日本医療マネジメント学会雑誌
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最新号
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総説
  • システマティックレビュー
    藤田 茂, 平尾 智広, 北澤 健文, 飯田 修平, 永井 庸次, 嶋森 好子, 鮎澤 純子, 瀬戸 加奈子, 畠山 洋輔, 松本 邦愛, ...
    原稿種別: 総説
    2020 年 21 巻 2 号 p. 58-65
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     医療従事者の働き方改革は、医療従事者の健康や幸福の向上に寄与するだけでなく、医療安全に関するアウトカムの改善にも寄与すると推測される。本研究は、医師の労働量と医療安全に関するアウトカムとの関係を明らかにすることを目的とした。

     1964年1月から2018年8月までに出版された医中誌Webの文献と、2008年8月から2018年8月までに出版されたPubMedの文献を対象に、システマティックレビューを行った。

     その結果、医師の労働量に関する文献を34件得た。米国のレジデントの労働時間制限に関する内容が多く、質の高い研究デザインの研究は少なかった。医師の労働量の多さが患者の死亡率や合併症発生率に負の影響を与えるという明確なエビデンスは得られなかった。一方で、医師の労働量が多いと、特定の種類のエラーが増加する可能性が示唆された。

     医師の労働量と医療安全との関係を明らかにするには、質の高い研究デザインの研究が必要であると考えられた。

原著
  • 三尾谷 裕実, 中山 雅文, 内山 隆史
    原稿種別: 原著
    2020 年 21 巻 2 号 p. 66-69
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     急性期病院への直接受診と、かかりつけ医を経由して受診する場合での急性心筋梗塞への対応の迅速さの違いについて、DPCデータと院内患者情報を用いて比較検討を行った。2014年4月以降に入院し2019年3月までに退院した患者で、急性心筋梗塞の診断で冠動脈インターベンションを受けた403人の中で、平日の日中診察時間内に来院した187症例を対象とし、他院からの紹介の有無で2群に分け、急性期病院到着時から冠動脈の再灌流までの時間(door to balloon time:DTBT)、発症から再灌流までの時間、クレアチニンキナーゼの最大値等について比較検討を行った。かかりつけ医への受診は、DTBTを有意に短縮させた(紹介群93±51分、非紹介群128±81分:P=0.010)。急性期病院への直接受診と、かかりつけ医を経由して受診する場合では、クレアチニンキナーゼの最大値に有意差はなかったものの(紹介群1045.9IU/L、非紹介群1039.3IU/L:P=0.979)、かかりつけ医を経由して受診する場合に、発症時間から閉塞した冠動脈の再灌流までの時間が有意に長かった(紹介群519±402分、非紹介群370±337分:P=0.017)。本研究により、他院からの紹介はDTBTの短縮に寄与することが示された。しかし、再灌流時間は有意に長いという課題が明らかになり、医療機能の更なる連携推進の必要性が示唆された。

  • 高齢者を対象とする大規模DPCデータを活用した横断分析
    桵澤 邦男, 藤森 研司, 伏見 清秀
    原稿種別: 原著
    2020 年 21 巻 2 号 p. 70-78
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     高齢化が加速する日本において、国民の過半数が終末期に自宅での療養を希望する一方、在宅医療を受ける際、症状急変時すぐに入院できるか不安があることが示されている。そのため、これらの不安感を軽減させる対応が求められる。また、多くの当該患者を受け入れる病院側の視点として、経営に与える影響を考慮することもまた重要と考えられるため、当該患者の特徴に係る全体像を把握することは意義深い。そこで本研究は、高齢者を対象として在宅医療の有無の観点から入院患者の特徴と救急車搬入により入院となる割合の違いを明らかにすることを目的とした。診断群分類研究支援機構が有するDPCデータより、在宅医療の有無別に高齢入院患者の属性、入院時の状況、退院時の状況などの違いをみた。その結果、在宅医療がある症例はない症例と比較して、認知症やがんなど併存症を伴う割合や低栄養および低ADL患者である割合が高く、在院日数の長期化がみられ、介護施設へ転院となる割合が高かった。また、がんをはじめ多くの主傷病において救急車搬入により入院となる割合が高かった。本結果より、在宅医療を受けている患者に対する入院加療を多く担当する病院は、当該患者の治療に対し在院日数遷延に伴う経営への影響に留意することが必要となるため、後方連携の充実など入退院管理の最適化に努め、経営への悪影響がないよう取り組むことが重要と思われた。

  • 立花 栄三, 坂田 一美, 國本 聡, 八木 司
    原稿種別: 原著
    2020 年 21 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     近年、川口市立医療センターでは、DPC導入による在院日数の短縮や地域医療支援病院への移行等もあり、新規入院患者数確保が急務となった。そうした背景をもとに、新規入院患者の獲得を目指し、2017年6月より他院紹介を含めた救急車の応需率のアップを病院全体の取り組みとして行っている。今回、我々は “断らない救急医療” の体制構築が病院収益に寄与するか否かを検討した。本研究では、2次救急車応需率の目標値を月平均75%以上として設定し、2017年6月から2019年5月までの強化群とそれ以前の2015年6月から2017年5月までの非強化群に分け、月ごとの平均にて比較検討した。その結果、強化群において2次救急車の転院搬送を含む受入件数、応需率、病床利用率、新規入院患者数は増加し、入院収益も有意に上昇した。救急体制の強化= “断らない救急” を構築していくことは、病院全体のさらなる新規入院患者の獲得を可能にし、入院収益を増加させる可能性が示唆された。

事例報告
  • 現状と課題
    鴨志田 敏郎, 川野 裕一, 青山 芳文, 岡 裕爾
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     東日本大震災時のNutrition Support Team(以下、NST)回診で口腔ケアの不備による口腔衛生状態の悪化を痛感した。震災後はNSTに歯科医師が参加し、口腔衛生状態、口腔機能や嚥下も評価するNST回診を行っている。2012年4月の診療報酬改定で周術期口腔機能管理料が新設された。この機会に、医科歯科連携をNSTから病院全体、さらに地域へ展開することを計画した。院内では周術期の歯科診療依頼から開始し、顎骨壊死の可能性のある薬剤使用前、さらに放射線療法、化学療法施行前や施行中の患者にも拡大することで対象患者が増加した。歯科の紹介率・逆紹介率も急激に増加し、地域医療支援病院指定に貢献している。しかし、院内からの紹介は紹介率の分母として計算されるため院内紹介増加に伴い紹介率は低下することなど問題も出てきている。歯科医師会のアンケートでは、周術期口腔機能管理の逆紹介先がまだ少ない、管理料の算定方法が浸透していない、情報のやり取り不十分による情報共有不足がうかがわれる結果であった。医科歯科地域連携はまだまだ不十分であり今後の課題も見えてきている。

  • 中野 貴明
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 91-96
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     現在、医療界では勤務医の夜間勤務に伴う長時間労働が問題となっている。特に勤務医は、夜間勤務後もそのまま日中の業務を行うことも多く、集中力の低下による医療ミスの発生が懸念されている。本研究では、小児科勤務医の夜間勤務後の集中力の低下を定量的に測定し、どのような因子が集中力の低下に関連するかを検討した。手稲渓仁会病院小児科医師を被験者として、2018年12月から2019年1月の夜間勤務終了後に Psychomotor Vigilance Task(PVT)を行い、集中力を評価した。アンケートで、夜間勤務での呼び出し回数、行動内容、研修医か指導医かを確認した。別の任意のタイミングでPVTを行い、被験者ごとのコントロールとした。被験者7名の全員が、コントロールと比較して夜間勤務後にPVT値の遅れを有意に認めた。PVT値の遅れに関連する因子は、呼び出し回数、睡眠時間であった。研修医の方が指導医と比較して、有意に反応時間が遅れており、集中力の低下を認めた。本研究では、夜間勤務後の集中力の低下を、定量的に明らかにした。特に研修医は、経験が少なく診療時間の延長と、それに伴う睡眠時間の減少のため、心理的および身体的負担がかかりやすい状態にあると考えられた。夜間勤務を行う医師は、自身の健康のみならず、安全な医療を提供するために、勤務体制を整える必要がある。

  • 末永 朋子, 小犬丸 恭子, 永田 茂行, 折田 博之, 是松 聖悟, 横田 昌樹
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 97-100
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     中心静脈栄養施行時、脂肪乳剤投与がカテーテル関連血流感染のリスクとなる報告があり、その発症を恐れて脂肪乳剤の投与をためらう場合がある。そこで中心静脈栄養を実施した100例(うちカテーテル関連血流感染15例)を対象に脂肪乳剤の投与が感染の危険因子となりうるか、他の因子とともに検討した。結果、カテーテル関連血流感染は、脂肪乳剤投与例に有意に多くみられていた(感染あり群66.7%、感染なし群37.6%、p=0.036)。また、中心静脈栄養開始時の血清アルブミン値(感染あり群 中央値1.9㎎/dl、感染なし群 中央値2.5㎎/dl、p=0.001)、糖尿病の有無(感染あり群 53.3%、感染なし群 23.5%、p=0.018)にも有意差がみられた。一方、カテーテル留置箇所、内腔数、留置期間では有意差はみられなかった。

     カテーテル関連血流感染発症の要因として、脂肪乳剤投与の有無に加え、低アルブミン血症、糖尿病の有無が関与している可能性が示唆され、中心静脈栄養を必要とする前段階での栄養管理の必要性を示唆した。

  • 安間 章裕
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     薬剤耐性菌対策の一環として、大規模急性期病院では抗菌薬適正使用支援プログラム(antimicrobial stewardship program:ASP)が定着しつつあるが、地域包括ケアシステムの一翼を担う中小規模病院では人材確保等の問題があり、ASPにどのような効果があるかは不明である。93床の小規模ケアミックス病院である水海道さくら病院では2018年4月よりASPを開始したため、その効果を検証した。ASPの内容は、①指定抗菌薬の届出制、②チームによる指定抗菌薬使用患者のラウンド(週1回)とした。その結果、ASP開始前6ヶ月間と開始後15ヶ月間の月間培養検体数中央値(四分位範囲)はそれぞれ77.5件(70.3〜84.0)、127.0件(117.0〜142.0)であり、有意な増加を認めた(p<0.001)。両期間におけるメロペネムの抗菌薬使用密度中央値(四分位範囲)は、31.7(28.8〜33.7)から24.1(19.1〜30.1)へと減少の傾向を示した(p=0.173)。また、両期間のカルバペネム耐性緑膿菌分離率中央値(四分位範囲)は、培養検体数の増加に伴い0.0%(0.0〜0.0%)から3.6%(1.4〜7.0%)へ増加した(p=0.007)が、ASP開始後以降は徐々に減少した。今回の結果より、小規模病院でもASPが有効である可能性が示唆されたが、高い耐性菌分離率、一部抗菌薬の使用量増加等、課題も明らかとなり、さらなる効果の検証を要する。

  • 神田 紘介, 北原 隆志, 松本 武浩, 室 高広
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 106-109
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     長崎大学病院では、全ての入院患者に対して入院日に病棟薬剤師が面談を行い、持参薬の内容と、術前に中止することが必要な薬剤(以下、術前中止薬)の中止状況について確認するとともに、患者の全ての使用薬剤の情報を電子カルテ上で一元管理し、安全かつ効率的な運用を行っている。

     これまで、月曜日に手術する患者は金曜日に入院していたが、2017年4月より在院日数短縮のため、段階的に日曜日に入院してもらうことにした。しかし、これらの患者(以下、日曜入院月曜手術患者)は手術前に薬剤師による面談が行えないため、安全上の問題が懸念された。このため、2017年5月より薬剤師が入院前に持参薬と術前中止薬を確認する「入院前持参薬確認外来」を開始した。

     入院前持参薬確認外来によって、病棟薬剤師が不在である日曜日の入院でも医療従事者が患者の定期服用薬の内容を参照できるようになった。また、術前中止薬を服用している患者には、医師への照会後、休薬が必要な場合には患者へ休薬指導を行っており、医師が把握していない術前中止薬の確認ができ、入院前の休薬指導は手術延期や中止の回避に効果的である。今回、入院前持参薬確認外来は、日曜入院月曜手術患者のうち主治医から依頼された患者から開始したが、2018年度から入院支援加算が新設されるなど、入院前持参薬確認の重要性は認知され、実施拡大に対する要望が多いので、今後、対象患者をさらに拡大する予定である。

  • 看護管理者へのアンケート調査から
    池田 理恵, 中桐 亜紀, 松岡 真樹, 赤井 美智代, 平井 康子
    原稿種別: 事例報告
    2020 年 21 巻 2 号 p. 110-115
    発行日: 2020/09/01
    公開日: 2025/07/18
    ジャーナル フリー

     子育て・介護支援制度を使用していない看護師に対し看護管理者がどのように感じ、配慮しているかを明らかにすることを目的に、A県内の交代制勤務をしている病院の看護管理者142人を対象に郵送によるアンケート調査を実施した。調査内容は属性、ワークライフバランス(WLB)を推進している現状、子育て・介護支援制度を使用していない看護師に負担をかけていると感じている内容、それらを軽減するための対策である。岡山県看護協会倫理委員会において承認を受け実施した。

     分析は統計解析ソフトSPSSver.23を用いて記述統計を行い、さらに子育て・介護支援制度を使用していない看護師の負担と、属性との関連について一元配置分散分析で、WLBの取り組み内容との関連についてカイ二乗検定で検討した。

     116人から回答があり、回収率は82%であった。看護管理者は「夜勤回数、急な勤務変更、休日勤務、時間外勤務」について、子育て・介護支援制度を使用していない看護師の負担が大きいと感じていた。「急な勤務変更」では病床数が少ない施設で、「委員会への参加」では看護職員数が少ない施設で支援制度を使用していない看護師に負担をかけていると感じていた。

     「委員会のあり方の改革」「小中規模施設における子育て・介護支援制度を使用していない看護師の負担の軽減」「大規模な施設で働き続けられる一層のWLB推進」といった課題に取り組む必要が示唆された。

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