抄録
国内のHIV感染者とAIDS患者は増加し続けているが、健診施設として今後増加することが予想されるHIV感染症受診者への対応を考察する。
平成17年度から平成22年度までの当センター総合健診受診者のうち、把握できたHIV感染者5例を対象とし、受診者背景、健診受診歴、異常項目の推移を検討した。また総合健診のオプション検査として行っているHIVスクリーニング検査の実施状況を検討した。
症例は全例男性(30代2例、40代3例)で、健診種別は職域健診4例、個別健診1例であった。当センターがHIV感染者であることを把握した時点の状況は、既に治療中2例、急性HIV感染症1例、未診断のAIDS発症2例であった。既に治療中の2例は、初回健診当初から自己申告があったわけではなかった。急性HIV感染症の1例とAIDS発症の2例は、上部消化管造影検査の異常もしくは胸部X線検査の異常からの精査で判明した。オプション検査としてHIVスクリーニング検査を行ったのは、全受診者の0.35%に留まっていた。またスクリーニングとして受検したHIV検査が陽性であったのは、前述の急性HIV感染症の症例1例のみで、面接担当医からの勧めで検査したものであった。
既にHIV感染症治療中の患者が総合健診を受診したとしても、健診当初からの自己申告はしづらいと思われる。また診断前のHIV感染者が自らHIV感染症を強く疑って総合健診を受診することも考えづらい。各健診施設はHIV感染者のこのような受診動向を念頭に置き、少しでもHIV感染症を疑う点があれば、受診者の立場に十分配慮した上で積極的な問診や、スクリーニング検査の勧奨を行うべきである。