日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
22 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 藤島 一郎, 重松 孝, 金沢 英哲, 西村 立, 長尾 菜緒, 大塚 純子, 中津 沙弥香, 柴田 賢哉, 若﨑 由香, 渡邊 弥生, 梶 ...
    2018 年22 巻2 号 p. 97-107
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    【目的】凍結含浸法を用いた,外観から素材を認識できる軟らかい形状保持軟化調理食品(以下,凍結含浸食)は,新しい介護用食品として商品化が進んでいる.しかし,これまでに摂食嚥下障害者を対象とした評価報告が少なく,安全性や提供する利点に関するエビデンスが不足していた.本研究では,凍結含浸食を摂食嚥下障害者に提供して,安全性評価,喫食量および栄養摂取量の調査,食事に対する印象および感想の調査を行い,嚥下移行食としての適応性を検証した.【方法】対象者は,軽症の摂食嚥下障害者 20名で, 3食を経口のみで栄養摂取可能で,軟らかい刻んだ素材にとろみのある調味液を和えた比較的水分の多い食事(以下,嚥下移行食)を提供されている入院患者から選定した.対象者には,嚥下移行食と凍結含浸食をそれぞれ 7日間ずつ昼食時に提供した.各食初日( 1日目)に嚥下内視鏡検査を実施し,さらに毎食時に,口腔内の残留,飲み込み,むせ,痰のからみを観察して安全性を評価した.喫食量および栄養摂取量は,試験前日と全試験期間の食事について,提供量から残存量を差し引いた値から算出した.食事に対する印象および感想については,試験前日と各食最終日( 7日目)に,調査票を用いて対象者への聞き取りにより調査した.【結果】安全性評価の結果,嚥下移行食と凍結含浸食との間に有意差はなかった.喫食量および栄養摂取量は,主菜および副菜のみで比較すると,凍結含浸食のほうが嚥下移行食よりも提供量が有意に多かったことから,摂取重量,エネルギー,脂質,炭水化物量が嚥下移行食に比べて有意に多かった.食事に対する印象および感想の調査では,凍結含浸食のほうが嚥下移行食に比べて「飲み込みやすい」と「食事が楽しい」の評価が有意に高かった.【結論】凍結含浸食は,従来の嚥下移行食と比べて飲み込みやすく安全な食品であり,軽症の摂食嚥下障害者に提供できると考えられた .

  • 中津 沙弥香, 若﨑 由香, 渡邊 弥生, 梶原 良, 柴田 賢哉, 藤島 一郎, 重松 孝, 金沢 英哲, 西村 立, 長尾 菜緒, 大塚 ...
    2018 年22 巻2 号 p. 108-119
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    【目的】臨床試験に用いられた凍結含浸法による形状保持軟化調理食品(以下,凍結含浸食)の力学特性を解析し,測定値から食べやすさや食感を考察した.【方法】試料には,凍結含浸食に含まれた 18種類の軟化素材(以下,軟化素材)と,比較食品として 3種類の病院の嚥下移行食および市販絹ごし豆腐を用いた.力学特性は, 2バイトテクスチャー試験と,目開き 1 mmのナイロンメッシュ上の残渣物より評価した. 2バイトテクスチャー試験では,硬さ,付着性,凝集性およびバランス度を測定した.残渣物評価では,重量測定した試料を水中で撹拌させた後,ナイロンメッシュに通し,残った残渣物を重量測定して残渣率を算出し,さらに残渣形状も観察した.【結果および考察】 2バイトテクスチャー試験の結果から,軟化素材の中では,野菜および肉団子が魚介に比べて潰しやすく,成型素材の肉団子が非成型の野菜,魚介,畜肉に比べてまとまりやすい傾向であった.付着感をみるには,付着性の値よりもバランス度の値のほうが適していた.残渣率は,軟化素材が嚥下移行食に比べて有意に値が小さかった.特に値の小さかったブロッコリー,カリフワラー,サトイモおよびジャガイモは,繊維感や残留感が少なかったと考えられた.【結論】臨床試験に用いた凍結含浸食に含まれた軟化素材の力学特性を解析した結果,凍結含浸食は,食感の多様性があり,潰しやすく,まとまりやすかったことが示唆された.

  • 矢野 実郎, 山本 五弥子, 横山 友徳, 熊倉 勇美, 花山 耕三, 椿原 彰夫
    2018 年22 巻2 号 p. 120-126
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    【目的】舌圧測定器を用いた舌圧測定と舌筋力訓練が嚥下障害者に有用であるかどうかを明らかにするために,予備実験として,健常者の舌圧変化について計測した.【対象】若年健常者 11名(男性 3名,女性 8名,平均年齢 20.6±1.2歳).【方法】 JMS舌圧測定器に接続されているバルーン状の舌圧プローブを口腔内に挿入し,プローブを被験者の舌前方部と硬口蓋の間で固定した状態で,舌筋力訓練を実施した.訓練方法は,舌前方でプローブを硬口蓋に押し付ける反復運動によって,舌筋の筋力を強化した.訓練強度は 1週目のみ最大舌圧値の 60%, 2週目以降は 80%に設定し, 1日に 30回× 3セットとした.訓練頻度は週 3回, 8週間継続とした.訓練効果を検証するために,訓練前・訓練中・訓練後の最大舌圧値を比較した.【結果および考察】 8週間訓練後の最大舌圧値( 60.7±6.7 kPa)は,訓練前の最大舌圧値( 38.5±8.4 kPa)より有意に上昇した( p< 0.01).訓練終了 1カ月後の最大舌圧値は 58.7±6.7 kPa, 2カ月後の最大舌圧値は 58.7±7.0 kPa, 3カ月後の最大舌圧値は 56.4±6.6 kPaで,いずれも訓練終了直後の最大舌圧値に比べて有意に低かった(訓練終了 1, 2カ月後: p< 0.05, 3カ月後: p< 0.01).しかし,訓練前の最大舌圧値に比べれば,訓練終了後 1~ 3カ月間の最大舌圧値のほうが有意に上昇していた( p< 0.01).今後,引き続き JMS舌圧測定器を用いた舌筋力訓練の基礎データ(若年健常者,高齢健常者など)を収集・分析し,高齢者のフレイルやサルコペニアの予防,さらに摂食嚥下障害患者の訓練に応用したい.

  • 上羽 瑠美, 黒田 明日香, 臼倉 絵美, 後藤 多嘉緒, 佐藤 拓, 横山 明子, 兼岡 麻子, 荻野 亜希子, 井口 はるひ, 二藤 隆 ...
    2018 年22 巻2 号 p. 127-135
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    嚥下造影検査(VF)の検査食として,硫酸バリウム( Ba)ゼリー(ゲル)が汎用されている. Baは肺毒性があるという報告もあり,嚥下障害で大量の誤嚥が疑われる患者には,肺毒性の少ないとされる非イオン性ヨード系造影剤(非イオン性造影剤)を使用することも考慮するとよいが,非イオン性造影剤ゲルに関して食品科学的な検証は報告されていない.本研究では,カラギーナン,ペクチン,キサンタンガム─ローカストビンガム合剤( XG-LBG)を含む 3種類の市販ゲル化剤を用いて, 4段階濃度で非イオン性造影剤と Baを添加した造影剤ゲルを作製し,ゲル化剤の種類や使用量によるテクスチャー特性を測定した.さらに,求めたテクスチャー特性より,嚥下食ピラミッドを参考値として該当する嚥下調整食コードを推定し,比較検証した. カラギーナン製剤ではゲル化剤濃度により,非イオン性造影剤でコード 0j, 1j, 3に, Baでコード 0j, 2, 3に相当するゲルとなった.ペクチン製剤ではゲル化剤濃度により,非イオン性造影剤でコード 0j, 1j, 2に, Baでは硬さの変化が少なくコード 0jまたは 1jとなった. XG-LBG製剤ではゲル化剤濃度により硬さが増加し凝集性が低下する傾向を認め,非イオン性造影剤と Baともにコード 1j, 2, 3となった. 非イオン性造影剤ゲルでも VF検査用の造影剤ゲルが作製可能であった. Baゲルの物性をペクチン製剤で調整することは難しいが,非イオン性造影剤ゲルはすべてのゲル化剤で物性調節が可能であった.嚥下調整食コードに対応する検査食の作製においては,目的に応じてゲル化剤と造影剤を選択する必要があると考えられた.

  • 坂口 紅美子, 原 修一
    2018 年22 巻2 号 p. 136-144
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者では,老嚥により誤嚥性肺炎発症のリスクが増大する.先行研究では,禁食や安静が誤嚥性肺炎の回復に悪影響であるといった報告がある.そこで,高齢な誤嚥性肺炎患者の生命予後に関連する因子を検討した.【方法】対象は, 2010年 12月から 2016年 12月に A病院で誤嚥性肺炎の治療を行った高齢者 80名(中央値: 87.0歳)とし,年齢,栄養状態(総リンパ球数,血清アルブミン値,血清総蛋白, Mini Nutrition Assessment Short Form: MNA-SF, Body Mass Index: BMI),摂食嚥下障害重症度分類(DSS)による嚥下機能, ADL状態,入院前の居所,禁食期間,安静期間,入院日数について診療情報記録より情報収集を行った.統計解析は,新高齢者分類(准高齢群,高齢群,超高齢群)において群間比較,および入院前の居所(病院,介護施設,自宅)に対し Fisherの正確確率検定を行った.超高齢群,高齢群内では,退院時転帰における生存群 /死亡群の群間比較を行った.また,従属変数を退院時生死とした多重ロジスティック回帰分析を全対象者,超高齢群,高齢群において実施した.【結果】年代別の群間比較では,超高齢群で入院日数が有意に短かった.入院前の居所については,超高齢群 /高齢群の比較において,介護施設および自宅の割合に有意差を認めた.生存群 /死亡群の比較では,生存群において,超高齢群で MNA-SFの値が有意に高く,高齢群では安静期間が有意に長かった.多重ロジスティック回帰分析においては,全対象者で MNA-SFと BMIが,高齢群で血清総蛋白と総リンパ球数が独立変数として得られた.超高齢群では,有意な独立変数は得られなかった.【結論】高齢な誤嚥性肺炎患者の生命予後には,栄養状態が最も関連していた.超高齢群では,入院日数が有意に短く,入院前の居所が関連していることが示唆された.

短報
  • 大久保 真衣, 山本 昌直, 杉山 哲也, 三浦 慶奈, 青木 菜摘, 大平 真理子, 石田 瞭
    2018 年22 巻2 号 p. 145-152
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    Down症候群者については,摂食嚥下機能の問題が多く報告されている.実際に Down症候群者の摂食嚥下機能障害(以下,摂食機能障害)の治療を行っていると,摂食機能障害のみならず,感覚反応異常を生じているであろうと思われる症例が認められる. そこで我々は,日本版感覚プロフィール短縮版を用いて感覚刺激による反応異常(以下,感覚反応異常)を評価し,摂食機能障害との関係を検討した. 対象は,大学付属の摂食嚥下リハビリテーション科を受診,もしくは都内特別支援学校にて摂食相談を受け保護者の承諾を得た 3歳から 11歳(平均年齢 7.1±2.7歳)の Down症候群者 20名とした.感覚反応異常は,各セクションの合計点とその総合点を算出した.各セクションと「総合」の年齢帯ごとの平均点から-2SD未満-1SD以上を「高い」,-2SD以上を「非常に高い」とした.また,摂食機能の評価は,嚥下機能と咀嚼機能とした. 摂食機能障害(嚥下機能および咀嚼機能)それぞれの有無と,感覚反応異常(各セクションの合計点および総合点)の「高い」および「非常に高い」の有無の組み合わせで,群分け表を作成した.摂食機能障害群(F群),感覚反応異常群(S群),摂食機能障害と感覚反応異常の両方に問題がある群(FS群),両方とも問題がない群(N群)に分類した. 嚥下機能と感覚反応異常の「非常に高い」では,「触覚過敏性」( p= 0.014)において F, S, FS, N群間に有意差が認められた.また,咀嚼機能と感覚反応異常の「高い」では,「動きへの過敏性」( p= 0.018),「聴覚フィルタリング」( p= 0.002)において, F, S, FS, N群間に有意差が認められた. 摂食嚥下リハビリテーションを希望する Down症候群者においては,摂食機能障害と感覚反応異常を有する者が多数おり,摂食嚥下リハビリテーションを行う際には感覚反応異常を考慮して行う必要があることが示唆された.

  • 伊藤 加代子, 船山 さおり, 勝良 剛詞, 金子 昇, 濃野 要, 池 真樹子, 井上 誠
    2018 年22 巻2 号 p. 153-160
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    口腔乾燥症の原因は,シェーグレン症候群(SS),ストレス,薬剤の副作用など多岐にわたるうえ,原因は 1つではない可能性がある.しかし,口腔乾燥症の診断基準は統一されておらず,医療機関あるいは歯科医師によって異なるのが現状である.また,従来のフローチャート形式の診断チャートでは,複数診断を行うことが困難である.著者らは,口腔乾燥症の診断を統一基準のもとで簡便に行うことを目的として,口腔乾燥症の診断基準を作成した.また,その診断基準をもとに, A4用紙 1枚の診断チャートを作成した.その後, 2014年 1月から 2016年 12月に当科を受診した初診患者 220名を対象として,診断チャートを用いた臨床統計を行った. 診断の結果,自律神経性口腔乾燥症(135 名, 61.4%)が最も多く,次いで薬剤性(126名, 57.3%),蒸発性(81名, 36.8%),シェーグレン症候群(35名, 15.9%),心因性(歯科心身症)(32名, 14.5%)であった.複数の歯科医師による診断の一致度は,カッパ係数が 0.99で非常に高かった(p< 0.001).診断名が 2つ以上ついている者は 74.5%であった. 今回,口腔乾燥症には,複数の要因が関連している可能性が高いことが明らかになった.今後,口腔乾燥症の診断にあたっては,複数診断が可能な口腔乾燥症診断チャートを使用することが有用であると考えられる.

症例報告
  • 佐藤 信子, 黒井 宏, 松岡 薫, 佐藤 千寿子, 土佐 香織, 丸屋 淳
    2018 年22 巻2 号 p. 161-166
    発行日: 2018/08/31
    公開日: 2019/03/14
    ジャーナル フリー

    【緒言】上咽頭癌に対する放射線治療の 14年後に,下位脳神経障害による嚥下障害をきたした症例を経験したので報告する.【症例】 38歳,男性. 21歳時に上咽頭癌に対し化学療法および放射線治療が施行された. 35歳時より嚥下困難感, 36歳時より構音障害が出現し,以後発熱を繰り返すようになった. 38歳時に誤嚥性肺炎と診断され呼吸器内科に入院した.【経過】舌右側の萎縮(右舌下神経麻痺),右咽頭の軽度感覚低下(右舌咽神経麻痺)を認めた.また,唾液腺分泌障害が認められ,齲歯および歯周病により臼歯が喪失していた.抗生剤による治療および間接嚥下訓練を開始した.嚥下造影検査では咽頭残留を認め,食物は咽頭の左側を通過していた.肺炎が軽快した時点で耳鼻咽喉科に転科した.嚥下内視鏡検査では,喉頭閉鎖不全と右喉頭麻痺(右舌咽神経麻痺・迷走神経麻痺)を認めた.直接嚥下訓練を開始し,頸部回旋嚥下といった姿勢調節を行った.また,栄養サポートチーム(NST)が介入し,咀嚼および嚥下のしやすい食物(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2013のコード 3に相当)の提供にて食事摂取が可能となった.【考察】上咽頭癌に対する放射線治療後の晩期障害である下位脳神経障害(右舌下神経,右舌咽神経,右迷走神経)が嚥下障害の主な原因であると推察した.また,唾液腺分泌障害と歯牙喪失も,嚥下障害に関与しているものと思われた.嚥下造影検査および嚥下内視鏡検査による病態の把握,姿勢調節などの嚥下訓練および NST介入が経口摂取獲得に有効であった.本症例では幸いにも経口摂取が可能となったが,一般的に放射線治療後の晩期神経障害は緩徐進行性で難治性であることが多く,今後も長期の追跡が必要である.近年,上咽頭癌の治療として化学療法と放射線療法の併用療法が積極的に行われており,予後の改善と引き換えに晩期脳神経障害を背景にした嚥下障害が今後増加する可能性があることを,われわれは銘記する必要がある.

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