抄録
ミエリン形成時期以前からNiA欠乏飼料で飼育したラットの脳では,ミエリンに特有な脂質である.cerebrosideの合成速度が低下するため,cerebroside含量はNiA添加飼料で飼育したラットに比べて低下したが,ミエリン形成がほぼ完了する8週以後まで,NiA欠乏飼料で飼育したラットにNiAを投与すると,cerebrosideの合成が増加するかどうかを調べた. 1)生後12日目に離乳したラットを62日目まで50日間NiA欠乏飼料で飼育したラットではNiA添加飼料で飼育したラットに比べて,脳のNiA含量及びcerebrosideの含量は低下していたが,NiA添加飼料を与えるとNiA含量は増加したが,cerebroside含量の増加は見られなかった. 2)NiA欠乏飼料で26日令又は62日令まで飼育したラットをそれぞれ2群に分け,1群にはNiAを1mg,他群には生理食塩水を腹腔内注射したのち,脳室内に(U-^<14>C)-L-serineを投与して48時間後に断頭し,cerebroside画分に取り込まれた放射活性を測定した.26日令のラットではNiAの投与によりcerebroside画分への放射活性の取込みは増加したが,62日令のラットではNiA欠乏群とNiA投与群でcerebrosideに取り込まれた放射活性に差は見られなかった. 以上の結果から,ミエリン形成が完了するまでNiA欠乏飼料で飼育Lたラットでは,NiAを操与してもcerebrosideの合成は増加せず,NiAはミエリン形成期に正常た脳発達のために特に必要な栄養素の一つであると考えられた.