Supplement of Association of Next Generation Scientists Seminar in The Japanese Pharmacologigal Society
Online ISSN : 2436-7567
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Displaying 1-5 of 5 articles from this issue
  • Suzuki Keiichiro
    Session ID: 2021.1_A-1
    Published: 2021
    Released on J-STAGE: December 22, 2021
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    突然変異が原因となり生体機能に多大な影響を及ぼすがんや遺伝病など遺伝子疾患は10,000種以上存在すると推測されているが、現状で有効な治療法は少なく、対症療法が主である。近年の生命科学技術の発展により自由に細胞を加工することが可能となり、これまで成し得なかった創薬開発や根治療法の確立が期待されている。近年開発されたCRISPR-Cas9を始めとする人工DNAヌクレアーゼの登場により、ゲノムの標的遺伝子を操作する『ゲノム編集』技術が急速に進歩し、多種多様な細胞・生物種のゲノム配列を選択的に改変することが可能となった。特に我々が開発した生体内ゲノム編集技術HITI (Homology-Independent Targeted Integration) 法を用いることで、従来法では不可能であった生きたままのマウスの脳や筋肉を含む様々な組織・器官で標的配列を自由に組み込む事が可能となった事例を報告したい。当該技術を用いて、網膜色素変性症モデルラットの網膜内で、疾患の原因遺伝子変異をHITI法により直接修復を行なった結果、視覚障害の部分的な回復が見られた。最近では、全身でゲノム編集治療を行うことで、優性突然変異を有する早老症モデルマウスで見られる老化現象の緩和や、短縮した寿命を延長することに成功した。このように新規ゲノム編集技術を生体に応用することで、病因遺伝子変異を根本から修復することが可能となった。本講演では、ゲノム編集技術を用いた培養細胞での疾患モデリング及び創薬開発応用からゲノム編集治療法の臨床応用への可能性について幅広く紹介する。

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  • Junki Miyamoto, Ikuo Kimura
    Session ID: 2021.1_A-2
    Published: 2021
    Released on J-STAGE: December 22, 2021
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    細胞膜上受容体 (GPCRs; G-protein coupled receptors)の発見により、食事中の脂肪酸が単なるエネルギー源としてだけでなく、シグナル分子として機能し、生体恒常性維持と密接に関与することが明らかにされ始めている。これらGPCRsの中で、GPR41やGPR43は宿主の重要なエネルギー源となる短鎖脂肪酸をリガンドとする。近年の腸内細菌研究により、生体内における短鎖脂肪酸は食物繊維などの難消化性多糖類の腸内細菌発酵によって生成されることが示されている。我々の研究成果も含め、腸内細菌による短鎖脂肪酸生成とGPR41及びGPR43を介したシグナル伝達が、肥満や糖尿病などの代謝性疾患と密接に関与することが示唆されている。本講演では、食事が栄養素・エネルギー源としてだけでなく、GPCRsを介したシグナル分子として生体恒常性維持に重要な役割を果たしていることを再認識すると共に、食―腸内環境―宿主 (GPCRs)の相互連関によるエネルギー代謝性疾患に対する予防・治療薬の開発の一助となる可能性を我々の研究成果を中心に紹介する。

    Kimura and Miyamoto et al., Science. 2020 (equally 1st author)

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  • Yoshito Zamami, Yuki Ishizawa, Keisuke Ishizawa
    Session ID: 2021.1_A-3
    Published: 2021
    Released on J-STAGE: December 22, 2021
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    がんをはじめとする多くの疾患領域において、革新的な治療薬の開発により治療成績が向上し患者の生命予後が大きく改善した一方で、世界各国における一医薬品あたりの開発費は年々増加している。この原因として、臨床試験が大規模化していることに加え、難病や希少疾患などの患者数が少ない疾患領域に対しても治療薬開発が求められていることが挙げられる。近年、臨床現場で使用されている既存承認薬の新しい薬効を発見し、その薬を別の疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニングという創薬戦略が提案されている。既存承認薬はすでに臨床試験が行われ、ヒトに対する安全性や薬物動態に関する情報が蓄積されているので、医薬品開発にかかる時間とコストを大幅に削減できることが大きなメリットとなっている。また、医療現場に身を置く我々薬剤師にとっても、既存承認薬を難治性疾患に対する治療薬として迅速に臨床応用することができる魅力的な研究手法である。

    これまで我々は、実臨床を反映した薬剤使用の臨床効果を評価するために、レセプトデータベースや副作用データベースなどの医療ビッグデータを活用した研究を展開してきた。このような医療ビッグデータを用いた研究は多様な患者層・広範囲の観察地域を網羅することが可能となる。それゆえ、新規的な薬効が予測される既存承認薬を投与された対象患者が非常に少ないドラッグリポジショニング研究の実施に適している。

    本シンポジウムでは、医療ビッグデータ解析および基礎研究を融合した手法により、様々な疾患を対象として展開しているドラッグリポジショニング研究を紹介し、今後の展望についても考察する。

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  • Jumpei Sasabe
    Session ID: 2021.1_A-4
    Published: 2021
    Released on J-STAGE: December 22, 2021
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    タンパク質構成アミノ酸20種のうち、グリシンを除く19種類のアミノ酸は光学異性体を持つ。 D-アミノ酸とL-アミノ酸は右手と左手の関係のように、構成分子は同じであるが互いを重なり合わせることはできない。このエネルギー的に等価な二つの光学異性体のうちで、生命はL-アミノ酸を中心的に利用し、タンパク合成やエネルギー代謝など多くの生命現象で光学選択的に用いてきた。一方、D-アミノ酸はタンパク合成には活用されないものの、L-アミノ酸とは異なる場面で例外的に生命現象に利用されている。生命がD-アミノ酸を利用する二つの有名な例外が知られている。一つ目は、哺乳類の大脳で内在性酵素によって合成されるD-セリンである。D-セリンは、NMDA型グルタミン酸受容体に結合し、興奮性神経伝達を調節する機能が明らかとなり、1990年代から勢力的に研究が進められてきた。二つ目の例外は、真正細菌が合成する多様なD-アミノ酸である。真正細菌は、細胞壁ペプチドグリカンの架橋剤としてD-アミノ酸を生存に不可欠な分子として利用することが1950年代頃から知られている。また、真正細菌は遊離D-アミノ酸を放出し、他の細菌に働きかけて外的環境へ順応していることが近年明らかとなり、細菌間の連絡分子としての役割が注目されている。さらに、哺乳類に共生する真正細菌はD-アミノ酸を多量に放出し、宿主-細菌相互作用において自然免疫の構築に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。

    このように、哺乳類体内では内因性に合成されるD-アミノ酸と、共生細菌や食事など外因性に摂取するD-アミノ酸が混在し、局所で異なる生理機能を有していることから、哺乳類は局所または全身性にD-アミノ酸を厳密に代謝・制御していることが想定されるものの、D-アミノ酸の吸収や輸送など体内動態は未解明の点も多い。

    本講演では、哺乳類の体内に存在する内因性・外因性D-アミノ酸それぞれに焦点をあて、哺乳類のD-アミノ酸代謝が神経・免疫機能にどのような役割を果たしているかを概説する。また、D-アミノ酸代謝異常が関連する神経疾患や免疫疾患、さらにD-アミノ酸検出の臨床的な意義について最新の知見を交えてご紹介したい。

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  • Kanazawa Takanori
    Session ID: 2021.1_A-5
    Published: 2021
    Released on J-STAGE: December 22, 2021
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    アンメットメディカルニーズの高い中枢神経系疾患に対する新薬候補モダリティは、低分子薬物に限らず、ペプチド、抗体、核酸といった中・高分子医薬にまで広がり、治療薬開発への期待が高まっている。しかしながら、全身循環血流を介した脳内への薬物移行は、血液-脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)により制限されることから、BBBを克服した脳内への薬物送達システム(Drug Delivery System; DDS)の開発が中枢疾患治療薬開発にとって重要な鍵となる。

    近年、モダリティの多様化に伴い、投与ルートも多様な進化を遂げている。その中で経鼻投与は、非侵襲性で自己投与が可能であること、初回通過効果の影響を受けないため吸収が早く、即効性が期待できるなどの利点を有すること、さらにBBBを介さない鼻から脳への直接的な薬物送達経路(Nose-to-Brain)の存在が報告されていることから、BBBの透過が期待できないモダリティの脳内への新規投与ルートとして注目されている。

    しかし、モダリティを単独で経鼻投与するだけでは、その脳内への送達効率および送達領域は不十分である場合が多い。また、経鼻投与によって様々なモダリティが脳内に送達された報告は多いものの、経鼻投与後の脳内への送達機構は未だ解明されていない。さらに、脳と同様に送達困難な中枢組織である脊髄への薬物送達システム研究についての報告は非常に少ない。そのため、脊髄を含む中枢組織への効率的なモダリティのNose-to-Brain送達を達成するには、各モダリティの鼻腔から脳・脊髄への動態の理解とそれに基づいたDDSの設計が必要となる。

    本セミナーでは、中枢神経系領域を標的とするDDS研究の現状について概説したのち、自身が進めている動態解析に基づいた薬物・核酸のNose-to-Brain DDS研究について、最新の研究成果を交え概説する。

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