日本看護研究学会雑誌
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35 巻, 5 号
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  • 山根 友絵, 百瀬 由美子, 松岡 広子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_1-5_11
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本研究は,要支援認定を受けている一人暮らし男性高齢者に焦点を当て,在宅生活継続を可能にしているサポートの状況とその獲得プロセスを探索することを目的とした。要支援一人暮らし男性高齢者14名を対象に半構造的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った結果,要支援一人暮らし男性高齢者が,日常生活のなかで感じた困難な状況から,自分自身の能力をできる限り活用し,他者の援助を受けることやサービスを利用することで,現在の生活に至るプロセスが明らかにされた。高齢者は一人暮らしを継続するなかで,さまざまな不安や不確かさと欲求や展望などを感じており,それらの思いはサポート獲得プロセスと影響しあっていた。なかでも家長としての役割を果たしたいという思いは特徴的であり,一人暮らし男性高齢者にかかわる専門職は,親族・交友関係や希望の把握に努め,意向に沿った方向で援助していく必要がある。
  • 永田 明, 長谷川 雅美
    2012 年35 巻5 号 p. 5_13-5_24
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      日本の一医療機関で生体肝移植ドナーを体験した人々の『口を閉ざす行動』を背景にある文化を明らかにする。ドナー経験者10名とレシピエント3名に対して,半構成的面接で調査し,Geertzの解釈人類学をもとに分析した。「家族を助ける崇高な存在としてのドナー像の再生産」のために,〈家族の“美しい物語”のなかでドナー役割をとり続ける苦悩〉をし,〈「家族全体を救う存在としてのドナー」になる演出〉をしながら,〈「移植」と「家」で区別される秘密の開示の有無〉の選択をしていた。
      また,「移植医療で置き去りにされるドナー」として,〈当事者不在のドナーの安全神話〉〈「自発的意思」という権力装置〉〈肝臓を提供することだけを要求する医師〉,そして〈生体肝移植ドナーに対する世間の無理解〉によって口を閉ざすことを強いられていた。この研究から,医療者はドナーの体験に対して真摯に耳を傾けるケアを行う必要がある,という示唆を得た。
  • 山田 隆子, 秋元 典子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_25-5_34
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本研究は,アルコール性肝障害入院患者が断酒を決意し,断酒を継続するプロセスを明らかにし,断酒の決意と断酒の継続を可能にする看護支援について検討することである。
      入院中のアルコール性肝障害患者6名を対象とし半構造化面接を行い,M-GTAの手法で分析した結果,アルコール性肝障害入院患者が断酒を決意し断酒を継続するプロセスは,【アルコールに飲み込まれていった自分を振り返る】ことや【多量飲酒がもたらす不利益を知る】ことが強い動機づけとなって【断酒し治療を受ける決心をする】を経て断酒し,その断酒の実績から【退院後も継続的な断酒を決意する】ことで断酒継続の決意をより強めて,入院中の断酒を継続するプロセスであることが明らかになった。
      看護師は,アルコールに飲み込まれていった自分を患者自身が振り返ること,および多量飲酒がもたらす不利益を自覚できるように支援する必要があることが示唆された。
  • ─「仲間を勇気づけるレッスン」 ─
    山本 真実, 門間 晶子, 古澤 亜矢子, 大橋 幸美, 森 阿紀子, 浅野 みどり
    2012 年35 巻5 号 p. 5_35-5_43
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本報告では,自閉症スペクトラム障がいの子どもをもつ母親が,紙飛行機を飛ばし合いながら,悩みや困りごとを言語化して仲間に伝え(『辛かったエピソード』),それに対し他の母親たちが,相手に対する気持ちを言語化し(『励ましのメッセージ』),さらに記載された内容を参加者全員が共有するといった複数の母親のやりとりが,母親たちのあいだの関係性や子育てに向かう姿勢にどのように影響するのかを検討した。
      研究参加者は8名の母親であり,複数の母親のやりとりによって生じる関係性や子育てに向かう姿勢について解釈しながら質的な分析を行った。その結果,複数の母親によるやりとりは,①子育てに向かう姿勢が仲間である母親たちの言葉で表現されること,②多様な考え方が受け入れられる関係性をつくること,そして③問題と自分を切り離すことによって問題そのものの考え方が変化すること,に影響する可能性が考えられた。
  • 濱野 香苗, 堀内 啓子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_45-5_55
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      A島在住高齢者のQOLへのインフォーマルサポート等の影響要因を明らかにする目的で,平成21年12月~平成22年9月,1次調査(QOL測定),2次調査(QOL関連要因)を行った。
      1次調査は,94名,平均年齢77.2歳,QOL得点は3.29±0.54点であった。
      2次調査は,QOL高群男性5名,女性3名,平均年齢78.1歳,低群男性2名,女性7名,平均年齢77.3歳。両群の生活構造の違いは,疾患の有無,治療への経済力の影響,人間関係の良否,フォーマルサポート・インフォーマルサポートの授受であった。フォーマルサポートや個人の状況は身体的側面,インフォーマルサポートは心理的側面・社会的側面・物質的側面,個人の状況は物質的側面・生産的側面に関連していた。
      A島の高齢者のQOLには,良好な身体的健康,血縁関係を基盤としたネットワークやインフォーマルサポートの維持,高齢者自身の能力活用が関連していた。
  • 片山 泰佑, 籏持 知恵子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_57-5_66
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      【目的】C型慢性肝炎患者のIFN療法の開始にかかわる意思決定における患者や他者の意見の反映度と,治療開始の意思の有無と治療に伴う利益および負担の認識の関連を明らかにすることを本研究の目的とした。
      【方法】質問紙と診療録調査を行った。
      【結果】分析対象者89名の治療開始の意思決定には,治療群・未治療群とも患者本人の意見が最も反映されていた。IFN療法の開始にかかわる要因について,単変量解析では治療の副作用に対処できると思った患者は治療群に有意に多かった。多変量解析では,治療開始の促進要因は同居家族があること,通院時間が短いこと,疾患に関する情報源としてテレビや新聞を利用していないこと,治療により疾患が治癒すると思うことであった。
      【結論】C型慢性肝炎患者自身がIFN療法を正しく評価し意思決定できるよう,治療効果に対する患者の認識の確認や副作用への対処に関する情報提供を看護師が行う支援体制の確立が必要であると考える。
  • 梶谷(柴) 麻由子, 内田 宏美, 津本 優子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_67-5_74
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      中堅看護師のセルフマネジメント能力の特徴とその関連因子を明らかにすることを目的に,女性中堅看護師(経験4~10年目)564名に無記名質問紙調査を実施した。使用した自己管理スキル(SMS)尺度は因子分析後,下位尺度化し,SMSと心の健康,職業的アイデンティティ,社会的スキル,ソーシャルサポートとの関連を分析した結果,中堅看護師のSMSは『問題解決行動』『情動のコントロール』『前向きな姿勢』の3因子構造で,先行研究と類似の因子構造だった。成人女子では低い『情動のコントロール』の得点が,中堅看護師は高かった。SMSと他の因子間にそれぞれ弱い~中等度の相関が,社会的スキルと職業的アイデンティティおよびソーシャルサポートの各因子間に中等度の相関がみられた。中堅看護師のセルフマネジメント能力は,社会的スキルと職業的アイデンティティとソーシャルサポートが相互に作用し合うことで充実していくものと考えられる。
  • 榎本 聖子, 松下 祥子, 河原 加代子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_75-5_85
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
    【研究目的】本研究の目的は,糖尿病児童生徒への支援の現状を分析することである。
    【研究方法】埼玉県の公立学校に勤務する養護教諭997名を対象に質問紙調査を行い,451名の有効回答を得た。質問内容は,①糖尿病に関する専門知識と低血糖リスクへの判断,②学校での支援の実際,③医療機関との連携等であった。②と③は,強化インスリン療法一般化以降の指導経験者204名を対象にした。
    【研究結果】1)養護教諭は,糖尿病に関する基本的な理解はできていたが,長期合併症やヘモグロビンA1cに関する知識は不十分であった。2)専門知識,指導経験をもつ養護教諭は,低血糖リスクに対してより適切な判断をしていた。3)養護教諭と看護職とのかかわりはほとんどなかった。4)医療的ケアの実施を依頼された経験のある養護教諭は指導経験者の11~15%で,そのうちの一部は同意していた。5)看護職と養護教諭との協働は,学校における支援の質の向上につながる,と考えられた。
  • 木村 克典, 松村 人志
    2012 年35 巻5 号 p. 5_87-5_96
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      精神科入院病棟の看護機能を高めるための方策を追究することを目的に,われわれの先行研究をもとにアンケート調査を行い,全国の私立精神科病院に勤務する看護師406名から有効回答を得て,結果を共分散構造分析にて解析した。結果として得られたパス図は適合モデルと判断された。モデルは,看護スタッフ間の相互理解の促進が,現在さまざまな葛藤を抱えている精神科看護の機能の活性化のために重要であることを示していた(パス係数= .91,p< .001)。しかし看護機能の問題が原因となって看護スタッフ間の相互理解を阻害しているわけではなかった。看護機能の問題の解決は,他職種との関係の向上や患者の退院環境の改善にも役立つことが示された。また,看護の問題を解決することと患者を尊重することとは相互に促進的であった。さらに,現行の規則・法律が看護現場の現実と乖離していることの解決も看護機能を向上させることが示唆された。
  • 渡邉 久美, 野村 佳代, 國方 弘子, 折山 早苗, 村上 礼子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_97-5_104
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は,一般訪問看護師による精神疾患をもつ療養者とその家族との援助関係の形成に向けた方略を明らかにすることである。精神疾患をもつ療養者の訪問を継続する一般訪問看護師10名を対象に半構成面接を行い,M-GTAによる分析を行った。方略として【精神科看護モードへの切り替え】【言動にあわせた対応】【関与の糸口の模索】【保清ケアの流れの引き寄せ】【支援要請への速やかな対応】【かけ込み寺としての存在】【家族との協働による探索ケア】【つかみきれないなかでの寄り添い】の8カテゴリーの接近法が抽出され,コアカテゴリー『防御ラインを察知した段階的接近』が導かれた。防御ラインは順に〈保清ケアによる身体接触〉〈家族の関与〉〈人々の関与〉であった。一般訪問看護師が利用者の防御ラインを見極め,段階を踏んで越えることを目標とすることで,援助関係の形成につながることが示唆された。
  • 吉川 千鶴子, 中嶋 恵美子, 須崎 しのぶ, 山下 千波, 川口 賀津子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_105-5_115
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      eラーニングを活用した看護技術教育において,学生の学習活動や学習評価の実際,およびそれらの相互の関係性を探ることを目的とした。看護学科2年生97名を対象に,Moodleを利用して対面授業とeラーニングを融合させたブレンディッドラーニングを行った。システムのアクセスログに基づく利用状況,教育方法・教材としての質問紙調査に基づく学生の自己評価,および試験等に基づく学習評価の実際を明らかにし,相互の関係性を検証した。その結果,ブレンディッドラーニングは,対面授業の前後の予習・復習,動画の視聴など授業時間外での学習活動を可能とすることが学生に肯定的に受け止められた。学習評価との関連では,アクセス数と総合評価得点はr= .408(p< .01)で中程度の相関がみられ,アクセス数と実技試験得点はr= .26(p< .05)で弱い相関がみられた。教材利用度は総合評価得点との間でr= .257(p< .05)で弱い相関がみられた。
      本研究は相関関係研究デザインにとどまるため,因果関係を直接論じることはできないが,本授業におけるブレンディッドラーニングは,学生の学習活動を促進し,学習評価を向上させる効果が期待される。
  • 渡邊 生恵, 杉山 敏子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_117-5_128
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
    目的:患者と看護師における療養環境評価の視点の特性を明らかにする。
    方法:一般病床入院患者20名と同病棟看護師20名に対し,評価グリッド法を用いて入院環境についての評価を調査した。
    結果:①看護師は患者に比べ評価する項目が多かった。②患者は多床室でプライバシーを保ちつつ他者とかかわれる環境,看護師は家族とのプライバシーを重視していた。③患者は細かな生活のしやすさを評価していたが,看護師は安全性を評価していた。④患者は自分の必要性にあった環境が整っていることを評価していたが,看護師はすべての患者に同じレベルの環境が提供され,家よりも高い快適性であることを評価していた。
    結論:看護師による環境評価には基礎教育および臨床での経験が反映されており,患者間のエンパワメント効果や日常生活の送りやすさという患者の視点を加えることで,より一層患者の求める環境を提供できる可能性が示唆された。
  • ─ 対象論文を和文献に限定して ─
    八尋 陽子, 中井 裕子, 東 あゆみ
    2012 年35 巻5 号 p. 5_129-5_136
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は,2002~2011年に日本国内で発表された外来がん化学療法を受ける患者の心理的側面に関する看護研究を概観し,今後の課題を明らかにすることである。文献は60件が該当し,質的研究が40件,量的研究が19件,混合研究が1件であった。調査対象者は,疾患別,治療回数,治療時期,投薬方法などに分類された。文献内容は,外来がん化学療法を受ける患者の体験,外来がん化学療法を受ける患者が抱える心理的問題,外来がん化学療法を受ける患者のエンパワメント,外来がん化学療法を受ける患者のニーズ,外来がん化学療法を受ける患者・家族への影響,の5つに分類された。今後は治療経験や治療内容の違いによる患者の心理的側面を考慮した看護介入,患者が治療や病状に対する認知が広げることができるような介入,患者と他者との関係が維持できるような支援,患者・家族への情報提供のあり方と相談機能の充実が必要だと考えられた。
  • 本多 容子, 阿曽 洋子, 伊部 亜希, 片山 恵, 田丸 朋子
    2012 年35 巻5 号 p. 5_137-5_144
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2016/03/05
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は,『転倒予防教室』で運動前に実施する足浴が,足部に関連する転倒リスクに与える影響を検証することである。方法は,『転倒予防教室』で毎回足浴を実施する足浴群と実施しない転倒群を設定し,教室初回と最終回に足部機能を測定し比較した。また教室終了3か月後に,電話にて転倒の有無と歩行状況についての調査を行った。転倒リスクの評価指標は,足関節背屈角度と足底荷重最大値および歩幅であった。
      結果は,教室初回と比較して最終回に,足浴群の足関節背屈角度,足指部の荷重最大値,および歩幅が有意に改善していた。3か月後の電話調査の結果,対照群では歩行状態が悪化した被験者が3名いたが,足浴群では0名であった。結果より,運動前の前に足浴を行うと,足浴を行わなかった場合よりも足部に関連する転倒リスクが軽減することが示唆された。このことから,運動前の足浴は転倒予防に活用できる,と考えられる。
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