近年,土石流による被害が多く報告されている.一方,土砂災害警戒区域は人的被害の危険性がある場所のみに指定されており,全国網羅的な被災危険性は評価されていない.本研究では,深層学習により斜面崩壊位置の推定および渓流沿いの土石流流下距離の推定手法を開発した.その結果,前者では崩壊地における地形情報を学習した階層型ニューラルネットワークモデルの構築により,F値0.7を超える精度で崩壊有無の分類が可能であった.後者では土石流痕跡と渓流沿いの地形情報を学習したLSTMモデルの構築により,渓床の状態や発生する土石流の物理状態の不確実性を含めた,渓流沿いの土石流到達確率を推定可能であった.さらに,これらの手法を併用することで,広域の複数渓流における土石流被災リスクを網羅的に評価可能であった.
流域治水では,流域全体の治水安全度が高くなるように,河川の流下能力向上のための治水対策と,流域での貯留対策を流域関係者が協働して実行することが求められている.本論文は,降雨分布を与条件とした降雨流出と河道洪水流の一体解析法を構築し,それに基づき流域内の貯留・流出量の関係を示す流域水収支分布図を作成している.具体的には,流域を分割した小流域にタンクモデルを適用した降雨流出解析と平面二次元洪水流解析を組み合わせた降雨流出・洪水流の一体解析法を構築し,これを石狩川水系豊平川へ適用することで流域水収支分布図を作成し,本解析法による流域水収支分布の有用性と流域水収支分布図の活用方法を提示している.
気候変動に伴う大雨の強大化が懸念されるなか,居住地誘導等の都市計画を通じた洪水リスク軽減の重要性が増している.先行研究では,京都盆地を対象に,居住地誘導等の検討支援を目的としたエージェント型立地選択モデルを構築した.本研究では,同モデルに対して過去の総人口変化,新駅敷設,ニュータウンの開発など,2000年~2015年にかけての人口と都市の時間的変化を境界条件として反映する手法を開発した.その結果,こうした時間的変化を考慮することで,洪水曝露世帯数の変化傾向や浸水被害額の推移をより適切に再現できることが確認された.京都盆地全体では洪水曝露世帯数の増加は限定的であったが,新駅敷設やニュータウン開発が進んだ地域では,京都盆地全体と比較して,相対的に洪水曝露世帯数の増加が大きいことが明らかとなった.
近年,物流業界において長時間労働の忌避等を背景としたトラックドライバーの不足が深刻化しており,労働環境の改善が急務となっている.その一方策として電子連結技術を活用したトラックの牽引走行の導入が期待されているが,実現に向けては,隊列形成拠点等のハード整備や走行運用方法の確立等,種々の課題が残されている.本研究では,長大な電子連結車両の安全・円滑な走行運用方法の確立に向け,特に周辺交通流における安全・円滑性に与える影響が大きいと思われる高速道路の合流部で電子連結車両が他車の合流を受ける場面に着目する.そして,既存の交通シミュレーションモデルを組み合わせて開発した分析システムにより,被合流時において電子連結車両が周辺交通流に与える影響および被合流の安全・円滑性向上方策の効果を明らかにした.
隅角部の配筋作業を簡素化する目的で,隅角部に補強ユニットを配置し主鉄筋を接続する構造を開発した.本構造を合理化するため,従来構造および補強ユニット構造の破壊機構に基づく隅角部終局耐力の算定手法を構築した.既往の実験結果と計算値を比較した結果,本手法により隅角部破壊耐力を精度よく推定することが可能であった.また,補強ユニット構造の設計フローを提案した.最終的に,設計フローに基づき実際の道路用ボックスカルバートを想定した設計検討を行い,一連の設計手順を例示した.
コンクリートに接着したFRPシートの付着試験から得られる実験的な付着応力–すべり関係を用いずに,剥離機構に基づくことでFRPシートとコンクリートの付着応力–すべり関係を導出できる付着モデルを構築した.このモデルはFRPシートの剥離性状をコンクリート表層の鋸歯状の破壊として表現したもので,力のつり合い,変形の条件,エネルギー等価,材料構成則によって導かれる.構築した付着モデルを用いて付着試験の数値解析を行った結果,シート剛性や付着長,樹脂の種類に関わらず実験結果と良く一致した.また,剥離深さが未知の既往の付着試験に適用した結果,既往の付着モデルと同程度の精度であった.さらに,提案モデルの活用例として,材料特性の影響度評価と境界条件の異なる両引き状態への適用を行い,モデルの妥当性が示された.
今まであまり進んでこなかった土木分野でのCLTの利用について,筆者らは,軟弱地盤対策としてCLTを利用することを考えた.この実現性を検討するために,実際の軟弱地盤上にCLTを水平に敷設し,その上に実大規模の盛土を施工する実証実験を実施し,沈下変形計測,大型載荷試験の実施,施工性と経済性の検討,648日(1.8年)経過後のCLTの健全性を検討した.不同沈下抑制や安定性については有効な結果を得られなく,経済性の課題も明らかになったが,CLTの利用が,力学的にマイナス要因とはならないこと,トラフィカビリティが良好で施工時間が短いこと,648日(1.8年)経過後はCLTに亀裂が発生したが,生物劣化と力学的低下は認められず,少なくても短期的にはCLTが利用可能であることを明らかにした.
本研究では,災害発生後の緊急対策時に利用される直接目視による建設機械の遠隔操作に焦点を当て,搭乗操作と遠隔操作の作業時間の違いについて実験を行った.実験では,ランダムに配置した固形対象物を油圧ショベルにより指定されたエリアから移動するタスクを設定し,オペレータによる作業時間の計測および動作映像を記録した.取得したデータの定量的な分析により,搭乗操作に比べて遠隔操作は操作時間が長くなることを確認し,その大きな要因が個々の固形対象物を移動させるタスクにおいて作業操作の前に行われる位置決め操作にあることが明らかとなった.これは,従来注目されていなかった知見であり,遠隔操作による作業効率の向上のためには,操作環境や操作インターフェース等の改善の検討において,今後,この点に着目して進める必要が示された.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら