MPとは,データ収集方法も含め,事前に定めた方式(アルゴリズム)に則り,漁業や資源調査からのデータを用いてTACを算定する漁獲制御ルールであり,管理戦略評価(MSE)というコンピュータを用いたシミュレーション実験を通して不確実性への頑健性や目標達成度を評価して開発される.2017年を最後にバリ方式に必須なデータを得るための科学航空機目視調査が停止されたため,CCSBTは2019年までに代替のデータを用いた後継MP(CTP:ケープタウン方式)を再開発した.本稿では,CTPの開発におけるオペレーティングモデルの構築とMP候補の作成,MP候補間の性能比較と最終選定などのMSEプロセスとCTPの運用状況を概説し,開発の経験から得た教訓や課題を議論した.

原著
  • 舩越 裕紀, 小林 志保, 藤原 建紀
    2025 年89 巻1 号 p. 17-27
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/06/19
    ジャーナル フリー

    閉鎖性海域である久美浜湾(京都府)において,近年,養殖二枚貝の成育不良が起きている原因を探るため,毎月の縦断鉛直観測と定点における自動鉛直観測を実施し,餌料指標となるクロロフィルの時空間分布について調査した.その結果,クロロフィルが季節を問わず層状に分布しており,その極大層の深度は季節により変化した.極大層の深度は4月に6–10 mと最も深く,11月から12月ごろに5 m以浅と最も浅かった.6月から8月にかけて,下層で貧酸素水塊が発達すると,その直上である中層にクロロフィル極大層が形成された.このとき,養殖深度にあたる上層では,栄養塩は枯渇し,クロロフィル濃度が概ね5 μg·L-1以下であった.一年を通じ,湾内のクロロフィル分布は,貧酸素水塊の季節的な動態に強く依存していた.高クロロフィル層は特定の深度帯に偏在するため,海域全体の高い基礎生産が二枚貝養殖には十分に利用されていない可能性がある.

  • 日比野 学, 進藤 蒼, 曽根 亮太, 柘植 朝太郎, 平井 玲
    2025 年89 巻1 号 p. 28-40
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/06/19
    ジャーナル フリー

    三河湾において,漁場調査と長期水質データから,アサリ資源と栄養塩類(TNとTP)とクロロフィルa(Chl-a)の濃度の関係を整理し,アサリ漁業に必要な栄養塩類とクロロフィルa濃度の水準について考察した.秋冬季の現存量の変化量と漁場の水質との相関係数は正の値となり,特に夏のChl-aとは有意な相関であった.長期水質データでは閾値(TN: 385–417 μg·L-1, TP: 40–42 μg·L-1, Chl-a: 10.7–12.2 μg·L-1,いずれも年平均値)を下回ると低いCPUA(単位漁場面積当たりアサリ漁獲量)がみられた.ロジスティック回帰分析により,資源崩壊リスクが高まる濃度はTNで364 μg·L-1,TPで39 μg·L-1, Chl-aで9.3 μg·L-1,漁業成立水準を満たす濃度はTNで457 μg·L-1,TPで54 μg·L-1, Chl-aで14.4 μg·L-1と算定された.以上の濃度は,三河湾のアサリ漁場を含む海域に適用されている環境基準II類型の基準濃度より高く,アサリ資源回復には適切な栄養塩管理が必要であると考えられた.

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