日本血管外科学会雑誌
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症例
腹部大動脈瘤の経過観察中に生じた急性大動脈解離の1例
三岡 博海野 直樹石丸 啓犬塚 和徳
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2006 年 15 巻 1 号 p. 43-46

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抄録
真性腹部大動脈瘤 (abdominal aortic aneurysm; AAA) の経過観察中に, 下肢虚血で発症した急性動脈解離を合併したきわめて稀な症例を経験した. 症例は急激な腰痛と下肢痛のため救急車で搬送された66歳の男性で, 45mmのAAAで経過観察中であった. 造影CTでDeBakey IIIb型の急性大動脈解離を認め, 解離の末梢は右総腸骨動脈 (right common iliac artery; RCIA) にまで及び, 解離腔発生により腹部大動脈径は55mmに達していた. 上腸間膜動脈 (superior mesenteric artery; SMA) は起始部の約3cmが解離しており, その左側腔, 腹腔動脈および左腎動脈は偽腔還流となっていた. 真腔より還流されるRCIAは偽腔により圧排・閉塞され, re-entryを生じていなかった. 偽腔の開窓術を含めたY字型人工血管置換術を行ったが, 術後にSMAの解離が末梢に進行し, 壊死腸管を切除せざるをえなかった. 術後2カ月で退院可能となったが, 短腸症候群のため, 在宅高カロリー輸液を余儀なくさせられている. きわめて稀な転帰をとった症例ではあるが, この経験は, AAAの患者に発症した急激な腰痛の際には, 急性大動脈解離も鑑別疾患としてあげるべきであることや, その際に発生しうる臓器虚血の対応についても十分に留意するべきであることを示唆するものと考えられた.
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