看護薬理学カンファレンス
Online ISSN : 2435-8460
2022高知
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シンポジウム1
  • 渡邊 理史
    セッションID: 2022.2_S1-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    本シンポジウムは「妊産婦への薬剤投与のBasic Knowledge」との題で、まず前半に「妊娠中の薬剤投与の特徴と問題点」について解説する。そして、後半は妊娠中にもっとも使用すると思われる「子宮収縮剤」について、産科医療保障制度における脳性麻痺事故調査分析報告書を基に「子宮収縮剤」を安全に使用するために何が必要であるのか解説をする。

    前半は「妊娠中の薬剤投与の特徴と問題点」についてである。妊娠前から薬剤を使用必要な方は少なくない。妊娠中、たとえ催奇形性が問題になり得る時期であっても、医薬品を使用しなければ母体のみならず胎児に悪影響を及ぼすこともある。そのため、胎児への悪影響だけを心配して医薬品を単純に中止・減量した場合、母児を逆に危険にさらす可能性もある。しかし、妊婦に十分な説明が行われる機会が少なく、中絶を選択することも少なくない。妊婦から、胎児への影響について尋ねられた場合には、悪影響だけではなく、そうした医薬品使用の有益性・必要性についても十分に説明し理解を得る(インフォームド・コンセント)必要がある。本シンポジウムを通じ、妊娠中の薬剤投与の特徴と問題点について再認識し、患者に説明する機会を持つきっかけにしてほしいと考える。後半は「子宮収縮剤」についてである。産科医療保障制度における脳性麻痺事故調査分析報告書によると、その原因として「初期投与量・増加量・最大投与量などの用量が基準以上であった」、「子宮収縮薬使用中に分娩監視装置を連続的に装着して過強陣痛や胎児の状態を評価していなかった」、「診療録の記載が十分でなかった」、「妊産婦や家族に十分な説明を行った文書がない」ことが指摘されている。医療者自身の対応で防ぎえた事項であったと考えられる。このような背景となったのはなぜなのか。この分析を基に適切な子宮収縮剤の使用方法とは何かを聴講者と一緒に考えていきたい。

  • 池上 信夫
    セッションID: 2022.2_S1-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    日本助産師評価機構、2022 年以降対応版必修研修内容「臨床薬理(妊娠と薬)」の学習内容「2.授乳と薬剤」について概説を行う。

    2-1.産婦人科診療ガイドライン産科編 2020 について

    (CQ104-5)医薬品の授乳中使用による児への影響について尋ねられたら?

    1.例外(抗悪性腫瘍薬、治療目的の放射性物質、アミオダロン)を除き、授乳婦が 使用している医薬品が児に大きな影響を及ぼすことは少ないと説明する。(B)

    2.児への影響とともに、医薬品の有益性・必要性及び母乳栄養の有益性について も説明し、母乳保育を行うか否かの授乳婦自身の決定を尊重し支援する。(B)

    3.個々の医薬品については、国立成育研究センター「妊娠と薬情報センター」など の専門サイトや専門書を参照して、説明する。(C)

    4.慎重に検討すべき医薬品(抗てんかん薬、抗うつ薬、炭酸リチウム、抗不安薬 と鎮静薬、鎮痛薬、無機ヨウ素)を使用している授乳婦に対しては、児の飲み具合、眠り方、機嫌、体重増加などを注意するように勧める。(C)

    2-2.授乳中の薬剤投与の特徴

    • 児への影響 授乳児への薬物移行量で評価 相対的乳児薬物投与量 relative infant dos(e RID)

    RID=(母乳を介する薬の用量(mg/kg/ 日)/ 乳児の治療量(mg/kg/ 日))×100

    RID が 10%未満だと一般に安全とみなされる。

    • 母乳への影響 分泌を抑制する薬:ドパミン受容体作動薬、経口避妊薬等 分泌を抑制する薬:ドパミン受容体拮抗薬

    2-3.児への影響と有益性・必要性の検討 薬物療法と母乳育児の両立が国際的コンセンサスとなっている。 薬物療法時の母乳育児支援

    • 授乳婦の薬物療法に必要な視点

    ①乳児への影響を最小限にする

    ②できるだけ母乳育児を継続する

    • 授乳婦の薬物療法で必要な説明

    ①薬物療法の必要性

    ②薬物の有害性

    ③母乳育児のベネフィット

    ④母乳を中止した場合の不利益

シンポジウム2
  • 神原 咲子
    セッションID: 2022.2_S2-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    国際的な防災の枠組みである仙台防災枠組では、近年、災害に直面することを防ぐよりも、災害による人と財産への影響が速く増大しており、特に地方やコミュ ニティのレベルで、中期・長期的な経済・社会・健康・文化・環境への大きな影響を伴った災害損失が継続的に増加している。

    災害看護は、「災害に関する看護独自の知識や技術を体系的にかつ柔軟に用 いるとともに、他の専門分野と協力して、災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開すること」であり、人々の減災行動の自助、共 助、公助をケアすることであり、医療者と既存の医療システムの枠の外の非医療者による外部支援や地域活動などのオープンなガバナンスの中にある。これはま さに、災害時に必要なヘルスケアの共助の備え、防災活動はまさにWHO 長年提唱している"プライマリヘルスケア"とユニバーサルヘルスカバレッジの見直しであ ると捉えている。

    プライマリヘルスケアの原則は、(1)住民のニーズに基づくこと、(2)地域資源の有 効活用、(3)住民参加、(4)農業、教育、通信、建設 ・水利など多分野間の協調と統合、(5)適正技術の使用であり、現代の一つの方法としてセルフメディケーションの日常化こそ災害時の備えと捉え、どのような平時の生活習慣に定着させられるか を検討した。

    災害時のセルフメディケーション行動のために、さらに必要なデータや活用方 法を検討し、必要な情報をリストアップした。1)平時に、自分の状況に合致した適切な OTC 医薬品の備蓄に際し、有用であること 2)被災後に、軽症の健康被 害からくる自覚症状に応じて、適切に備蓄した OTC医薬品を選択し適用できる 項目を網羅することを目的とし、データベースが保有すべき項目を検討し、先行的 なデータベースを作成した。

    それ減災リテラシーとして獲得するためにオンライン講座を実施ししたところ、 特に看護職と福祉職の連携の必要性が示唆され、さらに外部支援ではなく地元住民の関与が重要であることが示唆された。

    さらに多様な配慮に対するインクルーシブな防災として聴覚障がい者、言語障 がい者所属の団体代表者、発達障がい者の家族、外国人へのヒアリングを実施したところ、災害時には、セルフメディケーションやセルフケアが可能になるには、表記についての改善点。 【コミュニケーション支援、平時のニーズの理解、平時の 生活背景の理解、避難所特有の心配事、要望への応答】が挙げられた。

  • 今井 芳枝
    セッションID: 2022.2_S2-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    東日本大震災では、日本の観測史上最大のマグニチュード 9.0 の地震が三陸沖で発生し、その後の大津波は東北から関東の太平洋沿岸地域に壊滅的な被 害を与え、3 万人近い死者・行方不明者を出した。

    「津波から救助された人の手当てや肺炎の治療、水に濡れたままでの屋外や 避難所での生活による低体温症の治療が中心で、今回の震災は津波災害が主であり、沿岸地域の多くは浸水によって被害が広範かつ面状に広がり、地域の 医療機関の損壊・機能制限を強いられた。そのため、透析患者や在宅酸素療法患者など生命維持を必要とする慢性疾患をもつ被災者に対する対応が中心で あった」という報告がある。

    実際に、私は 2011年に東日本大震災の災害派遣として、医療・保健チーム(第10 陣)の医療救護チームとして石巻市で支援活動を行った。現地に入ったその瞬 間から非現実的な風景に唖然する経験をした。また、その災害支援活動の中で出会ってきた被災者の体験を聞くことで、看護者として被災地に臨むときの姿勢 を再考する契機になった。

    シンポジウムでは、私が出会った事例をご紹介し、被災者の背景や言動から 捉えられた、対象者にケアしていく上での視点や対応や、自分が被災地に行った経験より事前に注意すべき情報の種類や事前準備についてお伝えしたい。

    最後に、被災者の語りからみえてくる被災体験を踏まえて、効果的な薬物療法 のケアについて考えたことをお伝えしながら、皆様とディスカッションできればと考えている。関心を持ち続け、災害を忘れることなく、教訓を現在に活かすため には、語り継ぐことが大切であると考えている。

  • 佐々木 康介
    セッションID: 2022.2_S2-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    皆さんは「災害関連死」という言葉をご存じでしょうか?災害が発生した際に、倒壊した建物の下敷きや火災等によって直接的な被害を受けて死亡する「直接 死」と災害による直接的な被害からは逃れたが、車中泊や避難所生活など慣れない環境に身を置くことによって生じる病気や持病の悪化等によって死亡する「関 連死」の 2 つに大別されます。

    災害関連死は『当該災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的 負担による疾病により死亡し、災害弔意金の支給等に関する法律(昭和 48 年法律第 82 号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの』とされており、 各市町村が定めた基準によって認定されます。

    例えば 2016 年 4月に発生した熊本地震では、直接死が 50人に対して、災害関 連死が 223人となっており(2022 年7月13日現在)、災害関連死が直接死を大きく 上回っています。また、そのうち70 歳以上の高齢者が 70%以上を占め、何かしら の既往症を持った住民が80%以上であったことが明らかとなっており、複数の脆 弱性を抱えた地域住民が災害による危機的状況から一時的に逃れたにも関わらず、その後の厳しい生活環境の中で死亡している現状があります。

    令和 2 年 7月豪雨が発生した際に、私は NGO の看護師として発災当日に熊本県球磨村に入り、医療支援や避難所運営支援、物資支援等を実施しました。そ の際には、高血圧や糖尿病の薬が水に流されたことによって、数日に渡り内服薬を飲むことができていない住民が多数存在し、中には体調不良を訴える住民も いたため、緊急で対応を行ったケースもありました。また、普段内服している薬がない住民が多数いる状況をJ-SPEED 等のツールを活用しながら被災状況を「見 える化」し、必要な支援に繋げる活動も実施しました。

    この時の活動から災害が起きることによって平時から利用している薬剤が使用 できなくなることは災害関連死に繋がる危険があることについて身を以って体感し、平時から備えておくことの重要性や発災直後の急性期から被災した住民の 健康管理に関わっていくことの必要性を感じました。

    今回は、災害時の支援の様子を交えながら災害急性期における薬剤管理を含 む生活支援の必要性についてお伝えできればと考えています。

教育講演
  • 東 洋一郎
    セッションID: 2022.2_EL-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/11
    会議録・要旨集 オープンアクセス

    亜鉛は体重 70kg の成人で 2g 程度しか存在しない微量な金属元素である。しかし、亜鉛は骨格筋をはじめ骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓など生体内に広く分布し ており、欠乏すると味覚障害、夜盲症、成長障害、精神障害、免疫機能の低下などの様々な症状が引き起こされる。つまり、生体内の亜鉛は微量な金属元素では あるが、我々の健康と正常な生命活動を維持するために必要な栄養素であることを意味している。

    最近、日本人の10 ~30% に亜鉛欠乏のリスクがあると報告され、特に高齢者 と乳児は亜鉛欠乏になりやすいと指摘されている。

    高齢者の長期療養や在宅医療において褥瘡の予防・治療は解決すべき課題 である。一方、亜鉛は古くから皮膚の新陳代謝に作用し、創傷の修復を促進することが知られている。実際に、亜鉛補充療法により寝たきりの在宅患者の感染を 伴った褥瘡が数カ月で瘢痕化して治癒するなどの症例が報告されている。また、最近の基礎研究により損傷部位から刺激を受けた肥満細胞からの亜鉛放出が創 傷治癒の促進に関与していることが明らかにされている。

    また、日本における1日亜鉛摂取推奨量は体重あたりに換算すると成人の約 3 倍であり、乳児期の健康な成長のためには亜鉛の摂取量に注意を払う必要がある。胎生期にける亜鉛の貯蔵は主に妊娠後期に行われる。そのため、早期産児 は亜鉛貯蔵が少ない状態で出生する。一方、分娩後数日間の初乳は血清より高濃度の亜鉛が含まれているが、数か月後には血清と同程度にまで低下する。した がって、早期産児で母乳哺育の場合、体重が急激に増加する生後 2~ 9カ月に亜鉛欠乏を起こしやすく、成長遅延や皮膚炎などの症状が現れる。最近、乳腺細 胞から乳汁中への亜鉛分泌を司る分子の変異が明らかになり、低亜鉛母乳の症例が日本でも報告されている。

    脳神経系における亜鉛の役割も多彩である。げっ歯類の研究から亜鉛欠乏が うつ病の発症と関連していることが明らかになり、うつ病患者に対して亜鉛補充することで症状が緩和することも報告されている。また、亜鉛欠乏のみならず、脳 内の局所的な亜鉛濃度の増加が脳卒中後の認知症の発症に関与していること示す知見も報告されている。

    本セッションでは、主に亜鉛欠乏によって引き起こされる臨床症状を説明しな がら、関連する最新の基礎研究の知見を分かり易く紹介することで、生体内亜鉛の多彩な役割に対する理解の一助になれば幸甚である。

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