日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
16 巻, 3 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 佐藤 将大, 覚嶋 慶子, 林 豊彦, 前田 義信, 渡辺 哲也, 道見 登, 谷口 裕重, 井上 誠
    2012 年16 巻3 号 p. 235-242
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】 摂食・嚥下機能が衰えた高齢者や障害者に行うリハビリテーションでの間接訓練に,メンデルゾーン手技がある.この手技は舌骨喉頭挙上の改善を目的としているが,患者への教示が難しく,動作習得に時間がかかるという欠点がある.そこで著者らは,バイオフィードバック手法を用いて効率的に喉頭挙上を目指す訓練法を考案した.本研究の目的は,喉頭運動測定器SFN/3A の開発,および本装置を用いた喉頭挙上訓練効果の検証である.

    【方法】 被験者は,健常成人男性10 名および老人保健施設に入所する高齢男性4 名とした.健常者は,バイオフィードバックを用いる群と,用いない群とに分けた.健常者(BFあり群)と高齢者群では,次の3 ステップで喉頭挙上実験を行った:1)画面を見ない,2)画面を見る,3)画面を見ない.健常者(BFなし群)は,3 ステップすべてを通して,画面を見ずに喉頭挙上した.1 回当たりの喉頭挙上時間は5 秒とした.分析から,1)喉頭挙上量 [mm],2)喉頭挙上時間 [s],3)挙上維持時間 [s] のパラメータを算出した.

    【結果】 喉頭挙上量は,健常者(BF あり群)ではステップ1~3 を通して増加傾向が確認されたが,健常者(BFなし群)では変化がなかった.喉頭挙上時間は,両群とも変化がみられなかった.挙上維持時間では,両群ともに増加傾向がみられた.高齢者では,全パラメータにおいて,ステップ1/2 間で有意な増加や増加傾向がみられた.ステップ2/3 間では,挙上維持時間のみで有意な減少が確認された.

    【考察】 健常者は,一度バイオフィードバック訓練を行うと,その後バイオフィードバックを与えなくとも,喉頭挙上ができたと考えられる.一方,高齢者は,5 分程度のバイオフィードバック訓練を行うだけでは,喉頭挙上法を完全には体得できないと考えられる.以上まとめれば,健常者と高齢者では,両者ともにバイオフィードバック効果は認められたが,高齢者では,動作習得のために繰り返しの訓練が必要になると考えられる.

  • 小山 善哉, 石飛 進吾, 久松 徳子, 松下 新子, 山口 大樹, 平田 あき子, 山見 由美子, 大井 久美子, 林 善彦
    2012 年16 巻3 号 p. 243-252
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】 高齢者や頸部可動域に制限がある患者でも安全に実施しやすく,実際の食物嚥下動作に近似した口腔期・咽頭期の嚥下リハビリテーション手技として,われわれは栄養カテーテルチューブを用いた「蕎麦啜り様訓練」を考案し,表面筋電図を用い,嚥下リハビリとしての有効性を評価した.

    【方法】健常成人16 名(20~25 歳,平均年齢22.2 歳)を被験者とし,舌骨上筋群,舌骨下筋群,胸鎖乳突筋に双極電極を貼付し,① 空嚥下,② 開閉口,③ 頸部左右回旋,④ メンデルゾーン手技,⑤ シャキア訓練,⑥ 12 フレンチ(Fr)「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑦ 12Fr チューブ一気吸い,⑧ 8Fr「蕎麦啜り様」チューブ吸い,⑨ 8Fr チューブ一気吸いの各手技を実施させ,表面筋電位変化を記録した.得られた原波形は,平滑化時定数100 ms で二乗平均平方根(RMS)に整流化し,各被験者から得られた%MVC の平均値を,各筋群について,一元配置分散分析し,有意差が認められた場合はボンフェローニの補正による多重比較を行った.

    【結果】「蕎麦啜り様」チューブ吸いは,舌骨上筋群ではシャキア訓練に匹敵する高い%MVC を示し,舌骨下筋群ではメンデルゾーン手技より有意に大きく,シャキア訓練の値の2/3 に近い高い平均%MVC を示した.一方,胸鎖乳突筋では,空嚥下やメンデルゾーン手技と有意差なく,きわめて低い%MVC を示した.

    【結論】チューブ吸い「蕎麦啜り様訓練」は,舌骨上下筋群に高い筋活動を認め,胸鎖乳突筋は低い筋活動しか認めず,頸椎症や高齢者など頸部運動に制限のある患者に対しても応用可能な,安全で簡便な口腔期および咽頭期の嚥下リハビリ手技として評価できる.

  • 深田 順子, 鎌倉 やよい, 北池 正, 石垣 和子
    2012 年16 巻3 号 p. 253-268
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】訪問看護における摂食・嚥下障害看護を推進する要因と妨げる要因を明らかにするとともに,これらへの訪問看護経験期間の影響を明らかにすることを目的とした.

    【方法】訪問看護師7 名に対して,訪問看護場面への参加観察と半構造化面接を実施した.その結果,推進する要因は25 カテゴリ,妨げる要因は37 カテゴリが抽出された.合計62 カテゴリについて,訪問看護師228 名に対して質問紙調査を実施した.

    【結果】1.質問紙調査では,訪問看護師159 名から有効回答を得た.訪問看護経験期間は平均4.2 ± 2.9 年で,5 年未満の者が67.9% であった.2.推進する要因は,〈訪問看護師に責任感がある〉〈観察・連携などから情報収集ができる〉〈機能帰結がわかる〉〈介護負担を軽減する方法を判断できる〉〈リスク回避ができる〉〈知識の獲得の機会がある〉〈療養者・介護者の意思を確認できる〉〈医師・同僚看護師と連携できる〉〈言語聴覚士・理学療法士と連携できる〉〈介護力が高い〉,の10 項目であった.3.妨げる要因は,〈摂食・嚥下障害,基礎訓練の知識不足〉〈摂食・嚥下機能を短時間で判断できない〉〈機能帰結がわからない〉〈病態に応じた援助方法を判断できない〉〈リスクが怖い〉〈療養者の先行期に問題がある〉〈時間の制約や記録システムがない〉〈介護力が低い〉,の8 項目であった.4.訪問看護経験が5 年未満の者は,5 年以上の者と比較して〈摂食・嚥下障害,基礎訓練の知識不足〉が妨げの要因であり,〈言語聴覚士・理学療法士と連携できる〉ことが,推進の要因であった.

    【考察】摂食・嚥下障害看護の質向上をはかるには,臨床判断を促進させ,多職種との連携をはかる記録のシステムや,マニュアル作成の必要性が示唆された.

  • ―表面筋電図による検討―
    乾 亮介, 森 清子, 中島 敏貴, 李 華良, 西守 隆, 田平 一行
    2012 年16 巻3 号 p. 269-275
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】 嚥下は,頸部の角度や姿勢等からの影響を受けることが指摘されているが,その影響については不明確である.咽頭の解剖学的視点での研究報告は散見されるが,筋活動については皆無である.ここでは,頸部角度変化が嚥下筋および頸部筋の筋活動に与える影響を明らかにすることを目的とした.

    【方法】 対象者は健常男性19 名(年齢32.5±6.4 歳).端座位姿勢で,頸部正中位,屈曲(20°,40°),伸展(20°,40°)の5 条件で5 cc の水を嚥下させ,嚥下時の舌骨上筋群,舌骨下筋群と胸鎖乳突筋の表面筋電図を計測し,筋活動持続時間と筋積分値を求めた.

    【結果】 舌骨上筋群,舌骨下筋群では,伸展40°が他の角度と比較して有意に持続時間は延長し,筋積分値は高値を示した.一方,胸鎖乳突筋における持続時間では,頸部角度による有意な変化は認めなかったが,筋積分値においては,正中位と比較して伸展40°で有意に高値を示した.

    【結論】 頸部伸展40°では,筋活動においても嚥下が困難であることが示唆された.一方,頸部屈曲位の有効性については,筋活動からは確認できなかった.頸部角度変化により嚥下時の筋活動は変化するため,摂食・嚥下機能障害のある患者において,頸部の屈伸可動域の評価や介入の重要性が示唆された.

短報
  • ―超音波診断装置を用いた解析―
    水野 智仁, 大窪 慎一郎, 佐藤 剛介, 松下 真一郎, 阿志賀 大和, 高橋 裕二, 山村 千絵
    2012 年16 巻3 号 p. 276-282
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,超音波診断装置(US)を用いて,頭部の姿勢変化が嚥下時の甲状軟骨運動に与える影響を調べること,および,US で描出した甲状軟骨運動が,頭部のポジショニング調整等の際に簡便で有効な評価指標となるかどうかを検討することであった.

    【対象と方法】健常成人男性9 名(25.4±5.3 歳)を被験者とした.被験者は椅子に座り,壁に背と後頭部が接するよう座位姿勢を固定した.頭部の姿勢は,頭頸部中間位(中間位)と,頭部最大伸展位(頭部伸展位)の2 種類に変化させた.US による甲状軟骨の描出は,プローブを甲状軟骨の左側方にあてることにより行った.その際,甲状軟骨の最上部を指標として,最上部が超音波モニター画面の中心となるように調整した.嚥下時の甲状軟骨運動時間を挙上時間,停滞時間,下降時間の3 つの区分に分類し,それぞれの時間を測定した後,挙上時間,停滞時間,下降時間を合わせた全運動時間を求めた.いずれの場合も,3 回の記録の平均値を測定値とした.

    【結果】US にて,甲状軟骨およびその運動をはっきりと捉えることができた.挙上時間,停滞時間の平均では,頭部姿勢の変化による有意差は認められなかった.下降時間の平均は,中間位が0.73±0.15 s,頭部伸展位では0.94±0.15 s であり,頭部伸展位で下降時間が有意に延長していた(p<0.05).全運動時間の平均は,中間位が1.51±0.11 s,頭部伸展位では1.89±0.15 s であり,頭部伸展位で全運動時間が有意に延長していた(p<0.01).

    【結論】US で描出した嚥下時の甲状軟骨運動を解析し,中間位と頭部伸展位の姿勢変化において,頭部伸展位では,甲状軟骨の下降時間と全運動時間が延長することが明らかになった.ベッドサイド等で嚥下動態の評価を簡便にかつリアルタイムに行えるUS を使用し,嚥下時の甲状軟骨運動の評価を行った結果,摂食時のポジショニング調整等の指標として利用できる可能性が示唆された.

  • 阿志賀 大和, 阿部 沙織, 原口 裕希, 須藤 崇行, 金子 雄太, 山村 千絵
    2012 年16 巻3 号 p. 283-289
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    【目的】摂食・嚥下の過程における口唇閉鎖の重要性については広く認識されているが,口唇が開放された状態で嚥下が行われる場合に,嚥下動態がどのように変化するかについては未解明な部分が多い.本研究は,口唇の開放・閉鎖の状態の違いによる嚥下動態の変化の様相を調査するための第一段階として,水を用いて至適1 回嚥下量を測定し比較することを目的とした.さらに,口唇開放時でも口唇間に物を挟むことにより,閉鎖時と同様の至適1 回嚥下量を得ることができるかどうかを調査することも,あわせて目的とした.

    【対象と方法】対象は,摂食・嚥下機能に問題のない健常成人22 名(男性12 名,女性10 名,平均年齢21.9±2.7 歳)とした.被験者の体幹姿勢は仰臥位,頭頸部姿勢は中間位とした.口唇の開閉状態は,指示閉鎖,小開放(口唇にロールワッテを横に挟み保持した状態),大開放(ロールワッテを縦に挟み保持した状態),指示開放(ロールワッテを挟まず口唇を約1 cm 開放した状態)の4 条件をランダムに設定し,各条件における水の至適1 回嚥下量を測定し比較した.測定に際し,被験者に空嚥下を行わせた後,検者がシリンジを用いて口腔底に水10 ml を注入し,被験者には1 回で楽に飲める量を飲むように指示した.至適1 回嚥下量は,嚥下後に口腔内に残留した水を紙コップに吐き出させ,その重量を電子天秤で測定し,注入した量から差し引くことにより求めた.

    【結果】至適1 回嚥下量は,指示閉鎖が9.38±1.75 ml,小開放が9.39±1.87 ml,大開放が9.28±1.73 ml,指示開放が8.59±2.13 ml であった.至適1 回嚥下量は指示開放において,指示閉鎖,小開放,大開放と比べて有意に小さかった(p<0.01).

    【結論】口唇を開放すると至適1 回嚥下量は小さくなるが,口唇開放時でも,間隙にロールワッテを挟むことで,口唇閉鎖時と同程度の嚥下量を得ることが可能であった.

症例報告
  • 中嶋 理香, 藤田 ひとみ, 朝日 利江
    2012 年16 巻3 号 p. 290-298
    発行日: 2012/12/31
    公開日: 2020/06/07
    ジャーナル フリー

    離乳からかかわったダウン症2 症例に対して,摂食機能の発達経過を粗大運動と自食の意欲の発達ともに考察した.摂食機能は,咀嚼・食べ方チェックリストと摂食嚥下機能評価で評価した.粗大運動は定頸・寝返り・座位・独歩した時期をカルテから抽出した.自食の意欲は,指導時にまったく自食しようとしない段階,自分で3 回以上持続して自食する段階,その間の段階の3 段階に分けた.

    【症例1】生後5 カ月に離乳を始め,生後10 カ月より指導を始めた女児.定頸は7 カ月.座位の安定した1 歳3 カ月から舌を左右に振りながらボーロ菓子をとかす,過剰に顎を前進させて食べる,食材の柔らかさにより丸飲みや吸い食べが出現した後,舌の左右運動・咀嚼運動は1 歳9 カ月であった.1 歳7 カ月より,手づかみ食べが可能となった.2 歳10 カ月で一人歩きした.捕食時に口唇閉鎖は可能だが,開口咀嚼・舌挺出嚥下は持続している.

    【症例2】生後6 カ月に離乳と指導を開始した女児.定頸は7 カ月であった.座位が安定する1 歳頃から食べ物を吹く,スプーンを噛む,食材の柔らかさによって丸飲みや吸い食べとなる時期を経て,1 歳6 カ月頃に舌の左右運動が出現し,同時に手づかみ食べも可能となった.一人歩きは2 歳4 カ月に可能となった.口唇閉鎖は捕食時に可能であるが,開口咀嚼・舌挺出嚥下は持続している. 2 症例に共通するのは,座位から独歩までの移行期に異常な口腔運動が出現したことと,処理時の口唇閉鎖機能を獲得できず,開口咀嚼と舌挺出嚥下を行うことである.口唇閉鎖機能は未熟でも咀嚼運動は2歳前半に出現すること,自食の意欲は1 歳6 カ月以降に出現することも共通した.独歩までは舌挺出嚥下やその他の異常な口腔運動が出現しやすく,間接訓練を積極的に導入することや,食材の種類・加工法を含めた指導を行う必要があった.

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