看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
最新号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
シンポジウム 1 麻酔分娩における医師と助産師の協働
  • 石川 紀子
    セッションID: 2025.1_S1-1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    近年、周産期医療において硬膜外麻酔を使用した分娩が増加しています(以下、麻酔分娩)。2020 年の日本産婦人科医会による調査では、麻酔分娩は分 娩取扱施設の約 26%で実施されており、我が国の全分娩の 8.6%が麻酔分娩に よるものと報告されています。2016 年の調査では、実施率 6.1%だったので、増 加の一途をたどっています。しかしながら、麻酔分娩の安全確保体制は実施施 設に任せられており、安全と快適性の確保には課題があります。

    そのような背景を受けて、2018 年に、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(The Japanese Association for Labor Analgesia:JALA)が組織されました。 目的は、「我が国における安全な無痛分娩の提供体制を構築するために必要な 施策等について継続的に検討し必要な情報を共有することを通じて、相互に協 働し連携した活動を展開できる体制を整備し、安全で妊産婦の自己決定権を尊 重した無痛分娩とその質向上を実現する」ことです。

    安全な麻酔分娩を提供するには、分娩に関わる産科医師、小児科医師(新生 児科医師)、助産師に加えて麻酔科医師とも協働してチーム形成していくことが 必要です。とは言え、医師と助産師では学問的背景や可能な治療行為も異なり ます。お互いの職能への理解不足から、分業になっていたり、情報が共有されて いなかったりしていないでしょうか。同じ目的に向かってはいても、明確に役割 分担してしまうと、結果的に産婦の安心・安全につながっていないこともあります。 むしろお互いが違うことを認識し、職能を理解する必要があります。分かり合う ためには、コミュニケーションをあきらめないことが大事です。チームで協働しな がら取り組むことが、女性とその家族にとって最良の結果を提供することにつな がります。

    本シンポジウムでは、まずoverviewとして麻酔分娩の動向を紹介し、お二人 のシンポジストにつないで、麻酔分娩の理解を深めていく構成です。周産期医療 における麻酔分娩の実際を概観し、医師と助産師の協働について考える機会に なればと思います。

  • 照井 克生
    セッションID: 2025.1_S1-2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    シンポジウム「麻酔分娩における医師と助産師の協働」において、「麻酔分娩時の薬剤管理」を医師と助産師がどのように協働したら安全かつ効果的な麻酔 分娩を産婦に提供できるかについて解説したい。

    • 対象とする麻酔分娩 薬物を用いる産痛緩和法には、硬膜外麻酔など脊髄幹麻酔を用いる方法と、

    鎮痛薬全身投与法とがある。現在主流の硬膜外麻酔分娩に用いられる麻酔薬 と麻酔法、生じうる副作用や合併症対策を解説し、鎮痛薬全身投与法の一つで あるレミフェンタニル自己管理鎮痛法(IV-PCA)の危険性に警鐘を鳴らす。

    • 硬膜外麻酔分娩での薬剤管理

    硬膜外麻酔分娩で使用される薬剤は、局所麻酔薬とフェンタニルである。局 所麻酔薬は細胞のナトリウムチャンネル遮断が主な作用であり、神経細胞の興奮 と刺激伝導を遮断する。従って、局所麻酔薬過量投与や血管内誤注入により局 所麻酔薬中毒が発生すると、耳鳴、舌のしびれ、金属味といった低い血中濃度 で見られる症状から、興奮、譫妄、呂律が回らないなどの中枢神経症状が生じる。 より高い血中濃度の場合は、痙攣、不整脈、昏睡、心停止などの中枢神経症状 が発生し、適切に治療しないと死亡に至ることもある。また、硬膜外麻酔のつも りがカテーテルくも膜下腔に迷入に気づかずに、硬膜外麻酔に必要な用量の局 所麻酔薬を一気に注入すると、麻酔効果が頚髄に及んで呼吸停止となり、延髄 に及ぶと意識消失となる。硬膜外カテーテル挿入は触覚を頼りに盲目的に行わ れるため、カテーテルの血管内迷入やくも膜下迷入を常に疑ってかかる必要があ る。誤注入しても大事に至らないための方策が少量分割注入である。産婦の側 にいる助産師が麻酔合併症の早期発見と対処法に習熟することの意義は大きい。

    硬膜外麻酔分娩では、局所麻酔薬を低濃度にして運動神経遮断を回避しつ つ、鎮痛効果を補うためにフェンタニルを添加する。フェンタニルの特徴と母児 への影響についても解説する。そして分娩進行において麻酔薬をどのように用い るか、私の経験から具体的に紹介したい。麻酔薬の注入速度や濃度を調整した り、追加したりする際には、麻酔範囲を評価して、分娩進行を把握したうえで行 う必要がある。そのため、医師と助産師の協働はとても重要である。

  • 頓所 真美
    セッションID: 2025.1_S1-3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    様々な価値観が存在するダイバーシティの社会では、出産の当事者である女性たちが様々な選択肢から自分らしい出産方法を選ぶことができる柔軟な環境を 用意し、自分で意思決定できるようにエンパワーすることが重要である。その選 択肢の一つとしての無痛分娩は我が国でも増加傾向を辿り、昨年新たに発表され た厚生労働省の医療施設調査結果では、2023 年の無痛分娩の実施率は全分娩 の13.8%であった。当施設でも、麻酔科医師が 24 時間常駐し、夜間・休日を含め 産婦のニーズに合わせて無痛分娩を提供することが可能となった 2013 年以降そ の割合は年々急速に増加している。2023 年には無痛分娩率は総経膣分娩数の86.3%と高い割合を占めており、無痛分娩へのニーズの高まりを日々感じている。

    では、出産方法の一つとして無痛分娩が選ばれる様になってきた今、助産師に は何が求められるのだろうか。無痛分娩においては、自然分娩に比べ分娩第2 期の遷延や回旋異常、器械分娩率の上昇等が明らかになっており、医療介入の 必要性が高くなるのは事実である。そのため、無痛分娩に関わる助産師には、麻 酔の基本的な知識を持つ必要性だけでなく、産科学と麻酔学の双方から分娩を 理解し、妊産婦の全身を診ることができる力に加え、医師との協働が必須になる。 当施設では、安全で快適な無痛分娩を支援するための取り組みとして、産科医 師・麻酔科医師・助産師が、それぞれの立場からディスカッションし、産婦の分 娩方針を決定・共有するためのカンファレンスの場を持っている。また、無痛分娩 中は、産婦は多くのモニターやルート類に囲まれるなど、様々な制限のある管理 的な環境下に置かれることになる。しかし、無痛分娩においても、女性に寄り添 い産む力を最大限に引き出すという助産の根幹は普遍的である。助産師は、正し い無痛分娩の知識と理解の下、ベッド上でできる姿勢の工夫やヨガ、ベッドから 離床してのエクササイズ等も取り入れ、産婦が主体的に自身の分娩に取り組める ように支援している。

    分娩に関わる助産師の最大で最終の目標は、「安全で快適な分娩とその後に 続く豊かな母子関係の構築」である。この目標の下に女性を支援するために、助 産師には何が求められ、何ができるのか、医師といかに協働していくのか。この シンポジウムでは、当施設での無痛分娩における助産ケアの実践の紹介を通して、 助産師の役割と助産ケアについて考えていきたい。

シンポジウム2 今更聞けない!まだ間に合う! AIで何ができるの?
  • 仲上 豪二朗
    セッションID: 2025.1_S2-1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    「今更聞けない!まだ間に合う! AI で何ができるの?」では、急速に進歩を遂げるA(I 人工知能)について、その基本的な仕組みや可能性を改めて整理し、 看護や医療現場における活用の重要性をわかりやすく示すことを目的としてい ます。

    これまでAI に触れる機会が限られていた方や、AI をどのように看護研究や 臨床で活かせばよいのか悩んでいる方にも、はじめの一歩として有益な情報を 提供します。

    本講演では、AIの概念や社会的な背景を概観しつつ、シンポジウム全体で 取り上げられる具体的な応用事例や倫理的視点についての導入を行います。

    AI に関する基礎知識を補うことで、後続の講演で扱う医療応用や看護実践 の事例、さらに AI 時代に求められる倫理的課題をより深く理解できるように サポートします。

    看護領域を中心に、AIの可能性を再確認し、新たな研究・実践の入り口と して活用していただくことが本講演の狙いです。

    なお、この文章は ChatGPT o1を活用して記載しました。

  • 高橋 聡明
    セッションID: 2025.1_S2-2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    A(I 人工知能)とは

    A(I Artificial Intelligence、人工知能)は、コンピュータに人間の知的活動を模 倣・拡張する能力を持たせる技術の総称です。1950 年代の「記号的 AI」から始まり、 現在の「機械学習」や「深層学習(ディープラーニング)」へと進化を遂げてきました。 機械学習では、大量のデータをもとにパターンを学習し、新たな入力に対して予測 や分類を行います。深層学習は多層のニューラルネットワークを活用することで、高 精度な画像認識や自然言語処理を実現し、医療・看護を含む多様な分野で急速 に存在感を高めています。

    EHR(電子健康記録)からのリスク推定

    看護師は日々、患者の身体状態や生活背景を観察し、転倒や褥瘡、点滴漏れな どのリスクを予測しながらケアを行っています。EHR(電子健康記録)には、バイ タルサインや検査値、投薬履歴、看護記録といった膨大なデータが蓄積されており、 AIを用いてこれらを解析することで、従来の経験や直感だけでは捉えきれないリ スク因子を抽出し、客観的な数値として提示できるようになってきています。 自動画像処理を活用した看護支援創傷ケアや超音波検査では、従来、経験や視覚による評価に依存していたため、 評価のばらつきや記録の標準化が課題とされてきました。近年の深層学習を応用 した画像解析技術は、スマートフォンやタブレット端末で撮影した創傷部位や超音 波検査の画像を自動的に解析し、大きさ・深さ・色調などを定量化できます。これ によって尿量や便性状、誤嚥性物質、血管の形状や血栓の検出が可能となりました。

    導入上の課題と今後の展望 AIの導入を検討する際、大きな課題として「看護の行為・プロセスが十分にデータ化されていない」現状が挙げられます。EHRには検査値や投薬履歴などの数値 化しやすい情報は多く含まれていますが、看護師行う判断やケアの詳細は、必ずし も構造化された形で記録されていないのが実情です。これにより、AI が分析でき るデータセットが限定され、リスク推定や創傷評価の精度向上にも限界が生じてい ます。

    今後は、看護記録をより標準化・構造化すると同時に、センサー技術を活用して、 看護師が提供するケアの過程や患者の行動データを可能な範囲で自動取得・蓄積 する仕組みづくりが求められます。これらの課題を乗り越え、看護業務の可視化・ 定量化が進めば、AI が看護師の判断をより的確にサポートし、患者中心のケアを 強化することが期待されます。

  • 横田 慎一郎
    セッションID: 2025.1_S2-3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    1. AIの活用とリスク

    医療・看護分野でのAI 活用が進む一方、生成 AI による誤情報の生成(ハルシ ネーション)や説明性の欠如が課題となる。知識・情報・提案の誤りが医療事故 に繋がらないよう、説明性が確保された AI サービスが求められるとともに、医療 従事者がAI による出力を精査して判断するとことが不可欠である。

    2. 看護分野等におけるAI 開発・臨床実装事例

    生成 AI が一般向けに登場するより前に演者らが構築してきた情報処理につい ていくつか紹介する。電子カルテデータを活用して開発した患者の転倒リスク予測 モデルを電子カルテシステム上に実装したプロジェクトでは、臨床実装に際しては 看護師長らに説明を重ね臨床現場での運用を開始した。同じく電子カルテデータ を用い、褥瘡発症の予測モデルの構築・検証も行ってきた。いずれも「なぜ」を可 視化することで説明性の担保を試み、人間が理解できるよう腐心している。

    3. 生成 AIの臨床応用

    生成 AI は急速に発展し、国内でも看護記録の要約作成や音声・画像認識を支 援するツールとして活用され始めている。例えば生成 AIを術前説明に用いる無作 為化比較試験では、患者の不安軽減に一定の有用性を示す一方、患者の受け止め 方には個人差があり、医療従事者の完全な代替ではなく補完的な役割が望ましい ともされている。

    4. 医療デジタルトランスフォーメーションと標準化の重要性 日本では国主導で、電子カルテ情報共有サービスという、標準規格であるHL7

    FHIRを用いたデータ共有に向けた検討・開発が進められている。医療情報の標 準化が重要な役割を果たすが、看護分野でも、看護情報提供書を始めとして少し ずつ標準化が進められている。標準化されたリアルワールドデータを活用した、看 護分野でのAI 開発研究が進むことも期待されるされる。

    5. 今後の課題と展望 AIの活用によって業務効率化が進む一方で、看護職が患者と向き合う時間が本当に増えるのか等、技術導入の目的を再考する必要がある。かつて電子カルテ やオーダシステムは業務負荷軽減も期待されていたものの、必ずしもその効果は十 分でなかったように見える。AI 利用による生み出される人的・時間的リソースをど のように活用するのか、どのように看護の質向上に繋げるかの戦略が求められる とともに、個々の看護職には専門性を持ってAI による出力を精査できる能力も求 められる。

  • 中澤 栄輔
    セッションID: 2025.1_S2-4
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    人工知能(AI)開発および社会実装の急速な進展により、医療・看護の稜威においてもAI 技術の活用が考えられる。AIを活用は、診療支援、患者モニタリング、介護ロボッ トの導入など、多くの可能性が広がる一方で、看護のあり方や倫理が新たな局面を迎え ていると言える。本発表では、医療倫理・看護倫理の五原則である「自律尊重」「無危 害」「善行」「正義」「誠実」の観点から、AI 時代における看護の倫理課題について 検討する。

    自律尊重原則 AI が患者の意思決定をどのように支援すべきかが問われる。AI が提供する診断やケアプランの提案は、患者の意思決定を支援すべきもので、AI が活用される医療現場 においては患者の価値観を尊重したケアを行う看護師とAI の関わり方が問われる。特 に高齢者や認知症患者など、意思決定能力が低下している場合には、AI の活用がど のように患者の尊厳を守るかが重要な課題となる。

    無危害原則 AI の活用が患者に対して予期しないリスクをもたらす可能性を慎重に評価しなければならない。たとえば、AI が誤った診断を下した場合、医療者がそれをどのように補完・ 監督するかが重要となる。また、AIによるケアの画一化が患者個々のニーズに適応でき ない場合、患者に対する潜在的な害となりうる。さらに、AIを使わないリスクも考慮に入 れなければならない。

    善行原則 AIを活用することで患者ケアの質が向上し、より良い医療が提供される可能性がある。しかし、AI の導入が医療従事者の負担を軽減する一方で、看護師が患者との関係構 築に割く時間が減少する可能性もある。AIを倫理的に適用するためには、看護師が患 者との関係を維持しながら、適切にAIを活用するバランスが求められる。

    正義原則 AI が提供する医療サービスの公平性が問われる。例えば、AIによる診療やケアの質が経済的・地域的な格差を生まないようにすることが重要である。また、AI が学習す るデータがバイアスを含む場合、不公平な診療結果をもたらす可能性がある。

    誠実の原則 看護師はAIと協働する際に、その限界や倫理的課題を正しく理解し、患者や家族に対して適切な情報を提供する責任がある。特に、AIによる意思決定の透明性を確保し、 患者や家族が納得できる形で医療を提供することが求められる。

    本発表では、これらの倫理原則をもとに、AI 時代における看護師の役割と責任につ いて考察し、AIと人間が協働する新たな看護の在り方を提案する。倫理的視点を持ち ながらAIを適切に活用することで、より良い患者ケアの実現が可能となることを示す。

看護薬理学教育セミナー1
  • 佐藤 洋美
    セッションID: 2025.1_ES1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    生体は常に恒常性を維持するために刺激に応答しますが、その応答性の感度や程度には個人差があります。薬が体内に入った時の応答性も同様で、医 療においてはその個人差に秩序立てて対策を立てることが肝要です。従って 性別・年齢・遺伝子多型・人種などの個人差要因別に薬物動態や薬力学的 応答性を整理することは、そのような個別化医療に貢献できると考えています。

    哲学者プラトンの説では、人間は元来、男女一体のアンドロギュノスという 生物であったところ、ゼウスに分断されて、半身を求めて生きていくことになっ たとのことです。両性の生物であれば性差の問題は生じなかったのかもしれま せん。しかし現代に生きる我々は、健康な生活の中でも、疾患に罹患した時で も、男女の違いを強く認識する場面があり、もし片性に偏った医療となってい るのであれば、健やかな方向へ是正する必要があります。

    本講演では、薬物に曝露された場合の身体の応答性に性差が生じる要因を、 経口薬をベースに体内からの消失の素過程に基づいて考察し、特に代謝過程 の性差を中心に概説します。また、臨床の薬物治療の性差事例や、医薬品が 承認されるまでの女性の組み入れ 状況・性の取り扱いなどを振り返り、その 程度や対処についてご紹介します。最後に、今後の性差医学の課題や展望を 整理し、共有させていただきます。

看護薬理学教育セミナー2
  • 児玉 昌美
    セッションID: 2025.1_ES2-1
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    平均寿命に性差があるように、人間の生理学的状態や疾患の進展・発症・治癒の過程のいたるところに性差がみられます。性差は、それを生み出すメカニ ズムの違いから生物学的性差(Sex)と社会的・文化的性差(Gender)の 2 つに 大別されます。生物学的性差は、さらに性染色体による性差と性ホルモンによ る性差に分類されます。とりわけ性染色体の違いがもたらす影響を理解するに は、Y 染色体の機能やX 染色体不活化の仕組みといった生物学的知識が欠 かせません。

    本発表では、疾患性差の具体例を採り上げ、それそれがどのように形成され るのかを紹介します。また、身近な生物に見られる性差を題材に、性染色体が どのように性差の形成に影響するのかについて概説します。

    近年、性差医療の重要性が認識されつつあり、男女の違いを考慮した医療ア プローチが求められています。本講演が、疾患性差に対する関心を高め、医療 現場における実践的な理解の一助となれば幸いです。

  • 清水 聡史
    セッションID: 2025.1_ES2-2
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    男性と女性の違いとして骨格・筋肉量などが分かりやすいものだが、内臓にも差は存在している。本発表では腎臓に着目するが、腎臓における性差は様々な 報告がある。例えば透析患者は 2 倍ほど男性で多いことが知られており、慢性 腎臓病が男性で急速に悪化すること理由と考えられている。

    腎臓の主要な役割は、血液中の老廃物を濾過し、尿を産生することで体液の 恒常性を維持することにある。尿の産生過程を見ていくと、まず糸球体による血 液の濾過により原尿が作られる、続けて、原尿が尿細管を通る過程で様々な分 子の分泌・再吸収が行われて、尿となり体外へ排泄されるが、それぞれの過程 で性差が知られている。糸球体では推定糸球体濾過率(eGFR)が男女で基準 が違う。尿細管での分泌・再吸収は様々な分子ごとに異なった輸送体がその任 を担っており、それらの量が異なることが一部の輸送体で見つかっている。しか しながら、すべての輸送体に調べられておらず、すべての性差が明らかになった とは言えない状態である。

    ところで、性差を作り出す要因として性ホルモンが有名であるが、それだけで は説明できないことも多い。例えば、性腺が成熟する前の子供や、閉経後の高 齢者においても性差が存在することである。そこで、近年では性染色体(XXと XY)による影響も研究の対象となっている。この性染色体の影響はY 染色体 に関わった話だけでない。女性の場合 X 染色体が 2 つあるため、片方のX 染色 体が働かない状態(不活化)となっているが、一部の遺伝子はこの不活化から 逃れ、男性に比べ、2 倍の量のタンパク質を作り出したりする。このように XXと XYの違いに加え、性ホルモンの違いが複雑に絡まって出来上がっているのが 性差である。

    そこで我々は以上のことを踏まえた上で、腎臓の性差形成メカニズムの一端 を明らかにすることを目的とし、研究を行なった。そこで得られた結果から、ど のように腎臓の性差が作られているかの一端をご紹介する。ここで明らかになっ たことは腎臓関連疾患の原因を推定し、予防など役立たせることができる。また、 腎臓は薬物の排泄にも関わるため、腎臓における副作用の解明にもつながる。

feedback
Top